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異世界不本意戦争記  作者: 枯木人
スゥド王国代理戦
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個の暴力

「チィッ! 敵大将にゃ逃げられたけどあたしらの役目は果たすよォッ! 存分にスゥド軍のドテッ腹を食い千切ってやんなぁ!」

「「「オォォォオオッ!」」」


 オヴァにスルーされたリーゼの部隊はオヴァの突撃陣形である鋒矢陣の突撃形態の後ろで縦長に散開している敵兵たちを同じく鋒矢形態で貫き、勢いを殺すことなく左右に蛇行しながら食い荒らしていく。敵の断末魔と自軍の咆哮、金属がかち合う音が激しく鳴り続く戦場にて、尚もその音は全体に響き渡っていた。


(あんの婆、マツダ様と真っ向からガチでやり合ってんのかよ!)


 自軍の生きる伝説、国における魔術師の象徴とも呼べる存在が敵将のただの一個人を前に完全に足止めされているこの状況にリーゼは戦慄していた。戦況はクリーク軍が圧倒的優位。

 だが、松田に万が一のことがあれば状況は一転する。最悪、国を揺るがす事態に発展する事態にリーゼは悪い考えを切り捨てる代わりに敵兵を斬り殺した。


「あー! ごちゃごちゃ考えるのはあたしらしくないな! 相手を全部片づけてからだ!」

「よくもユワンダ様を!」


 斬り殺した相手の後ろから出て来た豪奢な甲冑を着込んだ騎馬兵を見てリーゼはにんまり笑うと鎧の隙間を縫うように相手を刺し殺して馬上から蹴り落とした。


「いいの殺してたみたいだねぇ! 首拾いは任せたよ!」


 直に敵陣の最後尾に到達する。そうなれば反転し、敵陣を完全に打ち負かした状態で松田と合流。そこまでが自分に任された仕事であると思考を切り替えてリーゼたちは爆走を再開した。





「グヌフフフフッ! そらそらァッ!」

「ぜあァァッ! 退いたな? 【爆裂双】」

「っ! 【颶風ぐふう】ッ!」


 リーゼたちの後方。戦場というよりは工場と呼ぶべきかもしれない炸裂音と爆音が響くその現場。そこで松田とオヴァは戦っていた。

 一騎打ちの攻防は一進一退。個人としては松田が上ながらオヴァは人馬一体となって互角以上の戦いを繰り広げていた。


 だが、問題はそこだけではない。


「ふーっ、お腹空いたわね? あら、いい男。憤ッ!」

「う、うわぁあぁああぁぁあっ!」

「チッ……完全に人間辞めてやがるな……何だあの化物……」


 敵陣に突っ込んできたオヴァ。数の暴力という点において、松田が圧倒的優位だったはずのこの状況が彼女の奇怪な行動によって覆されている。現在、松田の目の前では魔術兵がオヴァの雷斧で馬上に引き上げられ、濃厚な処刑キスが執行されている。一見すれば精神的レイプだが、この行動にも意味があるのは魔術士であれば誰でも理解できる。


(……何度見ても気持ち悪ぃが、他人の魔力を吸収してるのは厄介だな……)


 自分の兵ごと殺すわけにもいかない松田は苦い顔をしながら威力を抑えた魔術でオヴァと兵の間を分断して攻勢に出る。膨大な魔力を保有し、疲れ知らずの松田だが、オヴァは魔術兵を回復アイテムの様に使用し、盾として利用することでそれに渡り合っている。数を暴力として使用するはずが、気配を完全に遮断したファムの攻撃すら通らない相手に通るのは松田の攻撃のみだった。


「あら、嫉妬かしら? 言えばあなたにもしてあげるのに……」

「んな訳あるかい!」

「ヲォーッホッホッホッホ! いずれ病みつきになるわよぉ? グリュースもそうだったわ! 今から慣れておいたらどうかしら?」


 哄笑を上げるオヴァだが、松田は見も知らないグリュースのことを可愛そうに思った。精神が壊れてしまったのだろう。


「さぁて、休憩は終わりねぇ? 【全身凶化】ァッ! 『紫電を纏え【雷斧】』征くわよ颶風ッ!」


 全身から禍々しい黒き魔力の蒸気を噴き出して目を吊り上げたオヴァは雷を纏う大斧を振るって松田を強襲する。松田は下手に受ければ魔鉄で鍛え上げ、更に自身の魔力で保護している愛槍であっても叩き切られることを理解した上で何とか捌き切った。


「今度はこっちからだァッ! 『穿て【泉水槍】』」

「こんなの……? ッ! 颶風!」

「まだまだァ!」


 松田の高速の突き。オヴァは一見してそれを通常の突きと判断し、弾こうとしたがその身に宿る直感に従いそれを回避した。恐るべきはオヴァの判断力と颶風の機動力だ。

 虚空を貫いた松田の突きは凝視しない限り威力が分からないはずだが、凝視してから避けては間に合わないと全て受けずに避けることを選択している。そして颶風はその主の思考を即時に反映したかのように馬上の動きで避けられる方向へと横足で転身した。


「……本邦初公開っつーのに、全部避けられたか」

「ヌフフフフ、魔力を纏っての攻撃はあんたが生まれる前から私がやってきたことよぉ? 何が起きるのかわからないけど、簡単に食らってあげないわ」


 オヴァの不敵な笑みに松田は僅かに顔をしかめた。だが、それも一瞬のことで即座に立て直して攻勢に出る。

 先程の【泉水槍】は簡単に言えば槍の突きに水の魔力を纏い、同時にその水を高速回転することでドリルの様に抉り抜く、もしくは巻き取る効果がある攻撃だった。決まればこの場での戦いが大きく動くことは間違いなかった決め技を潰されたのだから苦い顔も仕方のないことだろう。それでもそれを表情に出すのはマズかった。


「ヌフ? 当てが外れて悲しいのかしらぁ? キレがなくなったわよぉ!」

「ハッ! そう思うんならお前の中ではそうなんだろうな!」


 大将の動揺を周囲に喧伝するオヴァ。クリーク軍にとって平塚と並んで絶対的な象徴である彼の動揺の姿、苦い顔は当然自軍の兵たちにもみられており、次第に軍全体に広がる。その軍の動揺は頭にフィードバックされ、更なる動揺を誘った。


「鎮まれ!」

「余所見してる暇があるのかしら? がら空きよぉっ!」


(殺った!)


 軍に指令を出し、濃密な攻防の間に一瞬生まれた意識の断絶。それを見逃すオヴァではない。巨大な悪鬼が繰り出す雷の如き一撃が松田を襲う。


 その時、オヴァは自身の背筋に何かが走るのを感じた。遅れて、耳に声が届く。


「【泉水槍】」


 意識の断絶と思われたそれが誘いであると気付いても既に振り下ろされた雷は止まらない。繰り出された間欠泉の如き小さく鋭い渦は雷を貫いた。


「マツダ様がやったぞ!」

「あの化物の斧を砕いた!」


 オヴァの雷斧に使用された特殊な金属の破片が地に落ちる音と同時にクリーク軍たちの歓声が沸いた。だがしかし、それを達成した松田だけが今度こそ周囲に隠し切れない程の苦い顔をした。


「ッ! 足りなかったか!」

「おのれェ……!」


 憤怒の形相で刃が欠けた雷斧を肩にかけるオヴァ。更に激しい暴力の風雨を撒き散らし始めるが怒りに任せたと思われる攻撃は先程の精彩を欠いており、彼女が気にしていたペース配分も無視していた。


(……この分だと、これを捌き切れば息切れ……!)


 先が見え始めた戦い。松田の勝利が間近であると見た周囲も固唾をのんで見守るその中で、ついにその時はやって来た。


「颶風!」


(退いたっ!)


「『穿て【泉水槍】』!」


 オヴァの引き際に放った松田の一撃。それは今までのクリーク軍との戦闘で一度も傷付いたことのない

彼女の身体にようやく届いた。抉られた左肩から血が噴き出すとクリーク軍からは大歓声が上がる。それと同時に周囲から大声で吉報が告げられる。


「リーゼ様が敵陣を突破し、こちらに反転攻勢を仕掛けております! 到着まで1時間もないかと!」

「退くわよ【颶風】ッ!」

「逃がすか! 全軍、追撃せよ!」


 大胆にも敵陣の中央突破を図るオヴァ。後方から松田が攻撃しようとも【颶風】の俊足がまるで後方にも目をつけているかの如き精度と共に無力化する。


「追え! 生かして戻すな!」


 オヴァとの激戦を制した松田は疲労をアドレナリンで吹き飛ばして全軍を叱咤し、彼女の後を追った。 



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