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特訓終了

「……はぁ。やっと攻め込んで来てくれましたねぇ……」


 悲鳴と怒号、それに劫火が辺りを舐め、燃え尽くしていく音が響く中でマスクを被った美しい女性の気だるげな声がやけに響いた。


「さぁ、これで俺らの勝ちだ……」

「えぇ。まぁ一応勝利にしてさしあげますよ。よくできました。」


 平塚と松田、それにいつの間にか現れたタナトスと突撃して来たリーゼが揃った中で囲まれた女性は拍手を送る。リーゼにはそれがカチンと来た。


「おいおい、どんだけ上から目線なんですかねぇ? あなたが予想できなかったからここまで攻め込まれたのはお分かりで?」

「おい、止めとけ……下手に機嫌損ねて皆殺しにされたらまた最初からだぞ……」


 タナトスが止めるが、発言は取り消せない。タナトスはそっとヴェネチアンマスクを付けた女性の方を見て一か八かの逃走を試みるが彼女は艶やかに笑っていた。


「そうですね。まぁ……マスターの仰せの通りにこの世界で最も頭の良い人間の想像できる範囲内で戦った上で、あなた方はそれを越えることが出来たのでマスターに関して何か非礼がない限りは割と寛容にいきますよ?」

「……はぁっ。クリアしたなら……外に出してくれ……」


 尚も続く上から目線にリーゼが不満気にしているこの場にジャックも合流して来た。余程疲れているようで溜息を吐いては槍を杖のようにして立っている。


 それに対して女性は鷹揚に頷いた。


「えぇ、出します。……その前に、あなた方にご褒美を与えるので聞きなさい。」


 ご褒美。これほどまでに頑張ったのだからさぞかし良いモノなんだろうなという期待が高まる。そんな視線を集めた中で彼女は告げる。


「この、シュラハトバッターリャにおける永久試行戦争という一文を消去します。」

「……?」

「つまり、ある程度安定すればすぐに再び戦乱を起こすというこの世界の本能的な流れを断ち切り、政治的不信が高まったり、余程の貧困や飢えなど何かしらの理由がない限りは戦争がそうそう起こらない世界にするということです。」


 そう言われても松田と平塚にはピンと来なかった。しかし、リーゼとジャックは驚き過ぎて口を開けたまま固まっている。その認知のズレについて平塚がタナトスに尋ね、解説を求めた。


「あー……まぁ、例えばお前さんたちがニード山脈だっけ? あの北部を統治したら追い出されて反乱がおきただろ? お前らは『幸運補整』によって幸運にも復帰したが……普通ならまた勢力が割れてるんだよ。この世界の法氣によると。」

「……はぁ。」


 まだよく分からないので気が抜けた返事しかできない。タナトスはお前らとは世界の成り立ちが違うし幸運補整によって気付かない矛盾だっただろうから気にしなくていいとだけ言うと美女の方を見て嫌そうに口を開いた。


「……で、これで終わりって……」

「ことにはなりませんね。最後に、この世界最強の人間たちを合わせたレベルの私と戦ってもらいましょうか。安心してください。これに負けてもご褒美は取り消しません。ボーナスステージとでも考えてもらえれば結構ですので……」

「ルールは何ですか?」

「死んだ時点であなた方は元の世界、シュラハトバッターリャに戻ることが可能です。そしてあなた方の勝利条件は……私の体にかすり傷でも付けられたら、でいいですよ?」


 その言葉を受けて一気にやる気が出始める。デメリットなしでこれまで苦しめられ続けてきた相手をぶちのめすために戦えるのだ。聞いた話では相手が常識外の化物だとしても、目の前に立っている分には単なる……いや美し過ぎると言う形容が付くかもしれないが、単なる美女だ。


 現段階においても超然とし、不遜な物言いの相手に対して今にも飛び掛かろうとしているリーゼたちを抑え、タナトスが尋ねる。


「……俺の参加は?」

「してもいいですが……あなただけ本気で迎え撃ちますよ? 彼らがその余波に巻き込まれても私は知りません。ついでにマスターにはあなたが悪いと報告します。」

「大人しくしておきます……」


 タナトスが大人しく引き下がったことで彼の特訓を受けていた平塚と松田の警戒は嫌にも更に高まる。そんな彼らに対してタナトスは告げた。


「お前らは、俺の試練を潜り抜けた……大丈夫だ。目の前にいる方と普通に戦ったら星どころか世界ごと消し飛ばされるかもしれんが、相手はこの世界における最高の人間レベルで戦うと言ってるんだ。お前らならやれるはずだ。行って来い……」


 無言で頷く平塚と松田。その場にゴンザレスも乱入して来た。そちらに気を取られた瞬間、戦端が開かれる。


 まず最初に飛びかかったのはこの陣に最後に入って来たゴンザレスだった。状況を把握しているのかいないのか分からないが、その突入して来た猛獣の如き力を殺さずにそのままぶつけるようにして女性の柔らかそうな肌に槍を突き立てる。


「……え、呆気な……」

「ジャック! 気を抜くな!」


 思わず拍子抜けしたジャックに悪寒が走った平塚が叫ぶ。しかし、時すでに遅い。胸から剣を生やした彼は光の粒子になって消えて行く。何度も見た光景で血飛沫などは上がっていないため、驚く一堂に対して冷静に平塚は告げる。


「いいか、これが魔術師だ。この程度なら調子がいい時の松田でも出来る。全員、相手が終了宣言を吐くか死ぬかするまで絶対に気を抜くな!」


 平塚の号令の下に最終戦が始まる。



 その後、しばらくして平塚と松田を除く全員が脱落してシュラハトバッターリャに戻って来た。しかしその二人だけは翌日になっても戻ってこなかった……







 そして翌日の朝遅く。昼になる少し前に空間が開いた。


「……っつつ……!」

「くっはぁ……やっと、戻って来た……」

「た、大将たち……結果は!?」


 結果が気になって精神的な疲労が溜まっていたにもかかわらず、ずっと待っていたリーゼ。そしてほとんどが帰ってきているのにもかかわらず帰ってこなかった平塚を心配していたフロワが彼に飛びつく。しかし、戻ってきた両名は何も言わずに虚空を眺めてニヤニヤしている。


 未だに大人状態のフロワのため、松田の嫉妬もそこまで大きくないのか。それとも両方ともあの女が原因で頭がおかしくなってしまったのか。そう心配した次の瞬間、空間から長方形の箱が降って来た。それが来るなり二人とも勢い良く飛びつく。


「来たぞ!」

「あるか!?」

「あったぁああぁぁっ!」


 フロワやファム、その他心配していた人たちのことを忘れたかのようにハイタッチして平塚と松田は小躍りして喜び、一通り喜んだところで我に返って報告した。


「何とか、髪の毛を一房切れた。全員協力ありがとう! それでご褒美に香辛料、及び俺らの故郷の味を届けてもらった! しかも、定期的にまた届くぞ!」

「カレーだ! カレーだ! やっべ、今から涎出そう。」


 あれだけ頑張ったのに何言ってんだこいつらと冷めた目で見られる二人だが、その後に続いた魔具類を配分して全員へ報酬として払うことで忠誠度の低下は防ぐことが出来た。




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