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ニード山脈北部地域戦 攻城戦

「……む。」


 ベルフェナンド城で城下町から略奪した酒で簡易祝勝会を開いていたシャマールはガストーが部下に呼び出されて席を立ったことを受けて勝利の美酒を飲む手を止めた。


(……どれ、付いて行ってみるか。態々このタイミングでの呼び出しとあれば火急の用件かも知れんし、仮に手を出したとあらば……クックック。)


 主役である彼はそうと決めると席を立って彼の部下を脅かすためにバレないよう、足音を殺してガストーを追った。





「ん……確かに、これは……」

「大き……ですよね……?……中で…………すぐに…………いく……」

「今日……危ない…………駄目……」


 薄暗い中でそんな会話が聞こえてきたのでシャマールは足音を殺していたのを止めて一気に走り出して声の下へと行った。


「ダメだぞっ!?」

「ふぁっ!?」

「しゃ、シャマール様!」


 突如として現れたシャマールに驚くガストーと、驚いてすぐに平伏する彼の部下。シャマールは彼ら二人をバッと見て着衣などの乱れがないことを確認して取り敢えずガストーと彼の部下の間に割って入って事の成り行きを尋ねる。


「どんな卑猥なことをしていたんだい?」

「……僕らは男同士なんですが……おふざけに付き合っている暇はないんで用件に入りますよ?」


 若干うんざりした顔を出しかけたガストーはシャマールの言葉をさらっと流して部下から受けた報告を話そうとする。だが、シャマールは真剣な顔でそれを止めた。


「危険だのナカだの……聞こえていたぞガストー……さぁ本当のことを言ってくれ。君は……女性なんじゃないのか?」

「男です。紛うことなく。年頃の娘さんじゃあるまいしどんな反応をしているのですか……クリーク国は【光の英雄】を担ぎ出して本国から大量の魔導兵を連れて南下し、今こちらに向かっており、酒宴を開いている中で言うのは何ですが油断しているのは危険な状態にあると言うだけの話です。」


 ガストーは本気で溜息をつきつつここから先の上司の失態を見せるわけにもいかないと部下を下がらせた。


「ということであまり深酒をなされないようにしてください。既に兵を発したと言う事ですから。」

「……元々そこまで飲んではいないがな。そんなことより本当に君は……」

「はぁ……確認されますか?」

「寝所でな!まぁそこまで行けばどちらでも問題あるまい。」


 ガストーは本気で呆れた顔をしてシャマールの確認を拒否し、酒宴の早期打ち切りを進言した。

















「都督!」


 翌日。ベルフェナンド領の川岸の城は慌ただしさに包まれていた。


「む……ガストーか……どうした?」

「すぐに起きてください。クリーク軍が迫っています。その数、約2万!」


 その報告を受けてシャマールは笑った。


「城攻めに同数程度の兵で挑んで来るとは……土人どもは正しく愚か者だな……すぐに迎撃準備をするぞ。」

「迎撃、ですか?」


 ガストーはシャマールの命令に対して懐疑的な声を上げる。シャマールはそんな彼に寝起きの目で訝しげな視線を向けた。


「……昨日の敗残兵のまとまりではないのか?」

「正規軍のようです。モーガラッハの伝令が来てからわずかな時間でここまでこれるとは……敵将は噂に違わぬ名将のようですね……」

「ちっ……まぁどちらにしろ我が軍の敵ではあるまい……一先ず、兵を起こし戦闘の準備といこう。ガストー任せた。」

「はっ!」


 指令を受けてガストーはすぐにシャマールの部屋から出て行った。城の外を見るとまだ夜が明けきっていない白明の頃だ。


「……モーガラッハの寄越した地図から考えると……どれだけ近いとしてもクトブルクからの進軍。距離と密書を鑑みるに昼夜兼行で進んで来た疲労困憊の軍のはずだな。軽くあしらって……」


 シャマールがこれからの戦闘方法について考えていたその時だった。突如として轟音が響いて人々の怒号が広まった。


「っ!?何だ!?」


 窓の外、城下町が一望できるその場所から見えたのは全てを飲みつくそうとする茶色の奔流だった。そして、シャマールはその異変に気付く。


「……逃げ出す者が、いない……?えぇい、【フレアボール】!」


 騒いでいるのは城付近だけで、町からは誰も逃げ出したり家の外に出る者が一切見当たらない。昨日、城を攻め取った時には略奪を出来るだけの人々がいたのにもかかわらずだ。


(……変だぞ?町人の殆どが逃げていたという報告はあったが……取り残された者や老人たちはかなりいたはずだ……)


 異変に気付いたシャマールは後でガストーに怒られるだろうな……と思いつつ城壁を壊して空へと飛んで行った。




「くっ……魔法陣の修復作業が終了していないがために甚大な被害が……モーガラッハ卿……後に会った際には苦言の十や百、覚悟しておいてくださいね……」


 城下にて、水が届かない場所でガストーは苦々しい顔をしていた。元々、この町は水攻めに対して魔術で抑えることを頼みにしていたため、今回のような水害にはあまり強くないのだ。


(後2日遅ければ、都督の魔力でこの水害の被害も抑えられた……)


「ガストー様!クリーク軍が動きを見せました!」

「くっ……この隙を見逃すほど敵も馬鹿ではっ……?」


 ガストーは突如として背中の上部を襲ってきた灼熱感に動きを止める。そしてすぐに思考を切り替えて腰に佩いていた太刀を横薙ぎに払って何者かを大きく後退させる。


「おぉ、怖い怖い……」

「ぐっ……既に、敵が……」


 彼を襲った灼熱感の正体は、何者かの剣戟だった。目の前の幼い少女を前にしてガストーは次いで自らの状態に気付く。


「っ……囲まれて……」

「この者は捕えよ!他は皆殺しじゃ!」


 少女の命によって音もなく集団が動く。独特な動きを見せ、同時にあまり見ない魔術によって視認しているのに存在が曖昧な集団にこの場は大混乱に陥った。


「…………静まれ!よく見よ!敵は小勢だ!討ち取って功績を……」


 だが、彼の声は届かない。明朝、しかも先日は初戦の大勝利の上に宴会をしており、早期の打ち切りとはいえ、自主的に略奪した物で酒宴を行う者が多数いたのだ。

 そして今日、安全なはずの城内に大水害が引き起こされた。更に現在は味方だと思っていた正体不明の敵に襲われているのだ。


「っ……はぁっ!孤月!」

「手練れじゃの……まぁ、じきに毒が回るまで儂が押さえておくか……」


 その言葉によりガストーの望みは絶たれた。彼は右手を出すとその腕に自らの剣を刺し、それを見咎めた少女によって一瞬でその剣を弾かれた。


「なっ……」

「王妃殿下を弑したスゥド国伝来の呪じゃな。させんぞ……」


 少女の険しい視線と共に発されたその言葉にガストーは歯噛みする。


「成程……でしたら……私が出来るのはもうありあせんへ……」


 毒が回って来たようだ。呂律が回らず、その場に立っていることすら困難になり、ガストーはその場に崩れ落ちる。


「せめて、足手まといには……」


 自害しようとするガストーだが、手が痺れて動かない。捕まることを覚悟したその時、彼の目に空を疾走する上官の姿が映る。


「マズイの……これを連れて逃げ遂せることは不可能か。ならば。」


 そして、それが彼の最期に見た景色だった。


「撤退じゃ!上級魔導師のお出ましじゃぞ!逃げ遅れるでない!本体はすぐそこじゃからな!」


 そして音もなく集団を狩っていた一団は首などを上げることもなく全力でその場から脱した。


 そして数瞬後、シャマールの慟哭がその場に響く。




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