15話 報告
「今回は君のおかげで被害を出すことなく、レットドラゴンを倒すことが出来た礼を言わせてくれ。
ありがとう」
「いや、いいですよ。今回あいつを倒せたのはほかのメンバーの力があったからだし」
「そうかしら。ほとんど遠藤くんが倒したものじゃない」
「娘はこう言ってるが」
「はぁ。まぁ、一応礼は受けとっておいますよ」
俺は本部長の言葉を聞いて、溜息を吐きながら答える。
俺は今あの少年のような七三分けの本部長に、レットドラゴンの討伐について連絡を行っていた。周りには桜川支部のメンバーが全員揃っている。今この状況になるまでは、数日遡る。
俺がカシウスの放って意識を失った後、目を覚ましたら自宅のベッドの上だった。後から聞いた話だが、会長と加藤がわざわざ送ってくれたらしい。どうして住所が分かったのか聞いたところ、会長が生徒会長だからと答えたそうだ。俺はこの日、会長の恐ろしさを実感した。
次に俺の体の状態だがあの聖剣……カシウスの開放は今の体では負担が大きく、まる一日行動不能になり、学校を一日休むことになってしまった。もちろん会長たちには昨日の時点で、この事は教えてある。
そして次の日にいつも通り登校して、時間が過ぎ放課後になってこういう状況になっていた。
「やっぱりリングがあったのが、大きかったな」
「うむ。リングはまだ未知の進化の道も残されているからな、これからの戦闘で大きく役に立つだろう」
「ああ」
本部長が頷きながら、俺に画面越しで話掛けて来る。
ん?そういえば、後リングを見てないのは服部と会長だけだな。
俺はここでふと二人のリングを見てないことに気づいた。俺がそんなことを思っていると、本部長が小さく呟く。
「そうだ。君がいるなら……」
「本部長どうしました?」
「いや、何でもない。こちらの話だ」
本部長はなにやら思い悩んだ顔をすると、直ぐに別の話に切り替えた。
「それと、今回の件だが魔神教団という組織が関わっている可能性が高い」
「その組織については、前に会長から聞いたよ」
「そうか、なら話が速い。遠藤君、君はこの組織が異世界……グランシウスに関わっていると思うかい」
「……」
魔神教団。俺が思い出すにこのような組織は聞いたことはなかった。だが本当に昔だが、魔神という存在がいたのは事実。
「確証はないが……可能性はあると考えていいかと」
「そうか……」
本部長は静かに溜息を吐きながら答えた。そのあと何時になく本部長は、真剣な顔になる。
「これからも奴らが、なにか仕掛けて来る可能性がある。その時は頼めるか」
「ああ、任せておけ」
「頼もしいな。本当はグランシウスについて色々聞きたかったが、今回の件で忙しくてな」
「じゃ今回はこの辺で」
「ああ、では」
俺は本部長との連絡を終えると、モニターの電源を消した。
「どうやら、連絡は終えたようね」
「いいのか。会長も何か話すことあるんじゃ?」
「私の連絡は昨日の時点で終わってるわ。それと私からもお礼を言わせて頂戴。ありがとう、龍太」
「気にするなって。んっ?今名前で呼んだ?」
「ふふ、私が名前で呼ぶのは真の仲間だけよ。加藤さんも茜って呼んでるわ」
「真の仲間ね……いいな、それ」
俺は会長の言葉を聞くと、俺と会長はお互いに笑い合った。
「ちっ、俺なんて二ヵ月も掛ったのに……」
すると、後ろで佐藤が文句を言っている。俺は佐藤の方を向くと、ドヤ顔をかました。
「なっ、テメー。今回の勝負は俺の負けかもしれないが、いつか絶対ぶったおす」
「はっ、やれるもんなら、やってみるんだな」
佐藤は俺に向かって、力強く睨んでくる。
まっ、今の炎のコントロールじゃ、俺には勝てないがな。
俺は一昨日の戦いを思い出し、佐藤の力を冷静に分析した。この後、佐藤を適当にあしらい会長に気になってたことを聞く。
「会長。そういえば俺、服部と会長のリングを知らないんだが……」
「ん、何?前にみせたはずだが」
俺は会長に話したはずだが、いつの間にか服部が前に出て来て、答えていた。
……いつの間に出てきたんだ?
「私のリングはこの小太刀だ」
服部は手に持っていた小太刀を見せた。
「武器か……。てっきり佐藤みたいにコントロール系だと」
「ふっ、私の能力は操作だからな」
「なるほど」
確かに、服部の能力は風力操作だからな。俺は服部の言葉を聞き、納得した。んっ、じゃあ会長は。
「私のリングはまだないのよ」
「あれ、てっきり刀かと」
「あれも、業物なんだけど、こんなになっちゃって」
会長は机に置いてあった、刀を見せて来る。だが、その刀は見事にヒビが入っていた」
「これはまた……」
「レットドラゴンとの戦いのときにね。だから、来週に新しい刀のリングが私に届くそうよ」
「新しいリング……?」
「そう、『妖刀』がね」
俺はまたこの時、面倒な予感を感じ取った。
「本部長、良かったのですか?」
「何がだね?」
「例の妖刀ですよ。何が起こるか……」
「問題ない。いつかは通らなくてはならない道だ」
新宿支部の本部長室で、メガネをかけた七三分けの青年が敬語で、とても一人の娘を持ってるとは思えない少年のような男に、話し掛けていた。
「しかし、今回は魔神教団、さらに闇の魔法使いも狙っているとか」
「……」
本部長は静かに黙る。だが、頭では一人の男について考えていた。
「遠藤龍太……異世界の元勇者か」
「えっ?」
「賭けてみようじゃないか……彼に」
本部長は小さく呟いた。そんな本部長の呟きに、メガネの青年が反応する。
「なぜ?」
「あのレットドラゴンを倒した実力はもちろん。それに異世界の聖剣……カシウスと言ったか。何か通じるものがあるかもしれない」
「はぁ、知りませんよ。僕は」
「なに、他の支部長には私から伝えておこう」
「頼みますよ、ホント」
メガネの青年は溜息を吐くと、部屋から出て行った。本部長は彼が出ていくと、こちらも同じく溜息を吐く。
「何事もないのが、一番なんだがな……」
本部長は一人、愛する娘が妖刀の試練を乗り越えることが出来るよう願った。
今回で一章は終わりです。何とか年内に終わらせることが出来ました。次回異世界サイドの話を一話書いて、二章に入ります。しかし、二章がまだ組みあがってないので少し開けるかもしれません。感想や誤字、文法的におかしなところなど募集中です。では皆さん、良いお年を。




