21話 罠
俺と会長、そして霧島は黒い犬の出現後、混戦状態に陥っていた。幸い、他の敵の姿は見えない。
「凛、射撃を頼む。龍太は私と共に奴らの前線を崩す!」
「「了解」」
俺と霧島は会長の支持に従ってそれぞれ動き出す。
敵は大体縦三列でこちらに襲い掛かって来ている。俺と会長は右と左側により、霧島が撃つことが出来る道を作り出した。
さらに、霧島のリング輝きだし、手元にはライフルより少し大きいくらいの銃が現れる。
「私が外すことは許されない……」
声が小さく何を言ってるのかうまく聞き取れないが、なにかのおまじないだろうか。すると、彼女の持つ銃口が輝きだす。そして少し時間が経つと、その銃口から出た光り輝く一閃が黒い犬たちを貫いた。
「すげぇな」
「彼女の射撃能力は支部一の腕前よ。それより、今の衝撃でこの迷宮が壊れないか心配だわ」
「それなら問題ない。この迷宮は魔法によるものだからな。使い手が死なない限り、壊れたり、消えたりしない」
「それなら大丈夫ね。彼女もまだ威力を抑えていたし」
「この威力でか?」
俺は彼女の射撃能力とあのリングの性能に舌を巻く。あの射撃の威力を出せるのはグランシウスでもそこまでいないだろう。具体的にいえば国の用心棒レベルだ。
「次の射撃までの時間は?」
「五秒よ。でも、次の射撃は必要ないでしょう?」
「まぁ、確かに」
俺の言葉を聞いた会長の姿が消える。会長は各黒い犬の死角に移動しながら奴らの体を真っ二つにしていく。俺も負けてられないな。
身体強化……『弐』
俺もまた加速する。黒い犬が三体、俺の周りから噛みつこうとするが俺は聖剣であるカシウスで薙ぎ払った。しかし、何匹か残ってしまう。
「後は任せて」
会長は俺に一言告げると、黒い犬から少し距離を離し、刀を構えた。
「金城流剣術……三の太刀『抜刀』」
会長が刀を抜くと、大きな衝撃破が出現する。相変わらず恐ろしい一撃だ。そしてその一撃は見事、黒い犬の集団を飲み込んだ。
「これで殲滅完了ね」
「周囲にも似たような気配は感じないし、そのようだな」
「私達の配置もこのままでいいでしょうか?」
「そうね。凛は引き続き後ろの警戒をお願い。龍太は私と同じく、前衛で」
「はいよ」
こうして俺達はまた先に進んで行った。
暫く歩いていると、目の前に部屋の入り口が出現する。俺はグランシウスでこういう経験は多かったのでそこまで驚かなったが、会長たちはすごい驚いていたな。
俺達はその扉に警戒しながらも、扉の前に止まった。
「罠ですね」
「でも、入るしかないわ」
「会長の言う通りだ。他に道もないし」
明らかに罠だと思われる部屋に俺たちは足を踏み入れる。するとテンプレの如く、扉は消えた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
「洒落にならないわよ、それ」
「だな……」
俺が溜息を吐きながら呟くと、なにか大きいものが何個か降ってきた。ものすごく現実逃避したい衝動に駆られるが、俺はしっかりとそれを目に焼き付ける。
降ってきたのは岩の塊。しかし、よく見れば唯の岩の塊ではないことが分かる。そして奴の赤い目が光った。
「ゴーレムか、しかも三体。ランクはBだ」
懐かしい思い出が蘇ってくる。よく、奴の体を何も考えず剣で叩いていたな。その後、師匠にこっぴどく叱られたが……。
「龍太は戦ったことある?」
「はい。多分、俺と会長じゃ奴等の体に傷をつけるのは時間が掛かるんで、霧島の射撃がいいかと」
「なるほど。凛、大丈夫?」
「いつでもいけます」
霧島が自慢の銃を持って答える。俺はある作戦を思いつき、彼女たちに提案した。
「会長、俺と二人でゴーレム達をうまく誘導させよう」
「もしかして……」
「霧島の一撃で三体を倒したい」
「それはあのゴーレムを直線上に三体配置するということでいいのかしら」
「ああ。これが迷宮な以上、この先に何があるか分からないからな。出来るだけ力は温存したい」
俺の言葉に二人は静かに頷く。そして霧島は早速、銃弾のチャージを始めた。
「チャージが長ければ長いほど威力を高める。それが彼女のリングよ」
「あのゴーレム達は結構からな。でもさっきの霧島の威力を基準とするなら、さっきの二倍はほしいな」
「問題ないです」
霧島は涼しい顔をして俺の質問に答える。まだまだ余力はあるようだ。
「なら、早速行くぞ!」
俺の声と共に俺と会長は走り出す。ゴーレム達も俺達が動き出すのを確認すると、奴等も行動を開始した。
「俺は右にいる二体を誘導する。会長は残りの奴を」
「あら、私は二体でも平気よ」
「なに……」
身体強化……『参』
俺は加速し、二体のゴーレムを強引に部屋の真ん中に寄せる。そして会長に一言告げた。
「時間は掛けないさ」
「さすがね」
すると、残りのゴーレムが会長を襲おうと接近して来る。会長は既に気付いていたのか、彼女は一瞬で後ろに移動した。もちろん刀を構えながら。
「金城流剣術……六の太刀『衝破』」
会長はまた違った剣術を見せた。これは斬るというよりも押すに近い。その証拠にそのゴーレムは俺が中央に集めたゴーレム達の方に吹っ飛ばされた。今までの剣術を見るに、金城流剣術は幅が広いようだ。
ここから俺と会長はいたすらゴーレムの足を切り込み続けた。ゴーレム達はバランスを崩し立ち上がれなくなる。ここで霧島のチャージが終わって、俺と会長はその場を離れた。
「今よ!」
「はい」
会長の声を聞いた霧島は先程よりも一発大きな一撃を放ち、ゴーレム達を飲み込んだ。
「いきなりハードだと思うんだが……」
「確かにね。ホントに他の皆が心配だわ」
「静かに……」
霧島が俺達に静止の声を掛ける。そして俺も違和感じ焦った声で会長達に指示を出した。
「会長、霧島を抱えて右に跳べ!」
「えっ」
会長は戸惑った声を出すが、指示通りに行動する。すると突然大きな揺れが起きて、俺と会長達を分断するように大きな壁が落ちてきた。もう少し遅ければ最悪会長か霧島はぺちゃんこだったかもしれない。それに、俺の反応の遅さ。
俺は自身の衰えに溜息を吐くと、壁の向こうにいる会長達に声を掛けてみる。しかし予想通り、彼女達の声は帰ってくることはなかった。
「やっぱりダメか。しかしこの魔法の使い手はホントにやり手のようだな……」
この迷宮の魔法だが実はとてもコントロールが難しい。実際に使っても、ほとんど空間を出して終わりが普通だ。ここまでギミックを仕掛けたりするのは器用さと大量の魔力が求められる。
「さて、とにかく……なっ!?」
俺は突然に目の前に現れた懐かしい魔力を感じて驚く。驚かないはずもない、忘れる訳がない、その顔を。異世界に行き、右も左も分からない俺を拾ってくれて、色んなことを教えてくれた師匠。
「ディアナ……」
「……」
俺は自然と彼女の名前を口にしてしまう。
彼女は俺の最後に見た姿と同じく、褐色の肌をしており、燃えるような赤髪。そして右手には俺のカシウスと同じくらいの剣を持っている。あえて言うのなら記憶通り過ぎる。
俺はこの瞬間、強引な蘇生という禁呪という可能性を除去した。となれば心当たりはあの魔法。
「まさか、闇魔法の最上位魔法まで使えるとは恐れいったよ……だがな」
俺は明確な殺意を出して、恐らくどこかで見てるだろう闇の魔法使いに言った。
「お前はやってはいけないことをした!!」
身体強化……『肆』
俺はカシウスを強く握り、尊敬する師匠の下に駆け出した。




