歪み
「っつ、あ……あれ……?」
「松田……」
松田は目覚めた時に取り敢えずもう一度目を擦って目の前の光景を二度見し、呟いた。
「……俺は、小さい子が、小さい子が好きなんだ……違う。こんな、こんな美少女が俺を……あぁぁああぁぁぁっ……」
「控えなさい。」
「ぎゃうっ!」
起き抜けに平伏すことになる松田を若干心配そうに見る平塚。周囲の目も別の意味で心配そうな目になっていた。
「……ふぅん。ロリコンか……だがこの程度で信念が揺らぐとは……」
「ち、ちが……断じて違います!俺は……俺は立派な紳士で、間違いのない戦士……ぐっはぁっ!」
思わず顔を上げた松田の目に入ったのは銀髪ツインテールの美幼女の姿。神々しさを感じさせるそのご神体を見て松田は吐血し、やりきった極上の笑みのまま「ロリ最高……」と言い残しショック死した。
それを受け、創造神と呼ばれた青年は溜息をつく。
「……面倒な。みゅう、お前のせいだから治せ。」
「……はーい。」
汚物に触れたくなさそうに離れたまま松田を復活させる銀髪の美幼女。松田は何事もなかったかのように鼻血を流しながら復活し、そして顔を決して上げないようにした。
「と、ところで、状況が分からん……」
とめどなく鼻血を流しつつそう呟く松田にようやくそこに話が至ったとばかりに平塚は自分でもよく分かっていない状況を自分の理解を深めるためにも分かっている範囲内で説明し始めた。
その間に創造神と呼ばれた青年は何やら周囲と確認を取っている。
「で、ちょいと面倒看るっつったが……んー……俺も暇じゃないんだよなぁ……地球に行かないと買いたい物買えないし……でもここの時の流れ地球に比べると大分早いしなぁ……地球に行って帰って来る頃にはこいつらくたばってるか。」
「みゅうが魔法掛けようか?地球と同じくらいのスピードになるように。」
「……そうするか。じゃあそこの妖精姫。見える範囲内で歪みを治してこいつらを殺さないように適当に転がしといて。」
「は、はっ!命に代えましても!」
そう言って青年は扉の方を見た。するとそこには平塚達も気付かない内に最初にトイレを借りに来た人物が戻って来ていた。
彼女は視線を集めていることに気付くと頭を下げる。
「あ、はい。喋れました……ご迷惑をおかけしました。」
「……あれ?もしかして、阿桜リンちゃん……?天才子役の……あれ?何で、こんなに成長して……」
そんな彼女の姿を見て松田が訝しげな声をかけ、リンと呼ばれた少女は驚いた顔をして微妙な顔になった。
「え、今って地球に戻って来たんですか……?」
「いやまだ。こいつらは地球からの転生者。……西暦?ってやつで2000年代のいつかに死んだってよ。」
「……流石に知らないですね。私……1999年生まれですし……仮に2009年でも10歳だからニュースなんて興味ない……」
その事実を聞いて平塚達の間で動揺が走る。
「また新しい情報が……しかもこれまでで一番きっつい……」
「……まぁ死んだことになってるし、どっちにしろこっちでの生活を受け入れてたから問題ないけど……問題はどう転んでも小鳥ちゃんが元の世界じゃ成人してるってことだろうが!」
「……お前にゃ俺の妹と関係ないだろ……」
こんなやり取りにも安堵する平塚だが、それはそれとして正座のまま松田の下へと移動して軽くたたいておいた。
瞬間、視線を感じて顔を上げると羽を生やした美少女が顔から全ての表情を落としてこちらを見ていた。
「不敬な……」
(ヤバい……こいつ、マジで危険な……)
魔術の素質のない平塚でもわかるほどの圧倒的な魔力の奔流を前に平塚は危険を察すが、その前に創造神と呼ばれた青年が止める。
「オイ、今、俺が何て言ったのか覚えてるよな?」
「し、失礼いたしました……」
黒髪の青年の言葉に身を竦ませて平伏す美少女。青年はそれを手で制して面倒臭そうに告げた。
「……ったく。まぁいい。じゃ、俺は2~3日後に戻って来るが殺すなよ?抜けた幸運の所為で死ぬことがあれば助けろ。じゃあな。」
そう言い残し、黒髪の青年と銀髪のツインテールの絶世の美幼女はトイレを借りに来た美少女を連れてこの世界から去って行った。
「……では、【魔神大帝】様の命に従い仕事を始めますか……緊急を要するのは【死炎の怨粉】ですね……」
創造神一行が去った後、羽を生やした美少女は立ち上がって空を舞いつつ平塚達を見下ろし、彼らの縛めを解いた。
「【死炎の怨粉】……?」
「えぇ……怨嗟の念が詰まった大量の死者たちの亡骸が集まるところに結晶化する【死炎の宝珠】を粉末化したもの。あなたたち、かなり大量に使ったみたいね?若干猶予はあるもののそれなりに危険水準に来てるわ。」
そう言われても平塚はピンと来なかった。しかし、その隣にいた松田がまさかと言う顔で平塚をベッドに呼んで耳打ちする。
「もしかして、俺らが硝石と思って使ったあれなんじゃ……?思えば圧縮もせずに爆発力が半端なかったし……」
「あれか……」
黒色火薬の原料として使っていた物はどうやら危険物質だったらしい。羽を生やした美少女が何かを呟いて平塚達から抜き取った黒い靄、幸運補整で手に入れたご都合主義だと思っていた物の正体に平塚は軽く身震いする。
「オイ……何だ、アレ……」
「怨念よ。スゥド?とかいう国の貴族に対しての怨嗟が詰まってるわ。あなたたちがこれ以上使うなら死して尚酷使するあなたたちにも怨嗟の念が向かっていたでしょうね……」
そう言って羽を生やした美少女は靄のような体を集めてうねり始めた怨嗟の念を握る。美少女の白魚のような指から光が放たれると、濃い紫から黒色になり始めていた靄は断末魔を上げて消えて行った。
「……これで、一先ずは大丈夫ね……次は、そこの土精霊。説明、しなさい。」
羽の生えた美少女の言葉により、列に並び跪いていた一部の精霊が列から離れて彼女の前に出て来、再び平伏する。
「……おい、何が始まるんだ……?」
「俺らの所為で起きた歪みだろ……土精霊と言えば……黄金色に輝いた大地……?米の引換を行った……」
平塚達の目の前で羽の生えた美少女は平伏している小人のような精霊たちに声をかける。
「……成程。【魔神大帝】様の力を感じて使徒かと、思った……流石ご主人様のお創りになられた能力……違いに気付かない中で最も格が上の位を……」
平塚達は歪みというものはよく分からないが、一先ず話が長くなりそうなので戦々恐々としながらベッドに腰掛けて成り行きを見守る。
「……言い分は分かりました。今回は不問と致しますが、速やかに流れを正常化しなさい。他の場所の魔力が枯れます。」
少女の言葉に慌ただしく出て行く小人の土精霊たち。それを見届けて美少女は平塚達の下へと音もなく移動する。
「……これから戦闘行為は控えてください。私は少々山脈の北の歪みを直しに出かけますが……基本的に、この城から出ないこと。よろしくお願いします。……ソレイユ。ここは任せましたよ?」
「は、はぁ……」
よく意味は分からなかったが平塚が了承すると羽の生えた美少女は何も言わずにその場から消え去り、そして精霊たちも消え去った。
それを受けてどっと疲れが押し寄せ、平塚はそのままベッドに倒れて仰向けに松田を見て、目を瞑る。
「……あ~……何かなぁ……色々あったけど……取り敢えず、おかえり。」
「……ただいま。」




