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異世界不本意戦争記  作者: 枯木人
内政編
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潜入調査

 一晩帰って来てから泥酔した俺と松田はシナモンをたっぷりかけたシュガートーストを朝から豪勢に頂いてこれまでの体験と学んだことを忘れないようにまとめながらこれからについて話し始めた。


「内部に目を向けないといけないな。国境付近で別勢力が侵攻してくることばかり考えていたが……一度撃退して中央に名声が集まってる間に意識改革をしないと感謝の気持ちなんてすぐに薄れるからな。今が洗脳のし時だ。」

「それも大事だけど、地方を任せてる領主たちへの支援も大事じゃないか? あの真正デスマーチで人材の大切さを実感してる今の内に熱を込めないと……」

「まぁ制度は人が作るものだからなぁ……となると、やっぱり教育か。アレも幸運補整ありきの集合率だしな。どうやって広めるか……基礎教育は経済発展の根幹的要因なんだが……」


 そんな会話をしつつ休憩に入る。しかし、外に出ると修羅場になる確率が32%ほどあるので給仕を呼んで仕事を続行している態で休むのだ。


「制度が先か、人材育成が先か……制度は人が作り発展させていくものだがただ作るだけだと意味も分からず制度を邪魔者扱いするだけになるしな……」

「軍律に関しては俺らと一緒にデストレーニング受けて育成済みの将軍たちが賛同してくれるから勝手にさっさと進むけど内政は誰も指導受けてないからなぁ……」


 統率力、武力に関しては申し分なく、もっと言うのであれば少人数の運用では2人よりも遥かに優れた面々になった将軍たちだが、政治、治世に関してはほとんどノータッチだ。そちら方面での人材が足りていない。


「……育成も進めないといけないし制度改革も進めないといけないが……現行の制度が浸透し始めたばっかりですぐ改正ってなると混乱がねぇ……」

「人間に関してもまだ微妙に派閥あるしな……一応最大勢力だが教会関係者の原理主義組とかこの前の俺ら追い出し騒動にも参加しなかった超保守派とか邪魔だよな……でも独裁になると俺らが老人になった時にブレーキ掛からなくなってる可能性もあるし……」

「つーか、教えるにしても新しく色々教わったせいでどこから手を付けたらいいか分からなくなってきたんだが……」


 愚痴り合いつつ運ばれてきたお茶会セットを机に置かせて再び二人きりになると溜息をつく。


「……アレだ。こうなったら一回お忍びで視察に行ってみるってのはどうだ?」

「あ~アリかもなぁ……息抜きにもなるし、現状がよりわかりやすくなる。何より缶詰に気が滅入り始めてたしな。」


 ただ、と平塚は付け加える。


「俺ら面割れてるんだよなぁ……なぁ【黄昏の大魔導師】様。」

「その件に関しては大丈夫だ【光の英雄】様よぉ。苦心の末にハリウッドメイクみたいな術を使えるようになってるからな!」

「え、マジで?」


 驚く平塚の前で松田はドヤ顔で変身してみせた。


「うっわ! マジかよ……自分のことをそんなにイケメンにして何か見てるこっちが恥ずかしいんだが?」

「そっちかよテメェ……お前の顔はあどけない美幼女の顔にしてやる……」

「止めろ! このガタイにそんなのキモ過ぎるだろ!」


 何となく気恥ずかしくて素直に賞賛の声をかけられなかったせいで無駄な心配を生み出すことになったが、取り敢えず二人は変装して部屋の外に出てみることにした。


 そしてすぐに立ちながら書類を片付けているファムに出くわす。


「っぅぉっ……」

「しっ! 必要以上に驚くな……それと、俺らは平の設定だからな。相手は元帥の側近。畏まれ。」

「分かってる分かってる。……何か楽しいな。」


 わくわくしてきた二人はファムに敬礼をし、立ち去ろうとして……声をかけられた。


「そこの人、魔導元帥閣下は現在何をされていますか?」

「はっ! お休みになられています!」


 松田は魔術で声をいつもより低めに変えて返答した。それを受けてファムは顔を少し俯けて何やら呟き始める。


「むぅ……そろそろ息抜きに外の空気を吸いに出てくるはずですが……あぁ、そこの方。もう結構です。職務に戻りなさい。」

「失礼します!」


 ファムから離れる二人。ファムの姿形が見えなくなったところでまっすぐ正面を見ながら更新しつつひそひそ話し始める。


「さっきの……怖いな……」

「偶然会うことが多いと思ってたのに……計算され尽くしてる……何で分かるんだ……」

「にしても声も変えられるんだな。俺のもやっておいてくれ。」

「……甘く蕩ける美少女ボイスとかどうだ?」

「ふざけ「あの、いいですか?」はいっ!」


 声をかけられるとは思っていなかった平塚は裏返りそうになる声を抑えて平静を装い、たった今こちらにやって来ていた黒髪の美少女……ディアに対して甘く蕩けるような美声で敬礼を行う。


「…………失礼ですが、見かけない顔ですね? 王宮内部まで入れる方はほとんど覚えているのですが……どこの所属か言ってください。」

「はっ! 元帥閣下直属私兵のソウ・キツと申します!」


 華麗なスルーを受けた後、少々高めの声ながらギリギリ少年と言える範囲の声に戻る平塚。後で覚えてろよと松田に内心でブチ切れつつディアに自筆の書面を見せると頷かれる。


「元帥閣下の……成程、もしかして……」


(……ディア、普通の人間じゃ分からないからって人前で言っていいことと悪いことがあるんだよ……?)


 平塚にBL疑惑を持ち上げるディア。火のない所に煙は立たないという理論武装の中で出版されていた衝撃の事実を知り、微妙にショックを受ける平塚はだから私に手を出さないんだと悪魔語で少し悲しげにつぶやくディアに声をかけた。


「あの、私どもは使命がありますのでもうよろしいですか……?」

「……はい。お疲れ様です。」


 再び足早に去る二人。ディアから離れ、王宮内部からそれなりの使用人が出入りする場所まで行ったところで平塚は松田に蹴りを入れる。


「何てことしやがるんだ! バレたらどうする!」

「笑う。いや~でもウケたわ。似合ってたぞ春ちゃん。」

「殺すぞ? ……いや、変装して出掛けていたのは娼館に行こうとしてたからだってファムにバラす。」

「申し訳ございませんでした。私が悪うございます。」


 人がいないことを確認してそんなやり取りをしながら移動し、外に出たら昼飯奢りとかそんなことを決めつつ王城の門に着いた二人は元帥紋の付いた書面で外に出て……


「……!」

「跪くぞ!」


 フロワの乗った馬車に出会い、慌てて跪いた。城の内部に入るために手続きを受けている馬車から降りたフロワ。外出してたのかと今更知るが、その彼女は何故かこちらを注視している。


「オイ……バレてないよな?」

「俺の術式は万全の態勢だ……ただ……」

「……ただ? 何か問題でもあるのか?」

「俺の理性が崩壊寸前だ……飛びついたら不敬罪で処刑かな?」

「あぁ。裁判なんてなしで処刑だな。」

「……今から俺は気を失う。後は任せ……」


 松田が気を失う前にフロワはこちらを見て首を傾げた後、馬車の点検も終わり城の中へ戻って行った。それを見送ってようやく二人は立ち上がり、城下町に入って松田のおごりで昼食を摂った後、まずは城塞都市ルノティスを目指して移動を開始した。




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