大混乱
平塚は呼ばれる前に上奏を行った。自分が疑われていること。そしてその疑いを晴らすために自ら職を辞し、監視付きの生活を送ること。後任はファンテを推すが、王が任じた者に任せること。
その上奏が受理された結果、宮廷に激震が走り、大いに荒れる。その直後に同様にして松田も上奏を行い、職を辞す。
平塚が排除され、その勢力を敵視する人物たちが政権を握った。なので平塚の陣営の者たちも冤罪を掛けられるのではないかと思い、早期脱出に踏み切ったのだ。
更にそれは続いて名指しの任命をされたファンテを筆頭に平塚に起用された多くの人材がクリーク王国から下野した。
事ここに至ってやっと貴族たちに焦りが見られるようになった。
「きゅ、宮廷の処理能力が……」
「くっ!已むを得ません。以前のクリーク王国外の土地で、主要土地以外は自治させ、税収を自分たちで行わせましょう。多少誤魔化されるかもしれませんがこのままでは宮廷の機能全体が破綻します。」
更に続けて退職者が出て来ることが安易に予想できたので貴族たちはこれ以上の辞職は平塚が別の場所で旗揚げを行うということを裏付ける証拠だと声明を上げた。
その結果として正式な辞職ではなく、逃げ出す者が現れ、クリーク王国は上から下まで大混乱に陥ることになる。
それを見て内心で宮廷内の人間たち全員を嘲笑う男がいた。
(……この混乱に便乗させてもらうよ。愚かな者たち……スゥド王国にはユーク国と調停を結んで早めにクリークを侵略をして貰うように通達しておくか……この勢いだと数年もすれば現王朝を斃して強固な新王朝が出来かねんしな……)
平塚を排斥した張本人だ。
「よもやこのような事態になるとは……あの男に反逆の意思があるようにも見える様な状態だがここまで差を見せつけられると手を出せば、負けるのは……」
「モーガラッハ卿、それ以上は……」
誰かが呟いた言葉に男は内心で嗤う。
(想像していなかったというのか?どれだけ愚かなんだこの屑どもは……スゥド王国が勝てば報告してお前らの席は末席にすらおかないでおこう。)
「……モロゾフ侯爵閣下?どうかなされましたかな?」
「いえ……この事態をどう取るか、考えておりましてね……」
「侯爵閣下の提案により、今回の事態が引き起こされたのですぞ?そのような傍観の姿勢はどうなのですかな?」
男が責任追及をされ始めるところで彼は苛立ちを見せ、それを内心で押し殺しつつ彼らの注意を逸らすようなことを言った。
「傍観?いえ、今回の事態は不幸なことです。私たちもその渦中に居ます。傍観なんて出来ませんよ。特に我々のような治政に関わる職では事務処理に関して圧倒的に問題が出来ますよね。……重要な書類がいくつか紛失してしまってもおかしくない事態です。更に問題なのが、誰の、どのような書類がなくなったのか分からないという点ですね……確か、国庫支出金からの借用書だったかと……」
最後の言葉まで聞いてモロゾフが何を言っているのか勘付いた貴族の一部が下卑た笑いを浮かべる。
「……ほう。それは、不幸な事態だな……我々の所でも国家御用商人からの借用書がな……」
「あぁ、私の所では年貢の徴収結果の……」
己の欲を全開にし始める貴族たちを見て話題の逸らしが上手く行ったこととどうしようもない愚かさを感じてモロゾフはこの場の人々を最早人と見れなくなっていた。
(……勿論、写しは取ってある。……貴様らのもな。仮に、アイツが戻って来たとしてスゥド国に勝利した際には責任追及をきっちり行わせてもらおう。何、貴様らではうまく運営できない土地でも俺に掛かればうまく運営してやろう。)
会議とも言えないどうしようもない話し合いの中、彼は平塚の動向を細心の注意を払って調査しつつ、自分の利を追及することだけを考えた。
(……まぁ、仮にあの男が勝って、戻って来た時には俺のリストによって屑貴族の一掃を行えるんだ。あの甘ちゃんは温いやり方しかしてなかったが嫌われ役でも担ってやろう。)
「でかい家だな……正直、持て余すんだが……」
その頃平塚は巨大なお屋敷の前で困っていた。最初にここに決めた時の家ではなく軽い館になっていたのだ。
ただでさえ大きめだったのが今は家の堀の前で直線の300メートル走が出来るような状態になっている。
「……池が、噴水になってるんだが……」
近くにあった池も何故か水源に不思議な像が置かれて圧力をかけられて細い噴水が上がるようになっている。
その上、水が矢鱈と澄んでいるし、池の淵も整備されていた。
「……王宮より綺麗なんじゃ……」
横に居たフロワも思わず声を漏らす。彼女は何も言っていないのに普通の家に更に足された、もはやこちらがメインだと思えるような建物を見てそう言った。
「侵入者避けの魔術式も複雑に組んであるね……」
ディアも地面を見て平塚にそう報告した。平塚が最初に来た際には自分の身と自分の周りくらい自分だけで守れるとそこまで気にしていなかったが登録されている3人以外が入るのにも門の前で許可を取って音声式の許可証を出さなければいけない状態になっている。
「そして…………一番突っ込みたいのが……」
平塚は賑やかな周囲を見渡した。門前町と言う概念がぴったり当てはまるような通りと店が立ち並んでいる。
「ここ、郊外だったんだが……」
「立派な街の真ん中ね。」
「お屋敷の向こう側は麦畑だけどね~……」
「いや、使用人たちにとって便利と言えば便利でいいんだが……」
平塚の勝手な引退後の生活予定では、静かな郊外である程度大きな家に鯉か何かを池で泳がせてペットに犬っぽい何かを飼い、2~3人の使用人に色々と任せる予定だった。
だが、現実は前世と比較すれば流石に田舎だが、今世を考えるとかなり都会で巨大な家に住み、何か続々と引退して来た面々が集まることで何かもう都が出来た。
池には既に珍しそうな生き物がいるし、ペットには鷹や何か強そうな魔界原産らしい巨大な狼。使用人は立候補制で寧ろ金を払うから雇わせてほしいと10人単位で押しかけている。
「ひっそりとしたいんだが……」
「いや、無理があるでしょ……」
「……無理、だね……」
【光の英雄様】ご自宅付近と描かれた石碑を見えないことにして、その周辺にある土産物も存在が見えないと信じて、取り敢えず、いずれ慣れるだろうということで一行は屋敷の中へと入って行った。




