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異変

「ただいま、じゃないわよぉっ!」


 良い雰囲気になっていたところに少女の声が響く。聞き覚えのない声に他に誰もいなくなったと思っていたファムが警戒するが、その声に聞き覚えのある平塚は驚いたようにその声の主を見る。


「光の精霊……」

「そうよ!あんたを守護してあげていたザガズ・ソレイユちゃんよ。あんたら、呑気にしてるけどヤバいよ!?」


 声の主は平塚が【光の英雄】という名前を付けられるに至った原因とも言える存在で、つい最近契約が解除されたと喜んでどこかに行ったはずの精霊だった。


 10センチほどしかない彼女は怒りながら空中を浮遊して平塚の顔面の前で小さな指を眉間に指しながら甲高い声で捲くし立てた。


「創造神様に、時空龍様。何かおまけが付いて来てたけど……お二方が見守ってる状態で、精霊神様が張り切ってるとか、超ヤバいよ!」

「……具体的に?」

「例えが簡単には思いつかない位ヤバい!」


 光の精霊の言葉では何がどうなのか全然伝わってこない。


「分かってない!精霊神様が私にこの場を任せるって言ったから取り敢えずこの場所は誰にも手出しさせないけど……あ、任されちゃったから、あんたたち精霊神様が帰って来るまで城から出さないから。よろしく。」

「何勝手に決めて……」


 平塚が反論しようとしたその時、轟音が鳴り響き、何事かと音源をミニ窓へと出ると精霊神が向かった先の山が消し飛んでいた。


「……おい。」

「うわぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああぁあぁぁっ!」

「いや、驚き過ぎだろ……」


 顔を見合わせようとしたら松田が異常な、まるで発狂したかのような大声を上げた。それで逆に落ち着いた平塚は、隣に立っている松田の視線を辿って顎が外れるかと思うくらい驚くことになる。


「う、ひ、平塚……見ないで……?」

「えっ……」


 そこには雪のように白い肌、血のように赤い唇に、薄紅色の頬をし、黒檀の窓枠の木のように黒い髪をした美少女が、先程までここにいたフロワ王女のドレスを無理矢理身に纏って立っていた。


「……これは、まぁ一応アレね……多分、時空龍様のお力かな?だから、保護しておくわ。」


 その姿を見て光の精霊は頷いて光の羽衣をその美少女に被せる。半透明なそれはその少女の身を包み、局所を隠すことはできるがそれ以上光の精霊は隠そうとしなかった。


「え、な、ちょ……何で?いや、それより、え?フロ」


 平塚の疑問の声も松田によって掻き消される。


「うわぁぁぁぁああぁぁあぁっ!幼女様が、幼女様がぁっ!どうして、あのころの、純粋な、純粋無垢で、幼い可愛らしい、天使様がぁっ!何故!?何故こんなに成長を!?くっ……現実は……あまりにも、残酷だ……!」

「大丈夫ですよ。アキ様。ファムは、成長しません。いつまでも、アキ様の望まれる、幼い姿で、あなた様の下にいます……」

「……ねぇ、こいつって、大丈夫なの?」


 ファムにダメな方向に慰められている姿を光の精霊に引きながら見られている松田を、平塚は何とも言えない目で見た後、一応フォローしておいた。


「……まぁ、治して貰ったとは言え……さっきまで死の淵にいたんだから……気が動転していてもおかしくないから……取り敢えず、ファムはそいつを自室のベッドに運んでやってくれ……」

「はい……」


 これ以上フロワが成長した姿を見ていると一応神々の力で完治したとはいえ、おかしくなってしまいかねないので平塚は松田をファムに連れて行かせて安静にさせる。


 その際に、ファムが妖しく笑ったのを見た気がして少し早まったかと思ったが無理はさせないだろうと判断して見送り、薄着の成長したフロワを見る。


「……えっと、その……銀髪の、あの神々しい方から……丸薬を貰って。飲んだら急に大きく……」

「何考えてんだあの……」

「すとーっぷ!」


 平塚の言葉を遮って光の精霊が大声を上げる。


「間違えても、創造神様と時空龍様の悪口とか言ったら駄目だから。大陸ごと滅ぼされるの嫌でしょ?あたしも、とばっちりなんて受けたくないの。いい?変なこと言うなら、精霊姫様が帰って来るまでずっと寝させるから!」

「いや、それは困る……」


 平塚はそう言って話を再開させようとフロワの方を見て、何となく気まずくなり目線を逸らし、そこで吐出させた肌を見て顔に朱を差しながら更に視線をずらす。


 その視線に気付いたフロワも気不味くなり、何となく沈黙が降りた。


「えっと……その……なんだ……さっきまで、ごめんな?」

「え、何……?」


 そんな中で口火を切ったのは平塚だった。


 平塚は松田が危篤状態だった際に気を遣ってはいたものの、時折八つ当たり気味に周囲に接していたのでその時の謝罪をという意味でそう言ったのだが、フロワは別に平塚が荒れていても被害を被っていないので首を傾げるだけだ。

 その仕草すら、平塚にはいつも以上に可愛らしく見え、思わず黙る。


「ふ、う……いいか。大丈夫だ。……いや、大丈夫か?」

「え、うん……大丈夫よ。」


 何故か照れてしまい、また沈黙が降りる中で光の精霊は退屈そうに空を駆け、天井を見て驚いた。


「じーっ……」

「……あんた、何してるの……?」

「うわっ……ディア、いたのか……」

「うん。まっつんが大変って聞いて、急いで来た……けど。とう。」


 光の精霊の言葉により意識が天井に向いた平塚はそこにディアの姿を認める。それで気付いたなら、とばかりにディアは天井から舞い降りて、フロワと平塚の間に割り込みつつ平塚に尋ねる。


「まっつんが大変な時なのに、何してるの?……いや、この際まっつんはどうでもいいとして、その人だぁれ?」

「いや、松田はどうでもよくないし、結構大事なんだが……で、あいつは一応今は治って安静にしてる。」

「ふぅん。で、アレは何?」


 松田の為にここに来た割には松田のことなどどうでも良さそうに平塚に成長したフロワのことを訊いて来るディア。その目にはしばらく見ていなかった悪魔の片鱗が窺える。


「……フロワだよ。」

「は?フロワって、もっとちんちくりんじゃん……嘘はダメだよ?」

「……あなた、私のことをそう思って見てたの?へぇ……」


 絶対零度の視線がディアを射竦める。それを受けてディアは彼女が本物であることを何となく認識したが、引かなかった。


「……何か、大変なことになったみたいだね?じゃあ、ゆっくり養生した方が良いと思うよ?急激な体の成長はかなりの負荷がかかるから。……差し当たって今日はまっつんと一緒に寝ると良いよ?」

「……何であんなのと……」

「あれでも、国一番の魔術師だからだよ?それに、好かれてるでしょ?」


 何かギスギスして来たのを受けて、平塚は目線を外へと逸らして現実逃避をする。


「……あ、そう言えば創造神様って何か変わった神様で、基本は負の神だからこういうこと起きやすいみたいだった……やれやれ~!修羅場だ~!」


 煽る光の精霊を視界の端に捕えつつ、近くの争いは目に入れずに平塚は松田が治ってよかったとだけ念仏のように心内で呟くのだった。




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