異世界side
今回は異世界sideの話です。姫様が登場。
勇者が元の世界に帰った一か月後、異世界グランシウスの一国であるガルシア共和国では、魔王の後処理や国周辺の魔物討伐に追われていた。到底、世界が救われたという空気ではない。ガルシア共和国の首都ガルシア。そこのとある一室に疲れ切っている二人の男女の姿があった。一人は綺麗な長い銀髪で豪華なドレスを身に纏った美しい女性、方やもう一人は同じ銀髪がが短髪で、白銀の鎧を身に纏ったイケメン。
「はぁ……」
「お疲れ様、姉さん」
「ありがと」
溜息を吐くガルシア共和国の姫、リリスにその弟であるロウが声を掛けた。ロウ・ガルシア、リリス・ガルシア姫の弟であり、このガルシア共和国の王子である。彼はリリス
とは違い、魔王討伐にも勇者と共に騎士として参加していた。
「ロウ、そっちの様子は?」
「今のところは問題ないよ。なんとか、この国の騎士たちで抑えられてる」
「そうですか。聞けばこの国以外にも、同じようなことが起こってると聞きます」
勇者が元の世界に帰った後、直ぐに私たちは魔王討伐の後処理を行い、世界中の国に魔王を倒したことを伝えたり、被害の出た町や村に物資や資金を送った。世界中の人々は皆平和を確信し、笑顔で喜び合う。しかし、そんな皆が望んだ平和は訪れなかった。
「魔物の活発化ですか……」
「そうです、しかも中級までも現れる始末」
勇者が命を賭けて魔王を倒し平和になった一ヵ月後、突如魔物が活発化し始めたのだ。しかも本来ではあまり姿を見せない中級の魔物までも姿を現した。上級がまだ現れていないことが唯一の救いだ。
「近々、各国の代表を集めて会議を行います」
「場所は?」
「ここ、ガルシア共和国です。あなたは私の護衛として参加しなさい」
「了解です」
リリスの言葉に、ロウは短く返事をした。
「姉さん、勇者をもう一度……」
「ダメです」
ロウがリリスに勇者をもう一度この世界に呼び戻そうと提案すると、リリスが強く否定してきた。
「私はもう行きます」
「姉さん……」
「勇者のことは忘れなさい。この件は私たちが解決すべき問題です」
リリスは最後、ロウに一言伝えると、部屋を出て行った。ロウはリリスが部屋を出ていくところを見届けると、目の前の机を思いっきり叩いた。
「ふざけるな!」
向こうの扉から今の声を聞いて驚いたのか、メイドの悲鳴が聞こえた。ロウはやってしまったと後悔するが頭を抱え、小さく呟く。
「僕は……僕は認めない、認めないぞ。こんなハッピーエンドは……それに」
僕にはこの魔物の活発は、魔王を倒したことによる『終わり』ではなく、新たな『始まり』に思えてならなかった。
私はロウと話した後、一人自分の部屋へ帰るべく、大きな廊下の道を歩いていた。そこでふとさっきのロウの言葉がよぎる。
「勇者ですか……」
私は勇者について考える。勇者が元の世界に帰ることはこの世界や勇者自身にとって誰もがハッピーエンドになる方法であった。勇者が魔王を倒し、平和になった世界で勇者はお姫様と結ばれハッピーエンド、誰もがその結末になると思うだろう。それがあらゆる物語で語られる勇者や英雄の物語の終わりだ。しかし、現実ではそんな夢のような結末にはならなかった。なぜなら魔王を倒し平和になった世界、そこでの勇者の存在は魔王と同等の脅威となり、恐怖を抱く者たちがいずれ現れる。そんな存在はこの世界にとって邪魔でしかなりえないからだ。もちろん、そんな勇者を擁護しようとする者たちもいるだろう。そしてその二つの考えを持つ者たちは、いずれ対立し合う。そしてその対立は大きくなっていき、やがて戦争を引き起こす。そう、彼は戦争の火種になってしまうのだ。
さらに、そんな存在を利用しようとするものは必ず出て来る。勇者を神と見て宗教を設立するもの、政治の道具にしよとするもの、目的は様々だろう。そんな人たちから、龍太を守るために彼を元の世界に返すのは、こちらの世界とってっも喜ばしいことだった。なにより、勇者自身が元の世界に帰ることを望んでいたのだ。
「……龍太」
私は廊下の窓から見える月を見ながら、愛しの勇者の名前を呟いた。
次回から二章に突入しますが、まだ少し納得できない部分があり、来週投稿できないかもしれません。最低でも二週間後には投稿します。




