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ニード山脈北部地域 終戦

 炸裂した闇が終息した時、闇に呑まれて立っていた者は平塚だけだった。いや正確には平塚と、その契約精霊だけだった。


 ―――は~……何、死にかけてんのよ。一応契約完了したけどさ~……あたしも英雄と契約してしまったならまだしも、アホと契約したとか言われるの嫌なんだからね?―――


 神々しい光を纏いながら唯一無事だった平塚。そんな彼を見て味方は【光の英雄】にふさわしいとばかりに興奮の坩堝に入りつつも士気を倍増させて総大将を失った敵軍を完全に打ち負かしにかかる。


 そんな中、平塚は倒れている松田の下へと移動する。


「息はあるな……よかった。安定してるし、呼吸のたびに痛みを覚えるような顔もしてない。」


 ―――あ~に~?あんたホモなの?ツンデレってやつ?キスすんの?まぁ兎に角あたしは用なくなったから消えるね。んじゃ―――


 至近距離に顔をやっただけでそんな発言をされた平塚が光の精霊に文句を言おうとするが、その前に彼女は居なくなっていた。


「……っ!」


 完全な勝ち戦の中で、勝鬨を上げる自軍の声すら遠く感じながら平塚は冷たい感覚に陥る。だが、現在はまだ戦争中で、気を抜くわけにはいかない。


 平塚は松田を衛生兵に任せると指揮に戻って行った。


















「アキ様!」

「……ファム、か……」


 クリーク軍は旧ベルフェナンド城も落とし、その後ろにある大河でも勝利を収めた後、軍を収めて退却をした。


 そして、被害報告などが行われる中で血相を変えたファムが新ベルフェナンド城の一室に飛び込んできた。


 結果的には圧倒的な勝利を収め、スゥド軍の奴隷兵たちを収めることで戦前以上の軍事力を手にすることが出来たクリーク軍だったが、内部の問題がかなり深刻な物になっていた。


「あき、様……」

「……もう、既に聞いているかも知れないが……松田は故ジョルジュ第一王妃様と同じ呪いを……いや、それよりも酷い……」


 平塚の言葉はファムの耳には入らない。ファムは戦時中ずっと隠密として動きつつ走り続けた疲労とはまた別の要素で足下をふらつかせながら横たえられている松田の下へと近づいて行く。


「ファムが、戻りました……」


 返事は、ない。


 ファムは黙ったまま目を開けない松田の頭にその小さな手を添え、涙声で呼びかける。そんな彼女が涙を流しつつも興奮し始めたのを見て平塚は彼女を外に出した。


 部屋には平塚と横たわっている松田だけ。静寂に包まれる中で平塚は外で騒ぐファムの声を聞き舌打ちをする。


「糞っ……」


 やり場のない怒りに壁を殴る平塚。壁にひびが入るがそんなことは気にしていられない。そんな彼に罅割れた声が掛けられた。


「壁は、大事にしろよ……」

「……起きたのか。悪いな……」


 酷い声だったが、平塚にはそれが松田の声であることはすぐに分かり、水差しを持って行き、上体を少しだけ起こした松田に水を飲ませる。


「はぁ……しくじった。」

「……悪い。」


 心底苦りきった顔をする平塚に松田はからからと笑った。


「気にすんな。お前が悪いわけじゃないだろ?」

「だが……」

「うぜぇなぁ……いつもみたいにドSな平塚はどこに行ったんだよ?」


 そう言う松田だが、その顔色は優れない。それを見て平塚は歯噛みする。


(……こいつの方がどう考えても辛いのに俺の方がこいつに気を遣わせてどうするんだよ……状態を、言うべきなのか……言うなら、いつが……)


 思考が纏まらない平塚。そんな彼に対して松田は苦笑して軽い調子で尋ねる。


「で、戦争の方は勿論大勝なんだろうな?」

「……一応、な。兵数は3万にまで増えた。その他の物資も潤沢に確保できた上、旧ベルフェナンド城の一部補修とスゥド式の術式まで手に入れたから、戦争としては、大勝利だろう……」

「おぉ、そりゃよかった。」


 そう言って笑う松田に良い訳がない。そう言うことは出来なかった。この勝利を得るために犠牲になった人物は松田の他にも大勢いるのだ。


「……で、だ。」


 ついつい言葉を切らす平塚に松田は真剣な表情で、そして虚無感を漂わせる目で尋ねた。


「俺は、いつ死にそうだ?」

「…………まだ、死ぬと決まった訳じゃ……」


 平塚の苦り切った表情に松田はどこか空恐ろしい笑顔で続ける。


「おいおい。この術に関しては俺の方が詳しいぞ?今はあの術士の呪いの所為で自分の状態がどうなってるのか分からないが、戦場で見たあの将軍の術式はどう考えても王妃様に掛けた物とは一線を画す術式だった。早い所言ってくれ。納期ギリギリになって任せていた案件の不都合を言われる辛さはお前も分かってるだろ?」


 茶化すようで真剣な松田の言葉に平塚も腹を括った。


「……正直、もういつ死んでもおかしくない、そうだ……最悪、さっきのまま目を覚まさない可能性もあった……」


 苦虫を十匹単位で噛み潰したような顔で言う平塚に松田は思わず吹き出した。


「はっ……そうかよ……まぁ、仕方ない……」

「すまん……」

「謝んなっつってんだろ……」


 再び訪れる沈黙。互いに何も言えなかった。しばらくして不意に松田が口を開く。


「…………お前は、大丈夫なんだよな?」

「…………………………あぁ。」

「俺も幸運補整にすればよかったかなぁ……折角の、チートなのに……ちゃんとした幼女とは出会えなかったし……」

「……そうかもな。」

「おいおい、そこは突っ込むところだろ。幼女……そうだ。最後に幼女を……」

「やめ……いや、そうだな……」


 松田のふざけた言葉を止めようとして考え直す平塚に松田は溜息をつく。


「お前、腑抜けんなよ……はぁ。」

「いや、だが……」

「別に、こっちに来る時だって死んだんだぜ?また転生し直すかもしれねぇだろうが。もっと楽観的に、いつも通りにしろよ。こっちが困るだろ。」


 松田の言葉に平塚は無理矢理頷き、同意する。


「そうだな。まぁ、お前みたいな変態は長生きするだろうし、仮に死んだとしても変なことはしないように俺が見てないとな……」

「おう。そうしてくれ。俺は時々暴走してやり過ぎてしまうことがあるからな。嫌われない程度の紳士のままで、幼女と触れ合いたい。頼むぜブレーキ。」

「誰がブレーキだ。壊れたアクセルが。」


 松田は平塚の返しに少し笑い、咳き込んだ。


「にしても、っかしーよなぁ……?ウィルスを出そうと咳き込むのは分かるんだが何で……魔法でも、同じように……あれ……?」


 咳き込むのを抑える手を見て松田は首を傾げる。その手は真っ赤になっていたのだ。平塚もそれに気付き、すぐに顔色を変えた。


「オイ、黙ってろ。すぐに魔術師を呼ぶ。」

「…………あぁ、そうしてくれ……」


 疲れたようにベッドに身を投げる松田だが、こみ上げる血に息が苦しくなるため、それは許されなかった。


「……どっから、血が出てるんだろうなぁ……?」

「いいから黙ってろ。誰か!すぐに来い!」

「ククッ……その、慌てよう……高校のゲホッ……時の、スカしっぷりからは、考えられねぇよな……いや、いっつも、か……」

「お呼びですか!?」

「遅い!さっさと治療魔術師を呼べ!」


 やっと来た侍従に怒鳴りつける平塚。松田はそれでも笑っていた。


「……血が出ても、軽くならずに、やっぱ……重く感じる……のな……なぁ……?」

「何だよ!」

「……ここまでしか……俺……悪いな……」


 そして、松田は静かに目を閉じた。




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