小姑チェック その2
「皆さんのコミュニケーション能力は確かめさせてもらいました……では、これより内助の功の審査に移ります。」
「内助の功?」
小鳥の宣言にディアが首を傾げる。言葉の意味は通じているが理解はできないといったところのようで小鳥は説明を入れる。
「はい。どうやらお二人はお仕事を兄さんと一緒にされているようですが、兄さんの負担はかなり大きいものと見ます。」
「まぁ、そうね。」
「疲れている兄さんにやる気を出させるための能力。もしくは助けるための能力を審査するのがこの内助の功となるのです!」
拍手喝采を送る松田。いつの間にここに戻って来たのか分からないが、丁度いいとばかりに指名を受けた。
「この項目の最初に戦闘面においての能力調査をしたいと思います。私が相手をしたいところですが、大変なことになりかねないので松田さんが相手に……」
「少し待ちなさい。」
小鳥の発言を止めたのは松田と共にこの部屋に戻って来ていたファムだった。彼女は鋭い目で小鳥を睨む。外見だけ見れば幼児の微笑ましい喧嘩だがその迫力は戦場のような迫力だった。
「自分は安全圏にいてアキ様に危険なことをさせると?」
「まぁファム。小鳥ちゃんは前触れなく5歳状態に戻ったりして戦闘すると危険だからさ……ロリの為に身を粉にするのが紳士の役目。ここは……」
「ですが……」
揉める二人に小鳥は端的に告げた。
「世界間移動を可能にするために私の体は現在あの方から改造を受けている状態です。今の私でしたら加減は何とか出来なくもないですが……5歳の私だと無邪気に力を使って兄さんの宮殿、いやこの国を滅ぼしかねないことに……」
「本っ当に、居なくなってもあの人はぁ……! それは兎も角、小鳥。危ないから戦闘は……」
「死人も蘇るポーションを5人前貰っているので大丈夫です。」
好き放題やってくれると思いつつ戦闘は回避しておきたいなと思う平塚。しかし、小鳥よりもフロワとディアの方がやる気だった。
「一度本気で叩きのめせば付きまとわれなくて済むかもしれない……」
「ご主人様の右腕の座を……」
魔力を固める二人に松田は何故か上半身を肌蹴させて笑顔で応じる。
「紳士は死んでも治らない。前世から身を以て証明している! 安心してくれるかな幼女様。紳士は決してあなたを傷つけない。頼れるお兄ちゃんとしての座を確保するために互い無傷の勝利を約束しよう。」
「……言ってくれるわねこの変態……」
そして肌蹴させたのは特に意味はなかったのか服を着直してディアの方も見て今度は好戦的な笑みを浮かべた。
「10年早い。顔洗って出直して来ると良いよ。」
「上等です……」
魔素が充満し始める部屋の四隅に小鳥は盛り塩を置いて結界を張る。改造済みという言葉を身を以て実感できそうな強固な結界内部は突如としてその風景を山林地帯へと変貌させた。
「……俺の妹が知らない間に大変なことに……」
「位相をずらし、別世界に被せました。上位世界というものらしいので早々には壊れません。存分に戦ってください。」
小鳥の言葉に頷くフロワは2メートル近い氷竜をガーディアンのように生み出し、ディアの手足には闇がまとわれた。対する松田は余裕の表情で体内で魔力を循環させるだけで何もせずに笑っている。
「では、勝負……開始!」
ディアが前衛を、フロワが後衛を取り悠然としている松田に襲い掛かるのだった。
その頃、クリーク王国とスゥド国を挟むニード山脈の南。スゥド国中央部ではディアから報告があった通り、軍備が進められていた。その中でも精鋭が立ち並ぶ中で、巨体を馬上で揺らす妙齢の女性の姿が見受けられる。
「グヌフフフ……この日が、ついに……」
「ヴォラス夫人。道中の案内任せましたぞ。」
「当然でしてよ。」
女の名前はオヴァ・セイン・ヴォラス。平塚旗下のフィロド、ファンテによって滅ぼされた亡国、ヴォラスの元王女で【白熊姫】の異名を持つ女傑だ。その左隣には少々やつれ気味になってしまった元ヴォラス王国の勇将グリュース、今はグリュース・セイン・ヴォラスが並んでいる。
声をかけたのはオヴァの右隣にいるスゥド国の武将、サミュエルだ。彼は奪われたスゥド国の領土奪還を任じられている将である灰色の頭をした老将だった。
今回スゥド国が出征に至ったのはニード山脈北部地域の地理を知るオヴァの協力があること、またその地方に強力な統一国家が生まれ、スゥド国の南側にある国がクリークと何らかの交渉をしようとしているという噂を聞き挟み撃ちを避けるためだ。
「我が王の聖なる加護。才気溢れる夫人の知る地理。そして我が国の勇壮な兵たちに帰依した者たち。天地人すべて揃った我らに敗北の二文字なし。これより北方の賊を討伐する。全軍、出撃せよ!」
スゥド軍の士気は高かった。
そんなスゥド軍の動静を未だ知らないクリーク国はちょうど半日費やしたテスト結果が出たところだった。
「これは……流石に驚きました。10点満点で10点差し上げてもいい内容でした……それにしてもそれに完勝してしまう松田さんは凄いですね……訓練したという話は聞いてましたが、想定以上です。」
「訓練じゃない! 拷問だった! あぁあぁぁぁあぁぁっ!」
勝利したのに何か嫌なことでも思い出したのか発狂する松田はさておき、疲労困憊で倒れているディアと拘束されたフロワは悔しそうな、申し訳なさそうな顔をして平塚を見る。
「まぁよく頑張ったと思うよ。うん。ただ俺らの特訓がおかしかっただけで……控えめに言って地獄だったし……毎日頑張って訓練してるって言われてもそう簡単に越えられたら立つ瀬がないかな……」
こちらもフォローを入れながら途中で辛かったことでも思い出してしまったのかフォローを忘れている平塚。彼らのことは後でいいかと小鳥が小さなお手てで小瓶を取り出し、フロワとディアを回復させようとする。
瞬間、二人とも手は体側に付け直立不動。更にアンプルを恐れるようにして表情を固めていた。
「薬は嫌だ薬は嫌だ薬は嫌だ薬は嫌だ……」
「わ、私は大丈夫であります! 薬は必要ないデス! 訓練を続けてください!」
「……兄さんたちに何があったんですか……」
瑞々しい果実の香りがし、投与されたディアとフロワが思わず美味しいと溢すほど良い味で体力も気力も魔力さえも回復する代物に怯える二人を見て嘆息した小鳥は次で試験を最後にすると告げて小瓶を仕舞い、最後の試験を告げる。
「では、総合テストに参ります。お二人とも時間をずらして1対1でデートをしてきてください。」




