一線を越える
王宮に戻った平塚と松田は悩んでいた。へクドとギヨームの子どもの名付け問題と、自分たちの子どもの問題だ。
「……いや、俺はロリコンだからさ……ノータッチなんだよ。分かる?」
「知るか。」
既にある仕事については文官たちがやれるようになり、平塚たちに上がって来る物は確認の書類が多くなってきたこの頃、様々なことについて考える余地が出てきた。
「……子どもねぇ……まぁ戦争やってるんだし、やっぱ考えておくべきだろうか……」
「寧ろ俺は子どもが好きなんだが……」
「……仮にお前がファムと致したとして、子どもは産めるのだろうか……?」
「お前こそディアちゃんと致して子ども産まれんのかよ?」
片や見た目幼女の実年齢百余歳。片や見た目大人の実年齢2歳。果たしてどうなのだろうか。
「……フロワは……」
「Yesロリータ Noタッチ。忘れたわけじゃあるまいな……?」
「……俺は別にロリコンじゃねぇよ。でもまぁ、どうしましょうか……」
妙に敬語になってしまう平塚。今はある程度落ち着いているとはいえ、ニード山脈以南の動き遺憾ではすぐにこの場所も戦に飲まれ、自分たちは前線で指揮をとるのだ。
「……でも考えて見れば俺らって異分子だよな。後継者作っていいものなのか?」
「んー……でも、俺らが死んだ後子どもたちのせいで内部分裂したらどうするよ。」
「逆に考えてみろ。俺らが死んだことで中央に求心力がなくなって地方が分裂していったらどうするんだよ。」
色々考えて見た結果、1人ならいいんじゃないかということになった。しかし、そうなったらそうなったでその一人っ子が死んだらどうするということで子どもは多い方が、いや火種にという論争が続いて一先ず政務に逃げることにした。
「まぁなるようになるって。大体俺らまだ20歳前だし。」
「そーだな。でも子どもの名前は考えておかないとなぁ……」
「えっ、アキ様……」
その声に気付いて勢いよく顔を後ろに向けるとそこにはファムの姿が。足下には持って来ていたらしい書類が散乱しており、松田は錆びついた機械のように平塚の方に視線を向けるが平塚は目を合わせてくれなかった。
「ファムは嬉しいです……あの赤髪褐色の腐れ新入りなどではなくファムを選んで頂けて……今夜、閨でお待ちしております……張り切ってお仕事頑張りますね!」
「い、ちょ、待とう?」
こんなに慕われて嬉しいことは嬉しいが変態の矜持に反するので止める松田。何か打開策はないかと周囲を見、なるべく関わらないように机の上に視線をずらしている平塚のことを役立たずめと心の中で少し罵りながらファムに目を向けるとその小さな手の中に打開策と思われる何かがあった。
「あっ! その仕事わかんないって言ってた奴だよね? それのやり方じっくり教えるからさ。まだ国も安定してないし、仕事ちゃんとやっておかないと不安だから。」
「ファムはアキ様と仕事がしたいために嘘をついておりました。これは私が瞬殺します。お叱りは夜、閨でたっぷりと致してくださいませ……」
「待って、お願い、話を聞いて? 平塚ぁ! お前も何とか言えよ!」
「……頑張れ。」
平塚は目線を下に向けたままそう応じた。そんな平塚を巻きこんでやろうと松田が考えを巡らせるがその必要はなかった。
「元帥閣下もご子息様のお名前をお考えの様で。何やら今も熱心に子どもの名前の由来書を……」
「しまった!」
松田はこれに乗らない手はないと笑顔を取り戻してファムに告げる。
「いやぁ、そうそう。俺も平塚の子どもの名付けの手伝いしててさぁ。俺はまだ早いと思うんだけど平塚はもう欲しいって言っててディアちゃんと辛抱溜まらないらしいんだ!」
「テメェ頭弾き飛ばすぞ!」
「まぁアキ様、早いということはございません。寧ろ遅いので今夜から早速始めましょう。それと元帥閣下のお言葉はしかと王女殿下とディアに伝えておきますのでご安心ください。本来でしたら男性の方からお誘いする方が正しいと思うのですがね……」
どうあがいても無駄だった松田を見て平塚はにやりと笑ってからファムに無駄に決めて言っておく。
「悪いがその言付けはいらない。俺はもう少し落ち着いたらきちんと自分から誘うからな! 松田と違って!」
「俺を売る気か!」
「お前が先に売った!」
騒ぐ二人を静かに見据えるファム。その眼力に騒いでいた二人は次第に静かになりファムの言葉を待った。二人が静かになったところでファムは静謐に告げる。
「アキ様、兎は年中発情しております。そして人間もです。」
「……はい。」
「私たちの種族は好きな相手にずっと発情します。今夜、溜めこまれた力を発揮致しますが……政務が終わらない可能性も勿論考えております。」
「はい。」
「ですが、来なければ来ないだけ募っていくことだけはこの場で強く明言しておきます。私はアキ様に死んでほしくありません。なるべく早くいらしてくださいね?」
厳かな雰囲気で性事情について語られてどういう表情をしたらいいのかよく分からない二人。精神年齢はかなり高いのだが異性関係は互いが枷になり、ブラック企業がその牢を勤め上げることで極めて清廉潔白。精神も体に引っ張られて戦争を熟すために日本に居た頃とは異なる精神構造を構築中。嵐が過ぎるのを待つだけだ。
「そして元帥閣下。あなたのもう少しはいつになられるのでしょうか?」
「もう少しは、もう少しで……せめて、政務が落ち着いたらなぁって……」
「割と落ち着いています。前は部下が仕事を覚えるまでと仰っていませんでしたか?」
「いや、まぁ……そうです。」
「確認しますが、アキ様と交わっているから女性は必要ないなどと仰りませんよね?」
「「断じて違う!!」」
何故二人にはこのような噂が付きまとうのか。前世で何かしたのだろうか。いや、その前世でも同じような扱いを受けた。ならばさらに前か。そんなどうでもいいことを考えつつ平塚は僅かに覚悟を決めてファムに尋ねる。
「……仮に、フロワはまだ早いから手を出さないとして、ディアに手を出した場合、あいつは妊娠するのだろうか……?」
「まぁ、するみたいですよ。割とそういう話をしますが。」
「そうか……そろそろ覚悟を決める時が来たのかもしれない。」
「オイテメェ何か格好良さそうなこと言ってるが「アキ様?」ごめんなさい。僕にはもう少し覚悟する時間が必要なんです!」
文句を言おうとした松田をファムが閨に引き摺って行く。平塚は覚悟を決めたのに片割れが居なくなったことから仕事に追われることになり断念した。そしてその夜、疲労困憊の松田が平塚の部屋を訪れる。
「……やったか?」
「何か怖いフラグだからやめて……やってないよ……」
「おにーちゃん?」
「ひぃぅっ! や、やぁ、マリーちゃん。」
よろめくほど疲れていたはずの松田は後ろからかけられた声に身を竦ませて直立する。そこにいたのが燃えるような赤い髪に健康的な褐色色の肌をした悪魔幼女だった。彼女は外見から想像もつかない妖艶な笑みを作って松田にしなを作ってみせる。
「いけないこと、しよ?」
「喜んでぇっ! はっ! いかんいかん。ノータッチノータッチ。でも可愛いっ!」
「…………」
平塚は天井から恐ろしい寒気を感じ取り上を見上げて瞠目した。その晩、松田から何度も……何度も悲鳴が上がることになる。




