19話 ダンジョン
「ここは……」
「どうやら目を覚ましたようね」
俺が目を覚ますと真上には会長の顔が見えた。どうやら、会長に膝枕をして貰っているようだ。恐らく、学園中の男子たちが聞いたら、血の涙を出すような光景だろう。もちろん俺も嬉しい。
しかし、状況が状況だ。俺は立ち上がると周囲を確認した。
「あら、嬉しくなかった?」
「いや、とても嬉しかったぜ」
「それはどういたしまして」
会長は笑顔で微笑む。すると、会長の後ろの方から霧島が姿を現した。
「凛、どうだった?」
「ダメですね。恐らく、反転世界と同じように別の空間と考えていいかと」
どうやら、霧島もこちら側に来たようだ。それにしても別の空間ねぇ……。その認識は間違えではない。
周りは黒い空間で真上にはいくつか小さな炎が灯っている。ここの部屋はどうやら正方形の形になっていて、奥には暗くて見にくいが先に繋がる道があった。
「皆とも連絡が繋がらないし、心配だわ」
「特に戦闘力がない加藤だな。誰かと一緒に跳ばされていればいいんだが……」
「とりあえず、速く彼女たちと合流しましょう」
霧島の言う通りだ。ここがどこか分からない以上、どこに危険が潜んでいるか分からない。加藤が心配なのはもちろん、敵が出て来るのであればその敵のレベルが俺たちを上回っている可能性がある。すると、彼女だけではなく、俺たちにも命の危険が出て来る訳だ。
「私が先頭に進むわ。龍太は後ろをお願い」
「了解」
そして俺たちは会長を先頭に、黒く先が見えない道を進み始めた。
終わりの見えない一本道を進み始めてから数分後、会長が思い出したように声を出した。
「そういえば、龍太。あなた校長室にいた時に何か言いかけていたよね?」
「確かに……」
会長の言葉に霧島も頷く。やはり、言っておくべきか……なら。
俺はあの時の校長室での話をすることだけではなく、同時に会長についてあることを聞く決心をした。
「そんな目で見なくても、もちろん話しますよ。でも……」
「でも?」
「はい、ここに来て確信しました。今回の件、闇の魔法使いが関わっている」
「!?」
闇の魔法使いという言葉を聞いた瞬間、顔を曇らせる。
「なので、教えてくれないか……あなたと闇の魔法使いとの関係を」
「……」
会長は俺の話を聞くと、下を向き黙ったままだ。霧島は心配そうに会長を見つめている。霧島は知っているのか?
すると、会長は観念したかのように口を開いた。
「仕方ないか。いずれ皆にも話すつもりだったし」
「じゃあ」
「会長」
「凛、別に大丈夫よ。さて、何から話せばいいかしらね……」
会長は悩むようなしぐさを見せると、俺に向かって一言告げる。
「殺されたのよ。闇の魔法使いに私の兄が……私の目の前でね」
会長と闇の魔法使いの関係、それは俺が思っていた以上に重いものだった。
「それはいつの話ですか?」
「私が小さい頃ね。小学生の時よ」
「レットドラゴンの時より前か……」
「ええ。あの時は魔法使いたちと協力したからね……」
「会長的にはその時、不満とかはなかったのか?」
「あの時は自分の感情より、皆の命が優先だったから」
会長は俺の質問に笑顔で答える。すると、俺は今度霧島の方に顔を向けた。
「霧島はこの事を知っていたのか?」
「はい。私は会長と一番付き合いが長いですし。私以外のメンバーは知りません」
「そろそろ、明かそうと思っていたところにこの事件よ」
「……」
まぁ、こんな話なかんか人に言えないわな。でも……
俺は会長に一言、真面目な顔で質問した。これだけは聞かなくてはならない。
「会長、これだけは聞かせてくれ。あなたは復讐を望んでいるのか?」
「……」
会長は俺の質問を聞くと、決意した顔になり答える。
「正直言うと……憎い。でも、その感情で周りの仲間たちに被害を出す気はないわ。その分別もわきまえている」
「なるほど」
「そして何より私自身が理解してるわ。私じゃあいつには及ばないってね……」
俺から見て会長の剣の腕はかなりのものだと思うが、それでも強いとはな。しかも、俺の予測通りならこの空間は闇の魔法で生み出したもの、それも高度な。ならば……。
「そうか……。なら、伝えても大丈夫か」
「今その話をしたということは、やはり……」
「そう。この空間は闇の魔法使いが魔法で生み出したものです」
会長と霧島は俺の言葉を聞くと、驚いた表情をする。しかし、俺は話を続けた。
「グランシウスで何回か体験したことがある。グランシウスでは闇魔法の中でも上位に位置する闇魔法で『ダンジョンクリエイト』という魔法です」
「ダンジョン……。ファンタジー小説などでよく聞いたことがあります」
「または迷宮と呼ぶこともあるな。グランシウスではダンジョンは自然に出来ることはなんだ。ダンジョンはその魔法でしか生み出せない」
「龍太はその魔法使える?」
会長はならばと俺にこの魔法を使えるか質問して来る。俺はそういえば俺の魔法の説明をしてないことに気づいた。
「そういえば、言ってなかったな。俺がいつも使っている『身体強化』は七つある属性のうち、空間属性にあたるんだ」
「じゃあ、身体強化以外の魔法も空間属性の魔法なら使えるのですか?」
「残念だが俺は空間魔法を極めた訳じゃないからな。身体強化しか使えない」
そう、俺は身体強化しか使えない。だが……。
「でも、この聖剣は別だ」
「えっ」
「この聖剣には異名があってな……」
俺が聖剣の説明をしようとすると、前から複数の生命体が姿を現した。その姿は一言で表すなら、黒い犬だ。赤くギラつかせている目は俺たちを睨んでいる。
「魔物!?」
「いや違う」
俺は霧島の言葉を否定する。あれは一見、魔物のように見えるが実際は違う。恐らく、闇の魔法使いが闇の魔力で作り出した人形だ。
魔物かどうか判断するのに必要なのは魔素があるかどうか。しかし、あの黒い犬にはそれがなかった。
「あれは闇の魔法使いが作り出したものだ。倒さなきゃ先に進めない」
「なら、倒して先に進むだけよ」
「後ろから、射撃します」
二人は俺の声に反応すると直ぐに戦闘態勢に移る。そして俺はカシウスを構えると会長に言う。
「さっきの話、だいぶ変わってしまったけどこれだけは言わせてくれ」
「……」
「復讐をするのはその人の勝手ですが、決して自分を見失わないこと。まっ、俺が言える話じゃないんだが……」
「龍太……」
俺は会長にわざとらしい笑顔を見せると、敵の群れに飛び込んで行った。




