24話 兄
最近文字数少なくて、申し訳ない。
「起きたかい。由香」
「お兄ちゃん?」
日差しが輝く朝、私は布団から目を覚ます。目の前にはいつも起こしに来てくれるお兄ちゃん……金城総司がいる。お兄ちゃんは私よりも十歳も年上で、父と同じ仕事をしている。とてもかっこよくて優しいお兄ちゃん。
でも……
「どうしたんだい?」
「えっ?」
「顔色が悪いみたいだけど」
いつも通りのはずなのに、私はなにか違和感を感じた。
「……大丈夫だよ、お兄ちゃん」
私はお兄ちゃんの心配そうな声に笑顔で答えた。
私の家は木の造りでとても大きく、いわゆる屋敷というものである。しかも、その屋敷の中にある建物もこの私のいる本館と呼ばれるところだけではなく、蔵や道場などがありとても広い。
そして我が家では代々金城流金術という剣術というものが伝えられている。父がその現当主だ。なので普段は朝、お父さんと一緒に剣の特訓をやるのだが、今日は父が不在のために稽古がなかった。なのでいつも六時に起きるところを七時に起きている。実はその時間に自主練をしようと思ったのだが、母に止められてしまった。
「そういえば、最近の由香の上達は速いなぁ」
「そんなことは……」
「俺が由香のときぐらいはまだ素振りだけだったぞ」
私とお兄ちゃんが横に並びながら、居間に向かっているとお兄ちゃんが話し掛けて来る。お兄ちゃんは剣道でも全国大会で優勝した経験を持ち、この家の剣術も次期当主ともいわれている。私と比べるまでもない。
「お兄ちゃんの方がすごいよ……」
「そうか?俺は由香の方が強いと思うけどなぁ」
お兄ちゃんは笑いながら私の頭を撫でて来る。私はそんなお兄ちゃんの顔を見つめながら言った。
「今日はお兄ちゃんも仕事だっけ?」
「ああ、夜からな。いつもの見回りだ」
「直ぐに帰ってくる?」
「もちろん」
昔からお兄ちゃんの笑顔をみると、何故か安心してしまう。もうあれは、魔性の笑顔だろう。
そして私とお兄ちゃんがそんな話を続けている内に、居間に着いた。居間には母と子供の頃から一緒のお世話係の近藤さんがいる。近藤さんは母と同じく和服を着ており、きりっとした人だ。この家で父以上に厳しい。でも、それ以上に優しい人だ。
「ああ、いい匂い」
「由香、総司、ご飯出来てるわよ」
母がいつもの笑顔で、私たちを出迎えてくれる。私とお兄ちゃんは定位置に座る。
「由香はゆっくり眠れた?」
「うん、いっぱい眠れたよ」
「そう、良かった。たまにはゆっくり眠るのもいいでしょう。じゃあさっそく、朝食を食べましょう」
「奥様、どうぞ」
「ありがとう、近藤さん。あなたも一緒に食べましょう」
「……はい」
皆が席に座ると、私たちはお馴染みの挨拶をする。
『いただきます』
今日の朝食は好物の卵焼きに、白いご飯、味噌汁、鮭というメニューだ。私はいつになく、テンションが上がってしまう。私は迷うことなく卵焼きに手をつけた。口の中に、甘い味が広がる。
「おいしい」
「そう、良かったわ。ほら、総司も食べなさい」
「分かってるよ。それより、親父は帰りが遅いのか?」
「いつも通りみたい。でも、戦闘がないから少し速いかも」
「そうか。例の件は……」
「総司、そのことは後で話しましょう」
「ああ」
「……」
この中の私だけはその話の意味を理解出来ずを聞いて首を傾げた。
「由香様、テッシュはしっかり持ちましたか?」
「持ったよ。子供じゃないんだから」
「まだ、小学六年生じゃないですか……」
近藤さんが溜息を吐きながら、私に言ってくる。もう、子供じゃないもん。
「近藤さんも大変だ」
「そういう総司様も昨日忘れましたよね?」
「あれ、そうだっけか?」
お兄ちゃんは口笛を吹きながら、近藤さんの話をごまかす。
「なんだ、お兄ちゃんもなんだ」
「ははは、そう言うなよ。にしても、由香はホントに元気だな。その元気を俺にも分けてほしいな」
「お兄ちゃんだって元気じゃん」
「……ああ、そうだな」
私は近藤さんの暗い顔にも気づかず、そしてお兄ちゃんは何故か寂しそうな顔をしていた。
時は過ぎ無事に学校が終わり放課後になると、私は一人ランドセルを背負って教室を出ようとする。小学生の私はお金持ち、少し大人びいてると思われ友達はいなかった。しかし、いじめは受けてない。それは私自身で撃退したのが大きいだろう。
『会長、会長!!』
「うっ」
私は突然頭痛が起き、床に膝をついてしまう。
今なにか声が……。
私がそこで考えていると、一部始終を見た私のクラスの担任が声を掛けて来る。
「大丈夫、由香ちゃん。保健室に……」
「大丈夫ですよ、先生」
私は先生を手で制すと、ゆっくりと起き上がる。
「そうですか。せめて、両親に」
「本当に大丈夫です」
私は先生にそう一声掛けると、校舎を出ていった。
帰りの通学路で家に帰る途中、後ろから誰かに声を掛けられる。そして私の周りには声を掛けてきた人と私以外おらず、この時の私ではこの異常な空間に気づくことは出来なかった。
「お嬢ちゃん、一人かい?」
私は声を掛けてきた男を見る。男はスーツを着ていて、ただこちらをにこやかに見つめていた。
私は警戒し、彼から一歩下がる。
「怖がらなくても、大丈夫だよ。僕は君のお父さんたちの知り合いさ」
「知り合い?」
私はこの言葉を聞いて、少し不覚にも安心してしまう。男はさらに近づいてくる。その時、聞き覚えのある声がこの場所に響いた。
「由香、そいつから離れるんだ!」
「っえ!」
この瞬間、私の目の前で明るい光とドス黒い暗闇が私の前でぶつかり合った。




