ルノティスにお忍び
「……ということでやって来ましたルノティス。」
「いや~……こうやって二人だけで来てみると意外とあの将軍的なノリは疲れてたんだって気付くよな。何か今猛烈に幼女に告白したくなって来たもん。」
「……お前は一生仕事漬けにしておくべきかもな……まぁ流石にそんなことはさせたくないから自重しろよ? 買い食いとかして遊ぼうぜ。」
「いいね。高校の時を思い出す。大学の時は買い食いっつーか基本は家に居て食いに行くって感じだったしな。」
平塚と松田は関門でお金を払ってルノティスへと入って来ていた。身分証は自分で発行している様なものなので簡単に作って適当に持って来ているので特に問題はなく滞在許可が下りている。
「あぁ、まぁ一応視察という名目で来てるわけだから全部ほどほどにしておかないとな。」
「でも使うのは俺らの給料からだぜ? 別によくねぇ? それに移動手段とかも俺の魔術だから金掛かってないし。」
「アレだ。国民感情的なのがあるだろ。」
「公費で遊んでたら問題だろうが別にいいじゃんよぉ……」
「……まぁ俺らが普通に遊ぶ程度なら別に何も言われんだろうがな。一応だ一応。」
そんな会話をしながら二人はメインストリートを歩いて行く。ここではニード山脈を挟んでアヅチ族やクリーク王国などの様々な物資がやり取りされていたりしてかなりの賑わいを見せていた。
「おっ、魚の干物が串に刺されて焼かれてるぞ。」
「お祭りみたいだな……まぁゴミが散らかってるのがあまりいただけないが……」
「流石に細かいだろ。ニード山脈より南に生息してる魔獣の肉だってよ。」
「あ、そっちは美味そうだし食おうぜ。」
お祭りのような感覚で露店が並んでいる中を買い食いしながら進んで行くと当然その先には関所がありその奥にルノティスの誇る頑強な白が聳え立っている。
「……まだいいか。もう少し遊んで行こうぜ。」
「おー……何かあっちに劇場があるらしいぞ。」
「へぇ……何気に初めて見るし行ってみるか。」
学生気分に戻っていた彼らは忘れていた。この国で人気の戯曲は彼ら二人の英雄譚であることを。見ていて背筋が痒くなるような美辞麗句の導入に歯が浮くどころかその歯に釣られて思わず立ち上がって叫びたくなるようなセリフを素面で名前を借りられて言われている様子。
魔法によるエフェクトは見ていて感心したが、見ていて面白いとは思っても名前を聞くたびに我に返ってしまうので二人は気疲れするだけだった。
「あー……もう下町の視察はよくね? 関所を超えた城下町の方に行ってみよう。」
「そうだな……でもある程度の身分になるとバレそうで怖い。」
「お前の魔術を信用してるぞ。それに、それくらいのスリルがあった方が面白いじゃねぇか。」
下町を見て回った二人は一応身だしなみを整えると関所に向かって歩き出す。当然、門番に止められて事情などを訊かれるが自分たちが作った密書という文字に印を押してある蜜蝋で固められた玉を見せると渋々と言った態で上に確認を取りに行き、彼らの入城までのパスが認められた。
「んー……城下町には貴族が住んでるからなぁ……結構厳重だな。」
「王都並じゃね? 貴族の他には城で働いてる人ばっかりみたいだから此処まで入った人たちは普通に入城出来るはずだし、警備も厳重になるものだろ。」
「あんまり大きい声でそういうこと言ったら密偵か何かと勘違いされて睨まれるぞ。」
あまりうろうろしていても楽しい物や目ぼしい物はなさそうだったので二人は城下町は適当に通りさっさとメインディッシュに入ることにして入城して行った。
「……さて、そろそろ魔術解くか? あんまりこの姿のままでも警戒されるだろうし。」
「そうだなー……いや、でも出来れば知り合いを驚かせてみたいという気も……」
「いや、驚くとは思うがそれやると次から脱走する手がなくなるじゃん。ここは伏せておいた方が良いと思うぞ。」
「それもそうか。」
ということで城の近くに来た時点で変装を解いて通常の俺たちに戻る。そして城に近付くと次の瞬間にはどうしていいのかわからないといった非常に慌てた様子で門兵が出迎えて来る。
「こっ! ここ、れはあの! げ、元帥きゃっか! このような所へようこそおいでいただきみゃした! しっ、失礼ですが、申し訳ありません! ですがあの、きっ、規則でして……その、確認を……」
「通行証だ。」
「ご、ご無礼をお許しくださいっ! すぐに行って参ります!」
敬礼して走り出していく門兵。松田と平塚はなんでそこまで慌てて走り去ったのだろうかと思っていたが帰って来たのは別の人物だった。
「大変お見苦しい所をお見せしてしまい、誠に申し訳ありません。お待たせいたしました。すぐに城主の下へご案内させていただきます。」
「あぁ、そうしてくれ。」
恭しく礼をして跪く老齢の男にそう言うと二人は王城に比べると質素ながらそれなりの調度品が飾られている廊下を進み、二人はなるべく趣向を凝らしていると一目でわかる豪勢な部屋に通された。
「ここでお待ちください。我が主たちは間もなく準備を整えて参ります。何分、突然の御訪問でしたので不手際があること、お許し願います。」
「いや、抜き打ちでの調査だ。それは構わんよ。挨拶と雑務についての話を終えた後は視察に回ってすぐに帰るから安心しろ。」
「……畏まりました。では、失礼いたします……」
再び恭しく礼を行って立ち去る老紳士。それを見送ってから二人はひそひそと話し始めた。
「……何か豪い怯えられたな……」
「何か悪戯感覚で動いてたが普通に考えたら大企業の創業者が地方の支社にアポなし訪問して来たみたいな感じなのか……」
国の英雄二人は自覚なしでそんなことをいいながらこの城の主、へクドとギヨーム夫妻を待った。程なくして礼装に身を包んだギヨームと体のシルエットが隠れるようなゆったりしたサイズのドレスを着たへクドが現れて簡略な挨拶を済ませるとギヨームの方が何やら嬉しそうに二人に笑顔で口を開いた。
「ところで、元帥閣下。この度私に子どもが出来まして……よろしければ、名前を与えて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
視線をへクドに向けながら相好を崩すギヨーム。平塚と松田はこれまで無表情を貫いてきた夫人の頬に朱が入るのを見てから協議に入った。
「……受けた方がいい、よな?」
「あぁ……俺らネーミングセンスないけど……」
「無難なのがいいよな……?」
「だが、求められてるのはもっと違うものだよな……」
一先ず、生まれるまでにはまだ時間があるらしいので時間を貰うことにした二人はへクドとギヨームに最近どうかと反抗期に入った息子と二人きりになってしまい何か話題を探るかのような父親の台詞のようなことを尋ねる。するとギヨームが笑顔になった。
「最近はへクドの体にいい物を城の中で頑張って作ってます! 勿論、へクドのストレスが溜まらないように仕事も万全です!」
「……その、恥ずかしいので結果だけお伝えすれば……」
「え? いやぁ……つい。」
砂糖を口から吐きそうになった。何となくまともな恋愛をしてこなかった平塚と松田は青菜に塩をまぶしたかのように元気を失う。
「そ、それで収支なんかは……」
「いや~可愛い子どもが生まれるので苦労させたくないとかなり気を遣ってますよ。みんなから愛される子どもになってほしいですから民との関係とかのバランスなんかも……」
「そ、そうか……」
子なしの勝手な僻みだろうか。ギヨームが眩しい。いつも主に辛辣だったへクドもギヨームが仕事は完璧にこなしている上、別に悪いことをしているわけでもないので何も言わないのが更にギヨームの語りに拍車をかけている。
この後、視察も行ったが体に障るからへクドは城に残るようにいつもと変わって凛々しく言いつけるギヨームとのやり取りを見て何かやるせない気分になり、視察中も惚気られ続けて二人はその日中に心身ともに疲れた状態で王都に戻ることになった。




