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頑張れ

「右方展開を進める! 後軍は下がりつつ中軍は迂回せよ! 半円になり相手を包み込め!」

「リーゼ様、ダメです! 食い破られます!」


 阿鼻叫喚の戦場。悲鳴に近い声が響く、林に近い低草原で将兵入り混じっての大混戦。リーゼは敵兵を刺殺しつつその声に応じた。


「あーあー……やっぱり読まれてたねこりゃ……化物だなホンット……でも、ここまではこっちにとっても想定内だよっ!」


 山、川辺、平地、市街、高地、沼地、海、城、森、草原、荒野……


 平塚達は様々なパターンで千を超える戦争を経験していた。それでもまだ一度たりともヴェネチアンマスクを被った美女の待ち構える敵本陣へと斬り込めていない。


 兵力差は2倍。正面切って闘えば勝てるはずの戦だが、相手が絶対にそれを許さない。その為平塚達も複雑に策を練るようになっていた。


「前方の指揮権はジャックに任せる! こっちは継続してあたしがやる! 折角敵さんを陣から引きずり出したんだ! 本体が来るまで持ち堪える!」


 そして複雑に策を練ることで平塚達の軍は連携を取るスピードも上がり部隊や各将ごとの得手不得手の理解も進んで自由裁量が増えても何とか持ちこたえられるようになっていた。


「ふ、伏兵成功です! 囲みました!」

「これで、どうだ……? いや、考えてる暇はねぇ! ここで広がったまま各個撃破なんてされちまったらまた負ける……中軍は反転してあたしに続けぇ!」


 戦争戦争戦争ばかりで戦好きのリーゼもうんざりしていた。勝ち戦ならまだ続いてもいいが毎回負けているのだ。不満しか溜まらない。


「! リーゼ様! 敵の撤退が規則的過ぎます。この陣にはマジックトラップが仕掛けられてる可能性が……」

「いや、これは違う。多分……前に城でやられた空蝉の策だろう。この機を逃すな追い立てろ!」


 一瞬、過去に爆散した部隊のことを思い出したリーゼだが、突撃の手を少しだけ緩め、慎重に考えてから号を下す。


 果たしてそれはリーゼの勘に違わずマジックトラップのない陣だった。


 ただし、その追った先には伏兵がいたが。陣の為に刈り取られていたと思われる草の山や木材の背後からリーゼの部隊に雨の如く矢が降り注ぐ。その矢に対して配下は円盾でそれを凌いだが、唯一すべて武器で薙ぎ払っていたリーゼは舌打ちをして近くの兵に降り注ぐ矢の音に負けないように命を下した。


「チィッ! 毎回毎回厭らしい……! 構わん! あたしたちの部隊は伏兵を潰すことに専念して各個撃破を狙う! カシザワに私たちはここで留まることを伝令しろ!」

「はっ!」


 リーゼは獰猛な肉食獣の顔で敵伏兵群に喰らいつきにかかった。





「……チッ。また、分断された……敵も本当にやってくれる……」

「ジャック様! 挟撃には成功したようです!」

「……このまま逃がさないように。中軍はリーゼ隊長だったね? 彼女は今どうしてるかな……」

「半円状の包囲網が完成し、本隊の合流に応じて反転攻撃しております!」

「……そう綺麗に行ってくれるとは思わないなぁ……多分罠だろうけど、リーゼ隊長には頑張って食い千切って欲しいね。そろそろ帰りたい……」


 ボヤキながら先陣を切っていたジャックは迫り来る敵を寄せ付けないように兵に命を下しつつ先陣から全体を見渡していた。


「はぁ……正直、俺みたいなタイプは先陣切って闘うものじゃないと思うんだけどね……ゴンザレス隊長とかがいいって……まぁ人手が足りないから無理だろうけど。」


 敵兵の流れを読みつつ嘆くジャックだが、その目は一切の甘さが存在していない。全神経を集中させつついかに相手を出し抜くかについて考えている。


「こっちは、勢いが少ないな。牽制程度で済んでる。」


 ジャックは全体を何とか見通そうとしてそう呟いた。勢いが弱い根拠としてはジャックが先陣であるのにもかかわらず、忙しなく号令を下すこともなく全体を見渡す余裕があることからも自明のことだがそれがどうしてもジャックには引っ掛かった。


「……何か待ってるな。」

「何か、とは?」

「分かってれば苦労しないよ……でも、リーゼ隊長の方は伏兵が待ってたみたいだね。まぁ随分燃えやすいモノの陰に隠れてることだけど……」


 火を放たれると包囲網が崩れる恐れがある。しかも、これまで散々苦戦、敗戦させられてきた相手だ。草や木に嘆きの結晶を混ぜていても何の違和感もない。


「火計か……待てよ?」

「どうかなされましたか?」

「考えられない手じゃない。すぐに本陣に向かえ! マツダ様に火計の恐れありと伝えろ! 伝令、リーゼ隊長の方にも敵に火計の備えありと伝えろ。ただし、相手には気取らせるな。」


 ジャックはすぐに指令を下して戦況を見守る。


「こりゃ、何かあるから待つってことは厳しいか……最悪、自分たちも突っ込まないと……」


 動きがあった時、彼はどこに突っ込むべきかを冷静に見定め勝つためにジャックは機を窺う。






 本陣。平塚は逃げている敵兵に対して自分たちは最低限しか動かずに指示を出しながら伝令を受けては送り返していた。それに対して松田は叩き付けんばかりに地面に戻そうという強烈な力が働く中で時折空へと飛び上がって地上の様子を平塚に伝える。


「……よし、一応は……完成した。」

「リーゼ隊から伏兵に対して応戦するため合流は難しいとのこと。カシザワ隊が代わりに突撃の音頭を取り合流する……」

「ジャック様より伝令です。敵、火計の恐れありと。既にリーゼ様には通達済みながら、伏兵箇所にてマジックトラップではない原始的な罠が考えられるとのこと!」


 その言葉に舌打ちを漏らして地上に降りて大きく息をつく松田。彼はすぐさま彼の配下である魔術兵たちの出兵の準備を整えるが平塚がそれを制した。


「おい、止めねぇと……」

「いや……想定の範囲内だ。カシザワに風魔術で風向きを変えさせろ。ゴンザレスに敵兵の流れを誘導するように伝令だ。自ら熾した火の中に飲み込まれるがいい!」

「おいおい、リーゼ隊が全滅するぞ?」


 平塚の言葉によって松田の脳裏をよぎったのは敵の鬼謀だった。防衛戦の際、こちら側の兵を捕まえて大盾に括りつけて戦意を削いだり、自爆特攻させたりするその戦法に松田は人道に反すると嫌がり、平塚が感心していたのを嗜めたものだ。

 もしや、それを自軍の兵で行うつもりじゃないだろうなという目で松田が平塚を見ると彼は不敵に笑っていた。


「しないさ。まだ、俺らの隊には人がいるだろ?」

「……ならいいが……ふぅ、すっ! ……おぉ?」


 再び空に舞い上がった時、松田の眼前にいるリーゼ隊には新たな軍勢が加入して戦線を押し上げた挙句火矢を放ったかと思うと急速に引き始めた。


「アキ様の正妻は私だぁあぁぁあぁぁっ!」

「おわっ!」


 隠密部隊、ファムに率いられた部隊のもの凄い気迫の前に気が緩んだ松田はすぐさま地面に引き戻される。そして引き攣った笑みで平塚に告げた。


「……これ、帰っても俺の修羅場は続くよな……」

「……さ、さぁ! ここで気を緩めたらダメだ。全軍敵を炎の中に押し込め!」


 平塚は答えず、松田は自棄を起こしながら敵陣へと攻め込む。炎から逃れるためにそれまで揃えられていた陣形は崩れ去り、彼らはここに来て初めて敵本陣へと攻め込むことに成功したのだった。




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