スゥド戦 前哨戦
3/31、12:00少し前。訂正完了です。
覚書
オヴァ
怪傑。クリーク王国によって滅ぼされたヴォラス王国の王女。通称は白熊姫
リーゼ
戦闘狂に近い。赤銅色の短髪で、少し丸顔ながらキツめの顔立ちをした豊満美人。身体強化術士。
ゴンザレス
金色の長い髪、歴戦の強者を思わせる傷だらけの顔と強大なパワーを秘めた褐色の筋肉の鎧をまとった筋骨たくましい男色家。
カシザワ
良い感じの不良モドキ。風貌はガラの悪い茶髪の高校生で基本軍服を着崩している。まだ思春期。
ジャック
食事以外にやる気のない天才。全体的に色素が薄く、極々薄い鶯色の髪をしており、常に眠そうな顔をしている小柄な男性。魔術師。
「……ラッシャ村が潰されたな。」
「兵が義憤に駆られて暴走しなければいいんだが……」
スゥド軍によって村が消されたその翌日。ようやく大河の上流地点で現地に紛れ込ませていた罪科兵の斥候からの情報を得た平塚は松田に報告の確認を行うかのように呟いた。
「領主を通じて避難勧告は出してたんだがな……最後まで土地を捨てられなかった人が結構いたらしい。後は降伏すれば手出しされないだろうって甘い考えでいた奴らか。」
「……ま、敵として出てこられるよりかは士気が上がる分マシかね。」
先祖代々の土地に縛られる農民は非常に多い。特に時代と環境がそうさせている。今回、相手は以降の軍事展開の効率を重視すべく非情な手段を取ったがそれが間違いと言い切ることは出来ないだろう。実際に今後、略奪を恐れて前線はスゥド軍に協力的になる村も多く出るはずだ。
(尤も、王国軍の結束は高まる上、相手に寝返ったとしても言い訳がつくあたり今後の展開としてはこちらからすればそこまで悪くはないが……)
平塚はそう考えるが、それは勝てばという前提がつく。万が一負けた場合は前線に晒される場所が増えて恐怖から相手への協力者が増えてしまう可能性が高い。
「分かっていたが負けられないな……」
「何だ? 急に怖気づいたのか? そういう時は先生を思い出せばいい。」
平塚の無意識にも近い呟きを拾った松田が緊張を解すような何とも言えない笑みを浮かべながら平塚に軽い提案を行う。それを聞いて平塚も笑った。
「逆に恐怖を思い出して使い物にならなくなったらどうするんだお前……」
「調子出て来たじゃねぇか! あれと比べて戦えば何てことないさ。さ、いつも通り行こう!」
「……妙な死亡フラグ立ててんじゃねぇよ。洒落になってねぇ。」
冗談交じりで話し合う二人。そんな二人の下にファムが音もなくやって来て告げる。
「先鋒リーゼ隊、敵先鋒隊と会敵しました。サラス村へ略奪を行っていたスゥド軍先遣部隊への奇襲に成功し、敵先遣部隊は壊滅させましたが敵先鋒部隊の本隊が急行しました。敵将は元北方ヴォラス軍にて猛威を振るった将軍、白熊姫オヴァと思われます」
「……始まったか」
敵の急行を受けてカシザワ隊、ゴンザレス隊がリーゼ隊に合流していることを受け平塚はジャックに遊撃として進軍を指示。高所から更に松田の魔術を使って敵と味方を見下ろしつつ戦況を見守った。
「ヲーッホホホホホ! 生意気な子兎ちゃん見ーっけぇ! ブス! あなたにはもう飽きたからどいていなさいッッッ!」
「マジかこの婆……!」
前線。短い赤銅色の髪を振り回しながら戦っていたリーゼはただただ驚愕の声を漏らしていた。地獄の訓練を潜り抜けたリーゼだが、世界は広いらしい。オヴァの愛用の斧、雷斧による重い一撃を受けとめている間に出し抜かれてしまう。そして彼女が向かった先はカシザワだった。
「ッッ! マジか!」
「カシザワ様をお守りせよ!」
「フホホホホホホォォォッ! 邪魔よ! 無駄よォッ! 消し飛びなさァイッ!」
暴虐の化身は血風をその場に撒き散らしながらカシザワに迫る。後方からリーゼの愛馬が追うもオヴァの愛馬【颶風】はそれが追いつくことを許さない。敵兵を轢殺し、食い殺し、蹴り飛ばして進む。
「気合! 入れるぜ!」
「ンッフッフフフフゥ~! 熱い思い、受け取ったわよぉっ! お返しねぇッ!」
「ダらぁっ!」
(重っ……!)
カシザワが近衛部隊が稼いだ貴重な時間で可能な限り魔力を高めて放った強烈な一撃。それはオヴァに軽く受け止められてお返しに強烈な一撃をぶちかまされる。手が痺れるが、もがかなければ死しかないため彼は全力で足掻く。
「お、オァアアァァッ!」
「あらあらぁ~! フンッ! 遊んでいたいのも山々なんだけどォッ! ブスがしゃしゃり出てくるからさっさと決めるゼォッ!」
元々、武によって軍を率いるタイプではないカシザワはオヴァの猛攻に耐えることが出来ない。それをオヴァとの短い戦いで見抜いていたリーゼは急いで彼に加勢に向かうがそこで馬の差が出た。
「【颶風】ッ!」
「なっ!?」
混戦に乗じて背後からオヴァを襲おうとしていたリーゼだが、オヴァの愛馬が行った曲芸にも近い馬上を揺らさずに繰り出されたノーモーションの後ろ足蹴りで彼女の愛馬が倒れてしまう。
(んな馬鹿な……確かに馬の視界は広いって聞くが……こいつ本当に馬か……?)
こんな好戦的な馬は見たことがないとリーゼは驚愕しつつ次手を考える。流石に馬がない状態で騎乗した相手と戦うのは自殺行為に近い。特に相手が相手だ。更に、視界が低いままでは指揮を執るのも難しくなってしまうため血路を開いて馬を確保する必要がある。
「チッ……! カシザワァッ! 乗るぞ!」
「え? あ、ちょっ……」
「そうら、隙だわぁっ!」
雷斧がカシザワの得物を弾き飛ばし、突如軌道を変えた斧の横っ面がカシザワを吹き飛ばす。しかし、代わりにリーゼが馬の上に残った。
「ブスぅ! 邪魔よォォオオオオォォオォオォッッッ!!!」
「うわっ……耳が……」
人外染みた大音声。リーゼは思わず相手から注意を逸らしそうになるが地獄の訓練の結果がそれを許可せずに何とか相手の奇襲を防いだ。
だが、そんなものを受けていない馬の方は被害が甚大だ。【颶風】は慣れていて気にしていないらしいがその間にオヴァはカシザワの馬も殺し、リーゼは落馬した。
「ヲーッホホホホホォッ! 兎ちゃんを確保せよ! ブスは好きにしていいわヨォッ!」
「「「「「オオォオオオオォッ!」」」」」
「相手に好き勝手を許すなァッ!」
「「「オォオォォオオオオオオォッ!!!」」」
部隊長による指令でリーゼとカシザワを庇いに、そして戦うべくクリーク軍が殺到する。オヴァに敵う訳がない彼らは即座に一蹴されるがそこに巨漢、漢の中が女である彼が現れる。
「好きにやってくれたわねぇっ……!」
「んふ? 見た目だけは好みねぇ……ただ、その無理に出してる高い声はいただけないわ。しっかり調教してあげましょうかねぇぇぇええええぇっ!」
「ゴンザレス将軍が来たぞ!」
「マリーちゃんと呼べぇっ!」
助かったと歓声を上げるリーゼ隊とカシザワ隊。即座に注意するゴンザレス隊だが、その部隊長は獰猛な笑みを浮かべてオヴァと対峙している。
「オオオォォォオォオオオォオッッッ!」
「ヲーホッホホホホホホホホホォォォオオォオオォオッ!」
「ち、近づけねぇ……」
斧と斧がぶつかり火花が散り、旋風が巻き起こる。連戦というのにオヴァに疲れは見られず、ゴンザレスは内心で感嘆を漏らすがそんな暇はなく揺らぎを即座に修正して無心で相手を刈りに向かう。
だが、それも長くは続かなかった。オヴァが名状し難い怪物の笑みを浮かべたかと思うと雷斧が帯電を開始したのだ。
「ッ!」
「乱れたわヨォッ! ンヌッフゥッッ!!」
「まだまだァッ!」
即座に魔力によって紫電を弾くが武器を持っていた腕に怪我を負うのは避けられなかった。感電によってもたらされた痺れが長引かせることを危険だと脳に伝え、ゴンザレスは久しく感じていなかった命の危機を覚える。
だが、最悪の事態には至らなかった。オヴァが舌打ちしたかと思うと憤怒の形相で周囲の兵が怯むほどの大音声で叫んだのだ。
「撤ッッッ退ッッッ!!! さっさと前を行きなさい!」
「「「はっ!! おぉおおおぉお退けぇぇぇぇ!!」」」
呆気に取られるクリーク軍がオヴァの発言の意味を理解するのにかかった数秒。その間に追撃を指示する部隊もあったが指令たちが尽く敗北、もしくは何も言わないのを受けて何もできない。
「くっ……そうか、ジャックが……」
「ゴンザレス! あいつは……」
「リーゼも戻って来てたのか……糞ッ! あの化物がぁ……! 何見て戦ってんだアレは……!」
「ま、マリーちゃん口調が……」
騎乗して戻って来たリーゼ、それから馬上から見える風景に一部の激戦以外の戦いが減っているのを見てゴンザレスは口調を忘れて悔しがる。
スゥド軍の第二次北伐。その緒戦は数字のみを見ればクリーク軍の大勝だが、今後に根深い問題を残すものだった。




