ニード山脈北部地域 侵攻
「ふん……素人だな。」
シャマールは2万人を超える大軍でのニード山脈越えを成功させた。そして彼らは川の向こうで籠城と、そして城壁の前の布陣を見て嘲笑していた。
現在のスゥド王国軍は2万1500名ほど。軍の内訳は、1万3300名が奴隷兵上がりの軽装歩兵。3000名が同じく奴隷上がりの騎兵。そして王都騎士団の重装歩兵部隊1000名と同数の騎兵。そして3000名の工作兵と輜重兵を兼ねた後方部隊に魔導兵が200名となっている。
それらが対岸の布陣を見て笑う理由は簡単だ。城があるのにもかかわらず大勢の兵を動員した所為で、入り切らなかったのであろう軍が城の外に布陣をしているのだ。
「……モーガラッハ卿の送って来た密書通りですね……にわかには信じがたかったのですが……まさか本当だとは。」
城の意味を全くなさないその布陣が存在するなどと考えていなかったガストーはあまりの衝撃に言葉を失う。だが、シャマールは笑っていた。
「だが、都合がいい。未開の土人どもに戦争を教えてやろうではないか!」
シャマールは高所から見下ろすことで敵陣の内容をモーガラッハから受け取った密書と実際に見ることで大体把握し、嘲笑する。
「ふん。モーガラッハの情報は本当のようだ。こんなに重要な土地であるにもかかわらず、魔導兵が非常に少ない。貴族共のお抱えで屋敷に籠って震えておるのだろうな。」
「城に掛けられた魔術は過去にベルフェナンド卿が造ったまま進歩しておりませんね……これでは城の概要が丸わかりですよ。それに城の外に至っては魔導師がいない……」
「今日戦う兵どもは気の毒だな!後々の見せしめのために徹底的に叩き潰されるのだから!」
シャマールとガストーがそんな会話をしている間にも後方部隊と軽装歩兵の混合部隊によりニード山脈北部地域の豊かな森林を伐採が進み、渡河の準備を着々と進んでいる。
流石に調練が進んでいるスゥド国正規軍たちの力は凄まじく、魔導を使ってすぐに大きな橋を作り上げた。
「……モーガラッハの内通書には渡河を行うとほぼ同時にベルフェナンド城の城壁の一角を崩壊させるとあったな?」
「はっ。」
ガストーが肯定するのを聞いてシャマールは笑顔で頷いて答える。
「必要なかったかもな。ハッハ!渡河準備!前線より渡れ!」
シャマールの言葉が波及的に前線へと広がり、スゥド軍はて一気に大河を渡った。
「き、来たぞぉぉおおぉぉっ!」
「迎え撃て!」
本人が優秀な魔導師であるシャマールは、相手方に魔導師がいないと言うことが分かり狙われる心配もないと空へと浮かび、戦況を見る。
「フン。土人どもは本っ当に平和ボケしているな!ガストー!」
「……私には見えないので何とも言えませんが……空を舞う矢の数が少ない上に散発的なので何となく想像はつきますね。」
「連携も取れずに各陣ごとに矢を撃っておるから組織的に行動しておる我らスゥド軍のいい餌食になっておる!更にだ!」
シャマールがそう言うのとほぼ同時に轟音と共にベルフェナンド城の城壁の一部が轟音と共に崩落した。
「ひぃっ!」
「な、何で城門が!」
「嘘だろぉっ!逃げろ!」
背後での轟音に驚いたクリーク軍はその驚愕と、いざと言う時の逃げ場がなくなったこと。そして援護してくれるはずだった城兵たちが逃げ出し始めているのを見て我先にと逃げ始めた。
それを見てシャマールは更なる高笑いを始める。
「ハハハハハハハッ!敵は混乱状態にある!格好の餌食だ!」
「うわ……モーガラッハ卿は派手にやってくれましたね……城を守る防御魔法陣の一部まで巻き込んじゃってるじゃないですか……」
後で修理するのはこっちなのに……と文句を溢すガストー。戦時下というのに戦後のことを考える。そんな余裕が出るほどに楽勝なのだ。
「巣に火を付けられた蜂のような逃げ惑いっぷりだな……まぁ、ほどほどに殺すところで止めておかなければ。領地を得たものの領民を皆殺しにしてしまっては何も得られないからな!」
上空で高笑いを続けるシャマール。ガストーも初回の戦闘は非常に楽に生きそうだということで笑みを溢した。
開始、1時間ほど。逃げ遅れたり傷付いてその場に転がっていたクリーク軍を全て残党狩りと追撃で滅ぼしたスゥド軍はベルフェナンド城を占領した。
そして、そこから少し離れた場所にある城で平塚達は落城と被害の報告を受ける。
「……罪禍兵たちの被害が思ったより少ないな。ほぼ全滅……少なくとも半壊すると思ってたんだが。」
「元反乱軍たちの被害が一番大きいみたいだ。……ウチの貴族の私兵って弱卒ばっかりなんだな。」
罪禍兵とは平塚が新設した部隊で、主に更生の余地なしと判断された重罪人から構成されており基本用途は捨て駒、そして危険度が高い囮などだ。
彼らは戦場に投入され、実情や予期されることなどの一切の予備情報なしで戦場に放り出されてその場その場での戦いを強いられる。
代わりに、20の戦場で生き残れば恩赦を、巨大な武功を立てれば特赦に加えて褒賞を与えて特別区での生活を許すという契約を結び、魔術式が組んである首輪で統率された今回が初投入である部隊だ。
元反乱軍は元スゥド国軍の中でも今は亡きスゥド国の腐敗領主たちに近しい者たちで構成されている者たち、そして平塚達を失脚させた貴族たちの私兵から構成されている。
閑話休題。
「危機察知能力が高いのだろうか……まぁ、どちらにしよ最後まで生き残れるとは思ってないがな……そろそろ内政官閣下からの偽書が送られた頃か?」
「……じゃあ野戦は明日か。」
ベルフェナンド城が落ちたことなど全く意に介せず、平塚と松田は淡々と作業を進めるかのようにそう言って戦争の準備を開始した。




