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帰還勇者と超能力者  作者: 厨二王子
三章 忍びの村と動き出す者たち
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32話 剣劇

「横に跳べ!!」


「……っ」


 俺は反射的に隣にいる木原に声を掛ける。木原は突然の俺の指示に驚くも、慌てて右に避けた。そして彼女のいた場所には大きな斬撃が通る。

 俺は小声で木原にあることを提案する。


「木原、姿を隠しやすい動物に変身することは可能か?」


「えっと……リスとかなら」


「なら、頼む。それで変身して先に中に行ってくれ」


「でも、遠藤さんは……」


「俺は大丈夫だ。すまんがあの相手に慣れないコンビネーションは通用しない」


「……確かに私は戦闘向けではないですし。分かりました、ご武運を」


「おう」


 木原は俺の言葉を聞くと、姿をリスに変えて村の入り口に向けて走り出す。俺は目の前の敵ががこれを阻止してくると思い構える。しかし……


「何もしないんだな」


「……あんな小娘一人問題ない」


「そうかよ」


 俺は冷や汗をかきながら奴に言葉を返す。実際に今の瞬間、奴が動いたとして俺は反応出来ただろうが、唯では済まなかっただろう。しかしこちらも、唯ではやられないが。

 俺はソウルブレードをリングから出して構える。奴の鋭い眼差しが俺を射抜いた。


「ほう、その構え。先ほどの反応といい、そなたが例の元勇者か……」


「どうも、例の勇者です」


 この任務を受けるとき、嫌な予感は少ししたが。ここまでの敵が現れるとは予想外であった。いや、そもそもこの世界にこのレベルがいることさえ予想外だったのだ。だが決してこの世界の超能力者たちをなめていたわけではない。このレベルは何十年も過酷な戦争や戦いを生き抜いてきた者が至れる領域。そんな者は向こうの世界でさえ少数だったのに、ましてや向こうより平和な世界であるこの世界で遭遇しようとは。

 では逆に魔法使いはどうかと言われれば奴らに関してはまた別のものを感じ取った。あのメランも同じく。魔法使いは基本、大きな戦いで前へは出ない。もし、出るとしたらそれは相当に追い込まれている時だ。そんな訳で奴らは彼ら自身が強いのではなく、その魔法が強い。まぁ、肉体派の魔法使いがいればまた違うんだろうが、俺は会ったことはない。故にまた感じるものも違うのだ。


「……」


 男が無言で刀を振るう。そこから斬撃が生み出される。先ほどと同じく地面はえぐれて俺の元に向かう。俺は上に跳びその斬撃を避ける。そのまま俺はソウルブレードで奴に切り掛かった。敵の刀と俺のソウルブレードが交差する。


「はっ」


「ふっ」


 繰り返される両者の剣劇。俺は一歩も引くことなく、相手の攻撃を迎え撃つ。しかしそれは相手も同じ。俺はさらにもう一段階ギアを上げた。


 身体強化……『肆』


 俺はさらに加速し、動きだけではなく力も強くなって剣の振るうスピードも上がる。敵は感嘆の声を漏らす。


「ほう、だが……」


 しかし、それでも俺が有利になることはなかった。向こうもさらにギアを上げる。


「マジかよ」


「はっ」


 とてつもなく重い一撃が俺を襲う。俺は足を踏ん張りその一撃をソウルブレードで受止める。しかしそれでも後ろに飛ばされる。


「がっ」


「……」


 敵はゆっくりとだが俺に近づいて来る。俺は体勢を戻した。


「はぁはぁ」


「貴殿……何故、本気を出さない」


「……っ」


 俺は相手の観察眼に舌を巻く。まぁ、このレベルなら気付くはな普通。

 俺は仕方なしにソウルブレードをしまい、カシウスを取り出す。すなわち、それは俺も相手を殺す覚悟を持って相対するということだ。身体強化の上限のこともあると思うがそれは開放出来てないので仕方ない仕方ないことだろう。この敵はそれほどまでということだ。


「ふん、少しはましになったか」


「全力だせなくて悪いね。というかオタク、全力で戦いを楽しみたい派の奴か……」


 俗に言う戦闘狂という人種だ。


「いかにも。……おっと、拙者としたことが名乗るのを忘れていたな。拙者は山本武蔵と申す」


 なんか、突っ込みたい名前だ。しかし、向こうが名乗ったのならこちらも名乗るのが道理だろう。


「俺は遠藤龍太だ。元勇者だ、短い間だが、よろしく」


「ではいざまいる!」


 山本が高速で踏み込み、切り込んでくる。俺はその切り込みを冷静に見て、右に跳ぶ。さらにそこからステップして、前進。そのまま奴に切り込んだ。奴はそれを楽々と受け流す。


「ちっ」


「そら」


 山本は刀をさらに三回たてに振り、三つの斬撃を飛ばす。しかも俺の逃げ場を塞ぐようにだ。俺は舌打ちをするも、打開策を直ぐに見つけて実行する。


「はっ」


「なぬ」


 俺は回転するように剣を振り、斬撃を全て斬り落とす。さすがに相手もこれは予想外らしく、驚きの声をあげた。


「はっはっは、まさか拙者の斬撃を斬るとは」


「本当にあんた強いな……」


「貴殿もな」


 出来ればもう一段階ギアを上げたいところだが、任務もまだ序盤。出来ればまだ力を残しておきたい。

 そして俺は敵の力を自分なりに分析する。奴の剣の強みは人を殺すのに極めた剣だということだ。その証拠に先程の剣劇も俺の首や心臓。急所を狙うところが多々あった。まさに殺人剣。まったく恐ろしい限りだ。しかし、そんな相手とも異世界で戦ったことがある。こういう時は敵の攻撃を恐れて相手の攻撃を受け過ぎず、自分もそれ以上に攻めることが重要だ。

 さらに奴が超能力者なら能力がある。

 俺は一度深呼吸をして、熱くなってる頭をクールダウンさせる。


「ほう、雰囲気が変わった……いや、落ち着いたか」


「常に冷静になれと、師匠の教えでね」


「さぞかしいい師匠だったのだろうな」


「まぁね!」


 俺は今度は下から切り上げるようにカシウスを振るう。山本は体をすらっと軽くずらしギリギリで避ける。俺は強引に前に踏みだして上げたカシウスを振り下す。


「少々強引ではないか」


「ごり押しで」


「ふん!」


 山本はまたも俺の一撃を弾く。しかし、会長の時も思ったが刀とは厄介なものだ。俺のカシウスよりリーチは長く、しかし細い。それでも技量が良ければどんな大剣や重い一撃も受け止めることができて、さらに刀特有のしなやかな剣技もある。異世界には文化の違いで刀はなかったから、少しやりにくい。

 ならば……


「もっと速く動くだけさ」


「そうでなくては」


 山本は静かに笑うと同時に奴もさらに刀の振るうスピードを上げる。


 まったく、この男はどこまで……。


 もはや俺は心の奥で溜息を吐く。そして両者が加速したことにより、剣劇も比例する如く加速する。連続で拳を放つと呼吸が困難になるというが、この剣劇も同じ。そんな苦しい中、俺の耳にキーンという音を拾った。


「なにが……がっ」


 俺が疑問を感じた瞬間、俺の左腕から血が噴出する。


 まさか……。


 俺が混乱する中、目の前の男は不敵に笑っていた。


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