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異世界不本意戦争記  作者: 枯木人
スゥド王国代理戦
92/102

遭遇戦

 クリーク王国軍がスゥド軍との初戦を制した3日後、スゥド軍に動きがあった。


「……東側に進出して拠点を作る気か……」


 斥候の報告を受けて平塚は苦い顔をする。敵軍800名を率いるのはクリーク軍が目下最も警戒している相手であるオヴァ。進軍方向はニード山脈北部地域において大昔にスゥド軍が作り上げた旧ベルフェナンド城だ。先のスゥド軍との戦いで水攻めに遭った結果、廃墟に近い形で放置されているが数が揃った敵軍に獲られて気持ちのいい場所ではない。


「さて、どうしたものか……オヴァが寡兵を率いている間に最大の脅威を取り除いておくべきか、それともオヴァは相手にせず本体を叩いて動揺したところを磨り潰すか……」


 当然、防衛側としてきちんとした拠点を放置して敵に奪われ、民、そして兵に不信感を抱かれるわけにはいかないのでオヴァの対処はする。ただ、その目的としてはオヴァを狙うべきかその周辺の兵を狙うべきかで平塚は悩んでいた。そんな平塚に松田が声をかける。


「ま、取り敢えずどちらにせよオヴァってのがどういうのか見ないとなー……俺が出るわ」

「……大丈夫か?」


 松田の提案に様々な感情を込めた疑問を口にする平塚。だが、松田は一笑に付して答えた。


「別に、見るだけだ。殺れそうなら殺るが……まぁ、取り敢えずは巻き添えで兵を狩る感じで行く」

「……わかった。なら、こっちで相手の後方を脅かすから相手が動揺したところを狙ってくれ」


 信じろと言わんばかりの松田。平塚は前回のスゥド軍との戦いで松田が負傷したことを思い出しながら微妙な気持ちになるが、将を信じずに軍を動かすのは不可能だとして決断した。


「はいはい。よろしく頼むよ」

「……妙な動きがないか、十分に警戒してくれ」


 そう指示を出して平塚は松田と彼の率いる魔術士兵団を中心とした連隊1500名に出陣の命を下した。









「……にしても、過保護かよ……」


 そして出陣した松田はその部隊編成を見て苦笑していた。連隊長として魔道軍令部元帥の松田が出るというのにもかなりの役不足というのに副長兼魔術兵大隊長に機密軍総大将ファム、歩兵大隊長に陸軍大将リーゼと来たものだ。王国にとって重要なメンバーばかりが揃えられているこの状況は松田を守るためと同時に彼女たちを危険な目に晒すようなことは許さないという釘の意味も課せられている。

 尤も、彼女たちは自らが前線に立つということを好む性質を持ち合わせていることから彼女たちに対するガス抜きという意味も兼ねているのかもしれないが。


 それはさておき、行軍する敵兵を見つけられる位置にまで進軍した松田はまずは行軍の疲労を少しだけ抜くと同時に平塚と連絡を取ろうと……


「アキ様、敵もこちらに気付いた模様です」

「大将、いっちょおっ始めッとしようぜ!」

「……まぁ、始まりそうだな。ファム、魔術兵に準備を。進軍してくる奴らに一撃かましてからリーゼは突撃を。俺は本隊と連絡を取る」

「はっ!」

「畏まりました」


 指示を出して松田は通信用の魔道具を使用する。本来は無線を作りたいところだったが、特殊な磁場が働いているので実行できなかったことで親方らに原理のみを丸投げして試行錯誤の末に出来上がった一品だ。

 王国内でのみ使用可能で距離に応じて膨大な魔力を使用する必要がある上、近距離でも常人では使用不可能な程度の魔力を使用するものだが、松田であれば問題なく使用できる。


 ただし、通常の状態であれば。であるが。


「……ッ? 通じない? 故障か?」

「アキ様、敵兵が見えています」

「おーおー、目測3キロ先ってところか……? 大将、さっさとぶっ放しちまわねぇとあたしらが突撃しちまいますよー?」


 地球よりも小さい星であることが判明しているこの地は地平線の先までの距離が地球よりも近い。敵影が見える頃には走って1時間先のところに敵がいることになる。勿論、常人の話であって魔術が使用できる精鋭兵たちからすれば話は別だ。


「チッ……見えてるなら話は別か。撃ち方構え、撃てェッ!」

「「「テェェエェッ!!!」」」


 統率の取れた魔術兵団の一撃。それは地平線を紅に染め上げた。だが、オヴァを筆頭にする敵兵たちの勢いを一時的に緩めるだけで止めるまでに至らない。


(うっそだろ……噂以上のバケモンだな……)


 事と次第によっては自分が出る必要があると愛用の戟を握る手に力を籠める松田。だが、それよりも先にやるべきがあると近くに控えていたリーゼに命を下した。


「行け」

「待ってましたァッ! 野郎どもォッ! あたしに続けェェエエェッ!」


 ドスの効いた声で叫ぶと突撃を開始するリーゼ。リーゼ直属である500名の部隊が織り成す疾風の如き突撃は魔術兵団の攻撃によって停滞し、縦列する形となった敵の脆い側面を貫いた。それでも勢いのある敵兵は止まらずに松田がいる魔術兵団1000名に叩きつける様に殺到する。


「グヌフフフフ……アーッハッハッハーハハハァッ! その首、置いてけぇっ!」

「もらっ「小娘ぇっ! 邪魔ヨォッ!」くっ……」


 敵との邂逅で前方に集中しているはずと踏んだファムの暗殺を看破し、見もせずに弾き飛ばすオヴァ。ボールの様に宙を弾き飛ばされるファムだが、その姿を掻き消して地面に着地した。


(何て力と勘……!)


 松田の前でいいところを見せようと浮足立っていた心が一瞬で冷え上がる。オヴァがこちらを標的としていた場合、ファムの命はなかったかもしれない。落ち着いた今、オヴァを見るファムは静かに戦慄していた。


(隙が無い……! まるで空から戦場を見てるよう……)


 敵ながら天晴としか言いようのない戦いぶりだ。一直線に巨大な魔力がある場所を目指しているのにもかかわらず、一応後方を気にしているらしい。後方ではリーゼがオヴァに加勢しようとしている中軍を叩きのめして喰い散らかしているがそれを理解した上で敵陣のど真ん中で戦っているようだ。


「敵兵の主力はここねぇっ! 皆殺しにしてあげるわよォッ!」

「おのれェッ! 我らを魔術兵と侮るなァッ!」

「あら、何か言ったのかしら?」


 飛び掛かって来た魔術兵の首を雷斧で一閃して嗤うオヴァ。魔術兵が決して弱い訳ではない。他の軍では魔術を使用できるということで魔術専用部隊として兵役の一部を免れている魔術兵だが、クリーク軍では接近戦に魔術を用いる訓練も導入しており、通常の兵よりも寧ろ厳しい修練を積んで力を手にしているのだ。

 当然、それに見合うだけの待遇を与えられ、強い自負心を抱いている彼ら、彼女たちだったが目の前の凶悪な暴虐にはなす術もなく、身の前にその心すら打ち砕かれそうだった。


「あ~ッ! いい加減にこの部隊の偉そうなのが出て来ないのかしらねぇェッ? もしかして、この軍の将はブスだけだったのかしら? あれの相手じゃ物足りないのよねぇ……どう思うかしら、そこの子は?」


 しばらく暴虐の限りを尽くしていたオヴァは本人は妖艶と信じて疑わない悪鬼の如き笑みをこの場で最も強力な魔力の匂いを醸し出している男に向けた。男……松田は苦い顔で槍を向ける。


「分かってて聞いてんだろこの婆……」

「グヌフフフ……生意気言ってくれるわねぇ? いいわ、年上の余裕ってものを見せてあげる……勿論、ベッドの上でもね!」

「はっ! ただでさえロリコンで通ってんのに40以上の年増なんざ無理に決まってんだろ!」


 大将同士の一騎打ちが、始まろうとしていた。




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