27話 キングゴーレム
「ほんとに恐ろしいな。元勇者殿」
「それはどうも」
「ちなみに、このまま平和的に帰らせてもらうことは……」
「出来ると思うか?」
「ですよね」
俺と闇の魔法使い……メランがお互いに笑い合う。しかし、奴の笑いには余裕がなかった。
「さてと、お前には聞きたいことが山ほどあるんだよ。まず、どこで俺のことを知った?あの魔法の発動条件は実際に目にしたことのある光景でなくてもいいが、その光景や人物についてある程度知っていることが必要のはずだ」
「さて、なんでかな。しかし、さすがだね。あの魔法……メモリークリエイトについて知っているなんて」
「お前こそ、あれをあそこまで完璧に使えるなんてさすが闇の魔法使いだな」
「最上級魔法だからね。僕でもあれをリスクなしで使うのは無理だよ。実は僕も今回この魔法を使うのは気が進まなかったんだ。魔女の頼みだから仕方なくね」
「魔女ねぇ。俺のことをここまで詳しく知っているとなると向こう側の奴。さらにお前ほどの魔法使いとなると大体そいつが誰か絞れてくるな」
「あっ、これはバレル流れですね。彼女もお気の毒に」
「じゃあ、そろそろお前を倒すか」
「それはまずい。仕方ない、やってくださいキングゴーレム」
キングゴーレムは動き出す。しかし、俺は貫いた右腕は元通りになっていた。さらに俺はやつの胸についているある紋章も見て確信する。この魔法使いは間違いなく、異世界であるグランシウスと繋がっていると。しかも俺の予想通りならメランがいっていた魔女という女は……。
俺が考えているとキングゴーレムの拳が俺に向かい放たれる。しかし、その拳は大きな炎と風に止められた。
「おら、感謝しろよ遠藤!」
「無事ですか、会長」
「皆、大丈夫!?」
「……到着」
桜川支部の残りのメンバーが集結した。メランの顔が青くなる。
「くっ、全員来てしまいましたか」
「これで七対二だぜ」
「魔力を使うのでやりたくはなかったのですが……」
メランは溜息を吐くと、手に黒い球体を出現させそれをキングゴーレムに投げた。キングゴーレムはそれを吸収して体の色が黒色に変色する。
「狂化か……」
「ええ。ということで私はおさらばさせてもらいます」
「くっ」
「妹君、また会いましょう。では……」
メランは最後に一言告げると、一瞬で姿を消した。消える瞬間、奴の手元に白い球体があったことからアイテムによる転位だろう。俺はあれを転位前に壊そうとしたがキングゴーレムに邪魔をされてしまった。大きな原因としてはキングゴーレムが狂化の魔法で戦闘力が大きく増えていたからだろう。
「会長、どうする?」
俺は会長に指示を仰ぐ。会長は俺たちと向かい合い、突然あたまを下げた。
「ごめんなさい。皆を危険にさらしてしまって」
「会長が謝ることはないですよ」
加藤の言う通りだ。これは油断していた俺らの落ち度でもあって、会長だけが責められる道理はない。まぁ、このメンバーにそんな奴はいないけどな。
「ありがとう」
会長は笑顔で答えると、表情を切り替えた。
「じゃあ、作戦を説明するわ。標的は見ての通りとても大きい。しかも、さっき龍太が壊した腕も元通りになってる。恐らく、再生できるのではないのかしら?そこのところはどう、龍太」
会長は俺がこいつを知っているだろうな的な目で見てくる。他の皆もしかりだ。俺はキングゴーレムの特徴について説明を始める。
「皆が思っているように俺はあのキングゴーレムについて知っている。あれはこないだ倒したレットドラゴンと同じAランクだ」
『……ッ』
皆がある程度に予想していた奴もいただろうが驚いた。
「このゴーレムは会長の言う通り、ある部位以外を攻撃すれば再生するようになっている」
「ある部位ねぇ」
「逆をいえば、その部位を破壊すれば倒せるということか」
「その通りだ」
霧島の言う通り、キングゴーレムには絶対的な弱点がある。それ故にAランクの中でも危険度は低い。
「その部位はあの紋章の裏側にある核だ」
俺が指で刺したのは俺が何度も見てきたことのある紋章の部分。そう、ガルシア共和国の紋章だ。
「よし、そうと分かれば俺が燃やしてくるぜ」
「蓮、止まって」
「会長……」
佐藤はキングゴーレムに飛び込んでいこうとすると、会長に止められる。
「でも、あの部分は堅そうよ」
「ああ、だからあれを倒すのは相当の武器や魔法がいる。しかも、あいつはメランが狂化を掛けてくれたお陰で魔法などが利きにくい状態になってる。壊すんだったら俺か会長だな」
「……」
会長は自分の新たな相棒を見る。それは以前見たときと同じ黒色だったが、前の黒色より穏やかに感じた。
「私がその核を壊すわ」
「そうか……。まぁ、俺もそろそろ強化が解けるかもしれないし、会長は瞬間移動できるしな。じゃあ任せたぜ」
「ええ」
会長は刀を抜きながら頷く。そしてそのまま指示を出した。
「蓮、彩、凛はそれぞれ攻撃をしてキングゴーレムを混乱させて。幸一はこのまま攻撃を防いで」
「「「「了解」」」」
「あの、会長。私は……」
「茜もいつも通りに治療をお願い。下がってきた人のね」
「了解です」
加藤は元気よく会長に返事をする。まったく、元気な奴だ。
「んじゃ、俺は邪魔な部分でも切り落とすかな」
「頼んだわよ」
「そっちこそ、しっかり決めろよな」
「もちろん」
会長に声を掛けると俺は再び、キングゴーレムと向き合う。
「さて、始めようか!」
俺はその一言を呟くと、キングゴーレムに向かって走り出した。
キングゴーレムと桜川支部との戦いが始まった。幸い、身体強化の魔法はあと数分は続く。さらに皆の様子を見る限り、短期決戦が望ましいだろう。
「佐藤、あの目元を狙え。そうすれば少しは動きが鈍るはずだ」
「ちっ、分かったよ」
佐藤は少し俺からの命令でイライラしながらも、しっかりとキングゴーレムの目元に炎を飛ばす。それは見事、奴に命中した。
俺はその瞬間を見逃さず、そのままキングゴーレムに突っ込む。するとキングゴーレムはこちらに岩を放ってきた。恐らく土魔法だろう。
「はっ、おらぁ!」
俺は思いカシウスを振りかざし、岩を切り裂く。続いて、キングゴーレムは細かい石を放ってきた。俺はそれを舌打ちしながら避けようとする。
しかし……
「風よ!」
俺の前に一筋の風が舞う。キングゴーレムが放った石は一つ残らず空間の隅に飛ばされた。
「ふん、余計なお世話だったか?」
「いや、ナイスフォローだぜ」
俺は笑顔で霧島に答えると、さらに加速する。ついに俺はキングゴーレムの目の前に到達した。そもそもゴーレムには意思というものが存在しない。こちらの世界でいうロボットのようなものだ。俺自身、こいつとの戦闘経験は少ない。
「とりあえず、動かれると面倒だ。足からいくか」
俺はキングゴーレムの足を横なぎに切り倒す。奴は避けることが出来ず、そのまま仰向けに倒れた。しかし、直ぐに奴足の再生が始まる。それはほんのひと時、まさに一瞬の速さで足は再生した。
キングゴーレムは立ち上がると俺の姿を探すために周囲を見る。しかし、そこにはいない。
「ふー」
俺は一息は吹いて心落ち着かせると、カシウスを構える。そう、俺は空中にいた。狙うはキングゴーレムの核を丸見えにさせる、中心から二つに分ける一撃。
『集中しろ。人間、集中したぶん力を発揮できるもんだ』
ディアナの言葉を思い出して集中し、カシウスに魔力を溜めていく。しかしその途中、何故かキングゴーレムは離れたところにいる加藤に標的を変える。
「なっ」
俺がその攻撃を防ごうと思い動こうとするが、カシウスに魔力を貯めていて動くことが出来ない。
しかし、俺の思いとは裏腹にキングゴーレムが放った岩は加藤に向かう。俺がダメかと思った時、加藤の前に一人の巨体が立ち塞がった。
「おらーーーーーー!」
今村だ。そして今村は吠える。彼のリングが発動すると、キングゴーレムが放った巨大な岩を防いだ。
……良かった。
俺はほっと胸をなでおろすと、キングゴーレムを再び見据える。そしてカシウスの魔力チャージが終わった。
「これで終わりだ!!」
俺はカシウスをキングゴーレムに振りかざす。するとキングゴーレムは真っ二つになり、中からその核が姿を現す。やはり俺の一撃では中の核ごと傷はつかなかったようだ。
後は彼女の出番だ。
キングゴーレムは急いで体を再しようとする。しかし、その速さでは彼女には追い付かない。
「決める!」
直ぐに会長がキングゴーレムの目の前に出現した。もちろん既に刀は構えている。その刀には黒いオーラが纏っていた。
「金城流剣術五の太刀……暗雲一閃」
彼女の凄まじい黒い一閃がキングゴーレムの核に直撃する。見事に核は真っ二つになり、やがてキングゴーレムは黒い粒になり消えていった。
俺は立っている会長に声を掛ける。
「終わったな」
「ええ、これで元の空間に帰れるのかしら?」
「たぶんな。どうやらあのゴーレムとその妖刀がキーになっていたようだ」
「そう……」
会長は自分の刀を構える。俺はふと気になったことを聞いてみた。
「会長。そういえば、その刀に名前はあるのか?」
「えっと、自分で付けたの。名前は……」
彼女は刀を撫でながら答えた。
ーーー闇雲と。
その瞬間、目的を失ったこの空間は壊れ始める。
こうして俺たちは元の世界に戻っていった。
この次で二章は終了です。




