小姑チェック ファイナル
「デート、ねぇ……」
「はい。」
小鳥の言葉は日本では通じたかもしれないがここに来ては通じないだろうと俺は首を傾げた。しかも単に通じないだけではなく、俺は自分で言うのも何だがかなり知名度が高く、偉い。フロワともなれば王女様だ。ディアだって隠密として働いているのに下手に顔が売れると問題だろう。
その辺のことをやんわりと、だがしっかり小鳥に伝えようと口を開いたところで小鳥が先に中央に緑色の宝石がはめ込まれるなど派手な装飾が施され鍵頭をしたスケルトンキーを取り出して言った。
「この世界だと色々問題がありそうなので別世界に移動します。」
「……本当に何でもアリかよ。というより、別世界に行くのは行くので問題がありそうなものだが……」
「別世界と言ってもそんなに遠くには行けないので近場になりますから大丈夫です。」
「世界が違うのに近いも何もあるのか……?」
平塚はそう言って首を傾げた後、後ろにいるフロワとディアを見て告げる。
「あー……ここまで付き合ってもらっておいて今更なんだが、別にそこまでしなくていいと思うぞ? 別世界ともなると危険だしな……」
「いえ、行ってみるわ。」
先に決断を下したのはフロワの方だった。その目は半分だけ開いている謎の空間に向いている。平塚が視線を辿るとそこには巨大な水槽の中で遊泳するペンギンの姿が。
「何で?」
「……デートということで近場の世界にある水族館、遊園地、動物園を選びました。」
「いや、でも、動物が……」
「私が理解できる範囲内の世界にしか行けないので多分地球とそっくりなんじゃないですか?」
小鳥の理解できる範囲に平塚の理解は追いつかなかった。しかし、鍵の下の持ち主たちのことを考えると同じようなヒト型でも見ただけで死ねるほどの存在の違いがあるくらいだからこいうこともあるのだろうということで思考を放棄しておく。
「ディアも頑張るよ。」
「結構なことです。ではルールなんですが……」
両者ともに参加を決めたところで小鳥がルール説明に入る。
「時間はこの国に敵兵が迫ってくるのが近いと言うことで向こう時間で一人1時間。」
「おい、デートしてる場合じゃないだろ! 対策を……」
「恋は戦争! 敵が近くの山脈を越えるのは2週間くらいあるからいいの!」
「全然よくねぇ! 対策を……」
至極真っ当な意見を言う平塚だが小鳥は困った顔で口を挟んだ。
「ごめんなさい。私に与えられた能力でこの世界に何らかの介入をすることは許されてないからこの時点でアクション起こしたら……」
「あぁもう厄介な! 大体小鳥、今まで黙って来てたけどお前何がしたいんだ? こんな一大事が迫って来てるのに何で黙って……あぁそうか。畜生が! あぁもう、神々のお遊びって奴かよ!」
行き場のない憤りを抱えつつ平塚は虚空を睨み、どこからかの殺気で背筋が凍りついたのでそれ以上は何も言わずに溜息をつく。それに対して小鳥は申し訳なさそうに言った。
「本当にごめんなさい。でも、安否くらいは知りたかったの……特に兄さんたちの最期を知ってるから。」
「……その件に関しては俺らが悪いから、その、悪かった……」
何とも言えない空気にデートどころではない状態になる。しかし、その雰囲気は小鳥が転換して5歳児の状態に戻ってしまったことで消え失せる。それと同時に空間の開きも鍵もなくなった。
「……こりゃ、謎のチェックも中断だな。ディア、すぐに諸将を集めてくれ。」
「は、い?」
仕事用の表情になって何らかの術をしようとしたであろうディアは平塚の指示に応じようとして変な声を上げてその場に停止した。平塚が訝しげにディアの方を見ると彼女も首を傾げていた。
「どうした?」
「……部屋から、出られません……」
「おいおい……有事の時だ、仕方ない。【古仙式・螺旋神楽】!」
謎の力が働いているとすぐに察知した平塚は扉ではなく壁をぶち抜こうと両手を出した状態から左手を勢い良く引き、肩を滑車のように使いつつ腰の捻りを加え、体重移動を乗せた拳を壁に叩きこむ。
「……駄目か。」
「えーとねぇ、扉を発動した時点でイベントクリア後でなければ外に出られないの。」
「小鳥、遊んでる場合じゃないんだ。お前から別に手助けは要らないから邪魔をしないで欲しいって伝える事はできないのか?」
舌っ足らずな声は恐らく精神状態が戻っていない状態という証だろう。それでも能力の内容について分かっているということはこれに関する情報を持っているに違いないと平塚は小鳥の小さな肩を掴んで真剣な表情で強めに尋ねる。しばらくなんだろうと動かない小鳥だったが、彼女の目に冷たい光が宿り、平塚を見つめ返すと固い声で告げる。
「私には解けないし、新入社員だから上に訴えることはできない。」
「っ!」
平塚が何か反応する前に小鳥は「ただ、」と付け加えた。
「兄さんの問いに対する答え次第で、術が解けるんだけど……」
「何だ、早く言ってくれ。」
「じゃあ、訊くね?」
少しだけ緩んだ空気の中で小鳥は尋ねる。
「兄さんは、何で戦うの?」
「それは、」
「まだ問いは終わってないから。」
平塚が答えようとするのを遮って小鳥は続ける。
「仮に、松田さんを連れて私と一緒に地球に帰り、鍵をくれたあの方々の部下がいる会社で働くことが出来るとしても、それでもここで戦うの?」
「いや、あの人たちの下で働いたら死ねるだろ……」
「そういう冗談は要らないよ。因みにあの方の部下って大体美人で平等だから。会社だって事務職に行くんだけどフレックスタイム制を取ってあって平均就業時間一日8時間。水曜日が早帰りで完全週休二日制に有休も年に15日、夏季、年末年始の休暇ありに育児・出産休暇に介護休暇まで備え付けられて初任給で月に26万4000円。昇給が年に1度……今そんな話はいいとして。」
ホワイトすぎて逆に疑わしい労働条件はそこで一度区切られ小鳥はもう一度尋ねる。
「兄さんがここで、命を懸けて戦う理由は?」
静謐に、しかし強く尋ねられた言葉に平塚は自分の後ろにいる二人を見てしばし逡巡して言いたいことをまとめ、そして強い意思を宿した瞳で小鳥を見据えて応じる。しかし、再び小鳥を見た時に彼女は幼い顔に優しい笑顔を浮かべていた。
「……は?」
「答えはもうわかったので結構です。開戦前に喋って変なフラグ建てられても困りますからね。」
「おい。何だ今の。意味あったのか?」
平塚が何となく気恥ずかしさを感じつつそう問いかけると小鳥は空間から温度計のようなものを取り出してこれ見よがしに全員に見せつつ告げる。
「意味ですか。ではまぁ説明しますが……ウチの会社ってあの方の部下らしく面白いことが好きみたいなんですよ。例えば今使った術なんですが恋愛感情の多寡を知るための装置がここにあります。」
「小鳥、お前、ホント止めろ。」
そんなものある訳ないと思うことも出来ずに平塚がそれを隠そうとするも小鳥はしっかりディアとフロワに見せた。
「この扉はこの魔具が検知する想い想われる感情が一定以上になると開きます。そして、もう、開いてますよ。一々意味を言うほど野暮ではないのですが……お二方どうか兄さんのことをどうかよろしくお願いしますね?」
「やめろ恥ずかしい……」
何で俺が妹に世話を焼かれている図何かを見せなきゃいけないんだと思いつつ平塚は顔を隠す。その隙に小鳥はフロワとディアに薄ピンク色をしたアンプルを手渡し耳打ちした。
平塚が様子を窺うために顔を隠すのを止めて3人を見ると既に離れて小鳥が去るための準備と思わしき魔法陣を地面に浮かべて告げる。
「それでは。余計な混乱を招いてしまい申し訳ありませんでした。短い時間でしたがありがとうございました。兄さんはお元気で。」
「……あぁ、何か、その、悪かったな。一人だけ残して……」
「私は私の方で上手くやるのでお気になさらず。それでは。」
一礼して小鳥はこの世界から消えて行った。どっと疲れてしまった一日だが、これで終わることはできない。ほぼ間違いないが裏を取るために平塚は斥候を派遣し、開戦に向けて考えを巡らせるのだった。




