29話 現状
新章開始です。今回は章のプロローグ的なものなので少し短いです。
それとブックマーク400超え、総合評価も1000超えました。感想や評価をくれた方々もありがとうございます。これからもぜひ帰還勇者と超能力者をよろしくお願いします。
人気のない山の中、俺は無数にある林を掻き分けながら進んでいた。時間は夜。つい数時間前まで普通に学校に通っていたのになぜこんな状況になっているのやら。しかしこの状況、グランシウスを思い出す。
『師匠、み……ず」
『山の中で探すんだな。はっはっは』
『……』
この後、魔物に追われながら必死に水を探したんだっけ。懐かしい思い出だ。
俺はじご……懐かしい記憶を思い出しながら、さらに先に進んでいく。目の前の林が突然ゆれる。俺は思わず体が硬直するが、そこから現れたのは野生のタヌキ。気配で敵でないことは分かっていたがこの雰囲気で驚いてしまった。
さて、俺が何故こんな夜遅くに山奥にいるのか、それは数時間前の支部長の発言にまでさかのぼる。
「村が襲われたって……」
「しかも例の組織か」
『部下からの報告での。村の者の能力者がぼろぼろになりながらも、報告に来てくれてのぅ』
「村が襲撃されたのは昨日ですか?」
『そうじゃ』
幸い襲撃からそれほど日は経っていないが、それでも一日経っている。その村にいる能力者がどれだけ強いか、なにより魔神教団の強さなど分からないが、それでも多くの被害者が出ているはずだ。
「他に情報は……」
『うむ。襲撃者は指揮官らしき人物が三人、それ以外に多くの魔物を従えていたそうだ』
「魔物を操るだと……」
レッドドラゴンの時もそうだったが、敵はなにかしらの魔道具でも所持しているのだろうか。いやそれ以上にそういうことが出来る能力者がいると思う方が自然か。
俺が敵の能力について考えている間にも、支部長の話は続いた。
『今まで表だって動かなかった影響もあり、こちらの支部も混乱状態での。それで各支部長で緊急会議をすることになった』
「やっぱり、参加するのは私と凛ね」
「お供します」
会長の声に凛が答える。すると、支部長が俺の方に向く。
「んっ、どうしました?」
『遠藤君、君に頼みがある』
頼みねぇ……。なんか嫌な予感が。
『君に現地の視察を頼みたい』
「ちょっと、支部長!」
『無理な発言をしているのは重々承知だ。そのうえで頼んでいる』
「もちろん、俺一人ですよねぇ~」
『……』
「なるほど」
支部長が無言で頷く。それほどまでに混乱しているらしい。ていうか、大丈夫なのか国家機関。
というか……
「皆、自分の命……いや、この場合は支部か。そちらの警戒で定いっぱいなのか」
『……その通り。しかも、タイミングが悪く、本部の腕利きたちも任務で出払ってていてな。現地に派遣できる能力者がいないという状況での』
「大ピンチじゃねぇか」
『返す言葉もない』
俺は話を聞き、しょうがないなと返事をしようとすると、佐藤が抗議の声をあげた。
「おい、なら俺だって」
「ばか、そしてらこの支部は誰が守るんだよ」
「くっ……」
佐藤は悔しそうな表情をしながら、一歩後ろに下がる。俺が現地に行く理由として恐らくもっとも大きな理由は敵の戦力が未知数なところだろう。そこのところから、この支部で一番実力がある俺が選ばれたんだろうな。
「ということで、俺が行く」
『本当にすまない……』
「貸し一つ」
「私からもお願いするわ」
会長も支部長に続き、頭を下げてくる。
「まぁ、任せておいてください。でも、自分の命を最優先にしますんで、救助の方は期待しないでください」
「それはもちろんだ」
「了解。今すぐに向かうんで場所のデータ送ってくれ。服部も心配だし」
服部も昨日の夜か今日の朝に襲撃を知ったとして、もう村に着いている可能性がある。やはり、急いだほうが良さそうだ。
俺が準備に取り掛かると、加藤が俺の裾を掴んでくる。どうしたのだろうか?
「どうした、加藤」
「いや、ちょっとね」
「予言か……」
最初に加藤が見たのは黒い巨人だったか、見当もつかないが。
「黒い風……」
「黒い風?」
「うん。あと、鳥だったかな。ともかく、嫌な予感がするの。気を付けて」
「ああ」
黒い風、鳥ねぇ。魔物だろうか。そんな魔物いただろうか。
俺は直ぐに準備に取り掛かる。親にも適当な理由を付けて伝えなくちゃな。
「ということで、私と凛は本部。蓮と幸一、茜はこの拠点の防衛。龍太は現地の視察。奴らがここに来るか分からないけど、レッドドラゴンの件もあるわ。蓮たちも気を抜かないいでね」
「了解です」
「……うん」
「私も精一杯、頑張ります」
「ええ、お願い。ともかく、みんな無事にこの部屋に集合しましょう」
『了解です』
皆の思いが一つになる。さて、俺もいっちょ動きますか。
こうして俺は一人、目的地の村まで向かうことになった。
「しかし、遠いとは思っていたが長野だったとは。おかげで時間が掛かってしまった」
途中まではバスか電車を使ってい、最寄りの駅からは山登りを含め徒歩だ。地味に疲れる。
「支部長の話とおりならこの近のはず……んっ!」
俺は突然の雰囲気の変化に後ろに跳ぶ。この感じは魔力。
理由は分からないがある一定のラインから濃い魔力が漂ってきているようだ。それもこの属性は……。
一瞬、加藤が言っていたことが頭を過る。黒い風、あれは魔力のことだったのだろうか。
俺が濃い魔力が漂っていると思ったのには他にも理由がある。強い魔力は植物にも影響を与え、枯らすという特徴がある。現に周囲の木や草が枯れていた。
「ここからは慎重になっ……これは!?」
俺は空から人の気配を感じて驚く。とにかく、俺は敵の可能性を考えてソウルブレードを展開しようとするが、敵の攻撃は一向に来ない。
しかし、なにか落ちて来る。これは……。
「なっ……」
俺は思っていたのとは違う事態に驚くが、直ぐに頭を切り替えて身体強化の魔法を発動する。
身体強化……『弐』
俺は加速し、その落下地点に向かい、無事にキャッチする。
「まさか、こんなことになるとは予想外だ」
そう、なんと落ちてきたのは敵の攻撃などではなく……
まさかの美少女だった。




