だうと
「あ、それダウト。」
「いいんだな?今ならまだ撤回させる時間をあげてもいいんだぞ?」
「まっつん早く開けなよ~」
「はぁ……ほら。」
「あっテメ!俺の手札が一枚すり替わってるんだが?はいイカサマ~」
「イカサマ~」
「……て、手加減は、よろしくな?イギャァアアァッ!」
「た、大変です!」
「「「ん?」」」
平塚達が部屋から出て来ないフロワを外に出そうとフロワの部屋の前の広い廊下に丸いテーブルと椅子を3脚運んで楽しく平和にトランプで遊んでいると入口の方からファムが勢いよくやって来て息絶え絶えに叫んできた。
「どうした?」
「平塚ぁ……手加減しろよ。お前、脳まで筋肉にやられたのか?」
平塚はファムに何があったのか尋ねるが、罰ゲームで平塚の拳骨を喰らう破目になった松田が恨めしそうに平塚を睨むのを見てファムは報告そっちのけで松田の方へと駆け寄った。
「!あぁ秋様お痛わしや……このファムが責任もって閨で慰めますね……」
「ちょ、違、な、何か報告あったんだろ?」
やって来た時とは別の意味で大変なことになりそうだったので松田が少々慌てて軌道修正を入れるとファムは一つ頷いて自分を落ち着かせると真顔になって報告して来た。
「スゥド国がニード山脈を渡っているという情報が入りました。」
「あ、不味いな。」
「逃げるか。」
「だな。ノブナガさんの所に逃げよう。」
二人の反応は素早く、淡白な物だった。働けど働けど不信感を持たれ、そして最終的には追い出されたのだから二人にとっては当然と言えば当然なのだがファムからすれば驚きだ。
「あの……戦う前から……」
「俺、岳飛でも戦中の日本人でもねぇし。不当な扱い受けたらそりゃやってられないから逃げるさ。」
「精忠報国とかお国の為に~とか知ったことかって感じだな。」
そんな話をしていると部屋の扉が少しだけ開いてすぐさま平塚の後ろに小さな影がくっついた。その一瞬で松田と平塚の間に幾つもの攻防が繰り広げられるがそれはファムの介入によってあっさりと終る。
そして何事もなかったかのような態で部屋の中から廊下の楽しげな平塚達の様子をずっと窺っていたフロワが出て来て平塚に単刀直入に尋ねる。
「クリーク、亡びるのかしら?」
「多分……」
フロワの質問に平塚は無神経なことを言わざるを得ないという表情をしていたがそんな表情を読み取ったフロワは平塚に優しく微笑んで、そして一瞬で一転し怖い顔になった。
「……私が出て行くとなった時の王の顔、見たでしょう?あの安堵する顔……我が子に向ける物とは思えなかった。未練なんてないわ。」
「あ、あぁ……悪い……」
上奏の後、フロワはやたらと大きな屋敷を見るまではずっと機嫌が悪く、ご機嫌取りをしていたという事実を思い出して平塚はすぐに謝罪した。
そんなことを思い出しつつも話題逸らしも兼ねて平塚はファムに尋ねる。
「……それで、具体的にはどれくらいの時間で来そうなんだ?もう準備した方がいいか?」
「……いえ、クラーク王国は混乱しており今こそ侵略すべしという密書に対する返事を手にしたところですのでもう少ししてからだと思います……」
「ちょっと見せてくれ。」
平塚はファムが持っていた書物を受け取り、流れるような動作で静かににじり寄って来ていた松田とフロワとの間に割り込み直して距離を最大にしてからそれを読み始める。
「……まぁ、早くて今月中、遅くても年内には攻めて来るっぽいな。」
「逃げる準備は魔法を使ったら即行で出来るがどうする?もう準備してさっさと逃げておくか?」
微妙な攻防がなかったかのような堂々とした振る舞いで松田が平塚に尋ねると平塚は一人で黙ってトランプの片付けをしてくれていたディアの頭を撫でながら答えた。
「今日はまだいいだろ。今週末に逃げよう。今日からこの辺にしかない食べ物食べ回ることにしよう。」
「あ、ダメだ。」
平塚が松田の質問に答えを出し、これからの指針を決めた所で松田がそれに異を唱えた。
「何かあるのか?」
「入り口を囲まれた。」
松田の端的な答えに平塚の目は一気に厳しいものへと変わる。
「……見に行くか。」
「おう。前衛は任せた。」
二人が臨戦態勢に入り外に赴こうとしたところでファムとディアが何者かの気配を感じ取って動いた。その姿を見て平塚と松田は少しだけ外に出るのを遅らせる。
「……間者か。」
「うん。何かいるような気もする位だったんだけど……さっきのご主人様たちの意気に押されて分かりやすくなったの。じゃ、ごめんね?ちょっと罠を作動させてくるから!」
ファムがそのまま影となり消え、ディアが天井から降りて来てすぐに身を翻して消える。その直後に何かが破壊される音と重い物が落ちる音が聞こえてきた。
「……修繕費が……」
そんなことを呟く平塚の下に少しタイトな街商人の服を着ている男が縛られて連れて来られ、それを連れて来たファムが得意そうな顔で松田を見た。
「ファム、お疲れ「秋様に言わせろやタコが黙れや。」……ゴメン。」
平塚が労おうとしたら暴言を吐かれ、松田が褒めるとファムは相好を崩して喜んだ。その光景を見て釈然としない気持ちになりつつも平塚は男を見る。
「怪しいもんじゃあないです。モーガラッハ卿の使いです。今回の騒動の首謀者リストを持って来ただけです。」
「……モーガラッハ卿……?内政官閣下か……」
平塚はすぐにその名前の主に思い当たった。そしてファムの方を見ると彼女は松田に何か言っていた。
「あぁ、私どものお話としては膿の溜まった宮廷内の大掃除のために少々荒業を使いましたがリストアップが出来たのでぜひ大元帥閣下に戻って来ていただきたいと……」
「胡散臭いな……」
使者の言葉に平塚は不快感を露わにする。そんな間に松田が入って来た。
「全く以て平塚の言う通りだ。胡散臭過ぎるぞお前。粛清であるのなら俺らに言わなかった理由が分からない。それに、モーガラッハ卿と言えばスゥド国の密偵だろ?今回俺らを宮廷内から追い出した張本人だ。」
「成程、そちらの密偵も優秀な方々のようですね……ですが、誤解です。」
「……弁明位は聞いてやる。言ってみろ。」
あくまで余裕を崩さない使者の男に対して平塚は冷淡に言った。すると立て板に水と言った態で男は喋り出す。
曰く、保身だけは一流の貴族たちに密会などで通信を送ることで疑念を抱かせてしまっては膿が残るため敢えて言わなかったこと。
曰く、スゥド国に忠誠を誓っているのではなく、二重スパイとして活動をしていたこと。
この二点を重点的に話して使者の男は平塚と松田を納得させに掛かった。対する二人はではなぜこのような状態でスゥド国を招き入れるようなまねをしたのかなどの質問をしたが虚実織り交ぜることでスゥド国に大ダメージを与えるのが目的、と言ったようなそつのない回答を受けて審議に入った。
「……ダメだ。事実として、こいつが言ってることは否定し切れない……」
「信用は出来んが仕事は出来てる……チッ……」
そして厄介なのが外にいる連中だ。モーガラッハ卿の手の者かと思いきや平塚派、そして二人を英雄として見る者たちが自主的に集まった物らしい。
「……やるか。」
「まぁ、1月単位で休暇取ったしな……」
そして二人は立ち上がった。




