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交代

「くっ……撤退だ!」


 平塚達はジャングルから撤退していた。


「……マズイな。中立勢力を敵側に手懐けられてる……」


 神軍にも平塚軍にも選ばれなかった集団はジャングルでの生活を余儀なくされていたが、彼らは武器を所持してジャングルの中に入って来る者全員に対して等しく攻撃するゲリラ集団になっていた。


「いや、手懐けてるというよりは……自立した第3勢力を生み出された形になるのか……戦争というより外交の技だな。実際にされるとその有効性が身に沁みてわかる……」


 平塚は感心していた。戦争の常套手段とはいえ、自軍をまとめることに腐心していた平塚はそこまで頭が回らなかったのだ。

 されて、見て、初めて自分であればこうした、ああしたというものは出て来るのであって、現実には取り返しがつかない。


 陣、今や砦と化した場所に戻ると松田が唸りながら紙切れを見ていた。


「……うーわ……見ても分からん……」

「これはテストだからな……地盤支持力の計算を……テルツァーギの式を修正して入れるはずなんだが……思い出せない……」

「……元々教育学の分野だったのによくやるよ……」


 人文学の平塚は図を見ても式を見ても全然わからなかったが興味本位で尋ねてみる。


「これは何?」

「クーロンの土圧理論で主動土圧の合力を求めるやつ……まだ、簡単な方……あの人?平気で土の種類を混ぜるし、地下水まで入れて来るから……本当に信じらんない……」

「こっちは?」

「分からん……『天才なんですよね?じゃあフーチングとランキンの式で求めなさい私はマスターといちゃついてる姉を弾き飛ばす作業で忙しいのです』で済まされた……」


 無茶苦茶だった。それよりも松田は平塚の状態を尋ねる。そして平塚も自らの進捗を話すと2人揃ってため息をつく。


「無理ゲーじゃん……」

「まさに神の試練だな……理不尽……」

「そうでもないけどな。」


 二人以外の声に思わず平塚と松田は顔を跳ね上げる。そこには黒ローブの青年がまた別の女性と思われる人物と一緒に佇んでいた。


「……これは気にしなくていい……バカだから。」

「酷いであります!」

「いいから帰れよお前……何でここに来たんだよ……」

「提督閣下が軍を動かしていると聞いて、軍神として、幕僚の一人として駆けつけたであります!」


 青年は仮面を被っている女性を無視して平塚達の方を見た。


「さて……今どんな感じ?行き詰ってるよな多分。」


 二人は頷く。それを見て彼は楽しそうに笑った。


「だよな。だって俺が連れてきた奴らは普通の人間を育てるのには向いてない奴らだし。」


(じゃあ何で連れて来たんだよ……)


「いや、何……お前らの軍勢を見て、お前らの城を見て感じたことを実際に体感してもらおうと思ってな。」


 簡単に心を読まれていることに気付いた平塚は恐怖を覚える。それを青年は手をひらひらさせて遮った。


「面倒だから話を進める。お前の部下はお前じゃない。お前が出来ることを全員が出来ると思ってやるな。」

「……?」


 そんなに押し付けるようなことはしていないはずだ……そう思った平塚と松田は首を傾げるが青年は続ける。


「ファンテかファンデか知らんが……お前らの部下の中でそこそこ上の位に居る奴がいるよな?」

「え、えぇ……」

「あいつにお前、自分の覚えてる限りの兵法を教えたな?」


 確かに、教えた。それを何故知っているのかは分からないが、そういうものだろうとして脳内で処理すると彼は続ける。


幸運にも(・・・・)、そいつは頭の良い奴で、それを理解して覚えられたが……普通の奴なら理解すらできない。」


 平塚は黙って脳内で自分だって最初から最後まで覚えろなんて言っていないと思うが、目の前の青年は嘲笑するように笑った。


「伝えてねぇ指令は指令とは言わん。特に、上位者からの命令に背くことは非常に難しい。ロリコン。お前に教えてた奴はかなり適当じゃなかったか?出来て当然って感じで投げてなかったか?」

「……正直に言うと、そうです。」

「抗議した?」

「……してません。」


 青年は頷いた。


「こいつが抗議できなかったのは色んな理由があるだろ。例えば、好意でしてもらってるから。相手の方が上位者であると認識してるから。どうやっても勝てない相手だから。」


 さて、と青年は続ける。


「ファンテだかファンデだかとお前はどんな関係だ?」

「今の松田と同じ……です……」

「まぁそういうことだな。1から10まで全部自分でこなすなら別にそれでもいいが、相手を使う気でいるなら明確に意図が伝わるように指示を出せよ?最初から膨大な量を出して、終わったならそれでいいだと……相手は潰れるぞ。」


 自分たちが死んだ状況が蘇った。上司は、どうだっただろうか。


幸いにも(・・・・)、今回は問題になってない。まぁ会社何かに所属すると社風に染まるように斉一性の力がかかるからそれに染まるのは仕方ないんだ。問題になる前に処理できてよかったな。」


 彼はそう言って笑う。


「まぁ、説教染みたことはあんまり言いたくないんだけどな。ある状況下におかれた時に自問自答して勝手に思い浮かべてくれりゃそれでよかったが、まぁ無理そうだったし下らんことを言った。こっからは教える奴を変える。」

「……因みに、性別は……」


 平塚はあまり女性ばかり連れ回されてもやり辛いのだが……という感情をこめて青年に言うと彼は微妙な顔をした。


「俺が女好きみたいなこと思ってやがるな……言っておくが、俺は男女問わずある程度の知的生命体は全部嫌いだからな……?」


 平塚は思わず背後からきゅうりを近くに置かれた猫のようにその場から飛び退いた。青年が連れて来た女性から、得体の知れない物を感じたのだ。


「おぉ、そっちも鍛えないとな……取り敢えずタナトス辺りが適任だな。アレを呼ぼう。」

「……その、方は……」

「さぁ?腹でも減ってんじゃね?どうでもいい。よいっ。」


 無言で何かを鎮める女性を無視して青年は黒髪の美青年を呼び出した。


「これ、鍛えといて。」

「おー……!中々、いい体してますねぇ……」


 平塚達は今度はこっちか!と後ろを抑えつつ身構える。それに対して目の前の二人は談笑していた。


「薬物、魔術、氣術の類は使用しない鍛え方で。あ、それとこれ終わったら俺少しバカンスに出掛けるかも。」

「うぃっす。教える範囲は?」

「……経済学の基礎、軍事は結構行って、力学もそこそこ。そっちの奴はロリコンだから魔術も。まぁ、レジェクエの基本セット位?」

「了解っす。」


 そして黒ローブの青年は手をひらひらさせた。


「悪いけど、俺はここまでな~あんまり長居するとこの世界滅びるし。後はそこのタナトスって奴に訊いてくれ。あ、タナトスにはこのメモを渡しておくから有効活用してくれ。」

「……提督閣下。この世界を出たらお話があります。」

「うっせー」


 そんなノリで彼は空間を一時的に閉鎖し、タナトスと共に平塚達は元の世界に戻る。その時点で創造神は顔以外はこの世界から出ていた。


「あの世界は残り3ヶ月ないくらい。それで、もう少し周囲に目を向けることを考えるようになってくれたはずだから、鍛えたい面子を何人かその中に連れて来ると良い。……しっかりと、考えろよ?」


 そう言い残すと今度こそ彼は消え、それに伴うようにしてこの世界に居た面々からタナトスを残して全員消える。


「じゃ、始めようかね。……俺は【武威神】タナトス。あの方よりは、優しいから安心して地獄を見てくれ。まずは……2人で30人と相手をするところから始めようか。」


 彼は同性すらをも魅了する笑顔でそう告げた。




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