34話 シビレソウ
「なるほどな……」
「どうしたの?」
「なに、なんか分かってきてさ」
俺たちは民間会館に無事に侵入に成功した。しかし、実際に侵入してみるも、民間会館の中はその外見とは大きく違うものになっていた。外から見れば木で作られているのにも関わらず石で出来ていたり、中の広さなどがおかしいのだ。先には奥に繋がっているであろう道がある。魔物はもちろん罠もあると思っていいだろうな。
「木原、もちろんこの建物の中はこんなんじゃなかったよな?」
「はい、こんなにも大きくて石作りではなかったはずです。恐らく、敵の能力者のせいかと」
「……」
敵の結界を張っている能力者だが、奴はただ結界を張るだけではなく、空間にも干渉できるのか。前に闇の魔法使いも使ったダンジョンクリエイトに似ているな。しかも、この村に入ってきたときから感じてたが……。
「この空間や村を囲っている結界だが、反転世界と酷似しているなと思ってな」
「やはり、それで魔物が現実世界にも……」
「恐らく」
反転世界にも魔力が存在しているようだが、その魔力は異世界でも感じたことはなかった。まぁ、魔力というのは各ものでかぶったりは滅多にないものなんだけどさ。
しかし、その能力と反転世界との性質が似てるのは偶然か。そしてあの反転世界と関係は……。
「ともかく、先へ進みましょう」
「ああ」
俺は敵のことを考えながらも、木原と共に彼女の仲間たちが捕らえられている部屋を目指して歩き始めた。
「待ってくれ」
「どうしたんですか?」
「その先の部屋から魔物の気配がする。戦闘の用意を頼む」
「分かりました」
木原は俺の声を聞くと、能力を発動してその姿を変えた。Cランクの魔物であるワイルドキャット、見た目は猫だが人間以上の嗅覚に身体能力、さらに鋭い爪は鉄さえもスライスできるほどの力を持っている。
「ワイルドキャットか」
「あっ、やっぱり知ってましたか。この周辺によく出る魔物なんですよ。そういえば最近、魔物の名称がつき始めてるのって遠藤さんのおかげなんですよね」
「ああ」
あの地獄の作業を思い出す。まったく、大変だったぜ。
「ああー、夜に群れで出たりするとホントに面倒なんだよな」
異世界で奴らにあった時はひどい目にあった。寝てる時に荷物あらされたり、攻撃して来たりして。幸い、師匠がその場にいたからなんとかなったが……。
「他にはどんな魔物に変身出来るんだ?」
「でもやっぱり出会った魔物が少ないので種類は少ないですよ」
「じゃあ、さっきの魔物には」
「もちろん出来ます。ただ私は速い方がいいんですよね」
俺的には速さも分からなくもないんだが、やっぱり命を大事に派だ。まあ、そこは人それぞれだしな。
「Aランクはともかく、Bランクの魔物に出会ったことは?」
「えっと、Bランクにはあります。金色の馬で」
「ラッキーポ二ーか」
懐かしいな。ラッキーポニーはその名の通り、珍しい馬だ。金持ちの間では持ってることが大きなステータスになったりしていた。もちろん。Bランクで危険ということもあり、厳重な管理が求められたが。
「へぇ、その馬は幸運を呼び寄せるなんて言うんだぜ」
「幸運……。でもあの魔物に変身すると丸一日寝込んでしまうんです」
「なるほど」
これはAランクに変身させたらどうなるか……なんて考えなくても分かる。
「とりあえず、向こうの部屋の魔物は複数。出来るだけ離れないように戦おう。残念だがなんの魔物なのかまでは読み取れないな。合図で突っ込む」
木原は俺の言葉に静かに頷く。俺はカシウスを取り出し、身体強化を再び掛ける。
身体強化……『参』
ここまでの戦闘、そして先にあの男……山本が待っているとなるとうかつに高い身体強化は使えない。さらに俺は奴に傷つけられた左腕を見る。軽く止血したが、同じところにまた攻撃を受けたら傷が広がるので注意しなくてはならない。あれが使えればいいんだろうが……。
ともかく、準備はできた。
「行くぞ!」
「はい」
俺の合図と同時に俺たちは目の前の部屋に特攻していった。
「はぁ……」
「溜息を吐きたいのは分かるんですけど、行きますよ」
「はいはいっと」
部屋に入るとそこにいたのはシビレソウという肉食植物のような外見をしているCランクの魔物だ。奴の特徴といえば毒を持ってないが奴の溶解液はもろに受けると体が痺れてしまう。奴はそこで痺れた魔物を大きな口で捕食する。
さらに単体ならまだしも複数。それも二十体はいる。一瞬、レッドドラゴンの時のようにカシウスの光で吹き飛ばそうとも思ったが、魔力の消費が激しいし、なおかつこの空間が崩れる可能性もある。それに捕まっている人たちがどこにいるのかも分からないしな。
「そらよ」
「ギャー」
俺は力強く踏み込み、加速する。同時にカシウスも振るう。その攻撃は見事に三匹のシビレソウに直撃し、まとめて真っ二つになる。
「はっ!」
俺は流れるように奴等を狩っていく。集団戦においていけないのが不用意に止まることだ。囲まれるなんてよくあることだ。そこから頭も体もフルで動かし、うまく戦っていくかが重要である。
すると二体のシビレソウが俺の後ろに回る。だが、直ぐにそのシビレソウたちは切り殺さされた。
「本当に多いですね」
「ああ。気を抜くなよ、動きを止められるぞ」
「はい」
シビレソウは動きはそこまで速くないが、特性によって集団戦は厄介だ。今度は五体のシビレソウが俺らを囲んで、一斉に溶解液を吐いてくる。俺は動揺せずに対処をする。あえて前に出て、溶解液をぶった斬ったのだ。さらに木原が俺の動きを見た後、奴らに追撃を行う。
こうして数はどんどん減っていく。
「ふぅ」
頭や体を動かしながらも、自らを冷静にさせるのは怠らない。俺はうまく残りのシビレソウを一か所に集めるようにうまく誘導していく。
「決めるぞ」
「分かりました」
その瞬間、俺と木原は駆ける。俺はカシウスを、木原はその大きな爪で集まったシビレソウたちに大きな一撃を与える。奴等は抵抗むなしく、黒い霧となり消えていった。
「やっぱ、Cランクも群れると大変だな。というか次はBランクが出てきそうだな……流れ的に」
「最悪ですね」
「それでも進むんだよ」
ここまで引き返すなんて選択しなんてものは存在しない。結界突破はきつそうだし、外には魔物も大量にいそうだしな。
俺たちはこうして先に進んで行った。




