対策を……何してるの?
「……最近、貴族の動きがおかしくなっています。」
平塚が自身の鍛錬のために演武と、それに対して感じたズレを修正するためのトレーニングを行っているとディアがそう報告してきた。
「動きがおかしい?どんな風にだ?」
平塚はトレーニングを止めることなくディアに詳細を尋ねる。ディアは詳細全てを話すのではなくある程度範囲を絞って平塚の問いに答えを返した。
「定期的に集会を行っていたのですが、その集会の頻度が高まっている上に以前であれば愚痴などで終わっていた話が今は何やら白熱しているようです。」
「……国のトップとして考えるようになったということか……?ん~まぁ、ありそうなのは俺の排斥の為に結束してるとかだが……」
平塚は別に自惚れでも何でもなく自分がこの国で功績を立てすぎたことを自覚しており、平塚が入って来る前の一悶着により大部分の貴族、そして王にも嫌われているのをきちんと理解していた。
そして、過去の戦乱の歴史において有力者にも王にも好まれていない新参者が功績を立て過ぎて起こることは一つしかない。
「どうするかね……潮時かな?」
「え?」
ディアがきょとんとした声を上げるが、平塚は少し体を動かすキレを上げて思考に埋没する。
(あの天然の外壁とも言えるニード山脈があればその南が統一されるまではこっちに兵力は回せないはず。……ここには平和な時代が来るだろ。なら現存の兵だけでも国内の統治は大丈夫だ。)
それに、やれることはやった。一生分稼ぐのも終えた。正直、平塚はもう働きたくない。
(関わり過ぎた人たちとはどうするか……これがネックだったんだが、王直々の言葉とあればどうすることもないはず。)
何か言っているディアを見て平塚は舞い踊るような体捌きの中で考える。
(この状況下で俺を殺すってのは流石に出来ないはず。自分で言うのも何だがこの国の、特に元スゥド王国領地じゃ人気あるし。……けど、油断はできないから先手を打って、隠居と言う形を取らせてもらうことにしようかな。)
自分の中で結論が出たところで平塚は動くのを止める。それを受けてディアがタオルを渡すところまではいつもと変わらないが、今日はそこから平塚の話が始まった。
「ディア。その貴族たちが会合している話によっては俺、ここから出て行かないといけなくなる。」
「……私の話聞いてなかったんですか?ファム隊長とは別に諜報部にも派閥が出来てるんですけど、その中で熱心な【英雄教】の人が教えてくれました。今の情報を使えば先手を打てますよ?」
真面目な顔で平塚が言ったことにディアは頬を膨らませて抗議する。ディアは平塚が元帥職を辞めるという考えを持っているとは思っていないようだ。
一先ず、平塚は【英雄教】ではなく【精霊教】であることを強く念を押してからディアに今の状況、そして過去の事例、更に今の自分の心境を説明する。
「俺はここではかなり余所者。この首都じゃあ王様にも貴族にも信用度が劣る中で、兵もほとんどが国に帰属してる。そんな中でそのトップ陣が余所者を排除するという動きを採ればすぐに排除されるだろ?処刑される前に全権を返して大人しく軟禁の形を取られてでも隠居した方がいい。」
ディアは平塚の身内と話すときの言葉を聞いてあざといまでに可愛らしく小首を傾げて仕事モードを解除して返した。
「……でも、ご主人様は皆に人気者だから王様たちがどうこうしても大丈夫だと思うよ?」
「この国は絶対王権制だ。その中で王の力で成り上がった奴がその王の力に対して反抗すれば内乱になる。……折角地獄のようなことをやってまとめたのにそんなことをして混乱させたくない。」
平塚の言葉にディアは納得いかないようだ。
「ご主人様がここまで頑張ったのに……」
「……誰も聞いてないよな?」
平塚がディアに小声でそう尋ねるとディアは少し気配を探知した後に頷いた。それを受けて平塚は言った。
「……正直、もう働きたくない。金は子の代……孫の代くらいまではあるし、人目を引く仕事はもう精神的に疲れる。後、ここまで頑張ったんだしもういい加減ゴールしたい。」
「……ゴール?」
「この後はしばらく平和になるだろうし、軍事は……まぁ俺が出頭する代わりに全員の身の潔白を賞すれば後は何とかなるだろ。最悪逃げればいいし。」
平塚の脳内では辞める方向で話が進んでおり、その場で処刑などの最悪の事態に陥ったとすれば自力で金だけ持って逃げるつもりになっていた。
正直、この国の為に頑張っていた自分を気に入らないからといって殺しに来る国などのために働く気など皆無になっている。
「むぅ~……じゃあ、ディアはどうするの?」
ディアは拗ねたようでどこか期待している風に平塚に尋ねた。そんな分かりやすいディアの態度にわざわざ嫌がらせをする気もないので平塚は照れ臭そうに苦笑しつつ尋ねる。
「付いて来てくれるか?」
「うん!えへへ~」
汗まみれなので飛びつかせるのはどうかと思ったが、本人が気にしない風に飛び込んで来たので平塚はそれを受け止め、そしてふとドア越しの視線に気付いて顔を青くさせた。
「……勿論、この後、当然ながら、私の所に、絶対に、話があるはずよね?そうよね?」
そこに居たのは平塚大元帥の妻(予定)のフロワ様。彼女は笑顔で般若を背後に控えさせているかのような覇気を漂わせてそこにいた。
平塚は背筋を正して勿論ですと反射的に敬礼までして答える。
「……そうよね。……で、何かしら?」
その目は迂闊なことを言えば氷漬けにしてやると言わんばかりの寒々とした輝きを放っていた。平塚は最善の一手を脳内で一生懸命に探す。これほどまでに脳を酷使したのはこちらに来て初めてではないかと言うレベルで頭を巡らせて彼が言った言葉は、
「く、苦労を掛けるかもしれないし、色々と不便があるかもしれないけどフロワと一緒にこの城を出て、暮らしていきたい。ここでの生活に比べれば大変なことばかりかもしれないけど、幸せに感じられるような家を作るから、俺について来てくれないか?」
最早、完全にプロポーズだった。しかし、その腕の中には別の女がいる。絵面は割と最悪の部類に入るのだが……
「……っ!わ、わか……ううん。こちらこそ。よろしくお願いします。」
顔を真っ赤にさせた幼女様にはその余計な者は視界から削除されており嬉し恥ずかしの状態で告白を受ける形となった。
「そ、それじゃ、私、準備始めるから。ま、またね……あ、あなた」
「え、いやまだ……」
平塚の制止の言葉も聞かずにフロワ様は顔どころか首の辺りまでを朱に染め上げて照れながら平塚のことを「あなた」と呼び部屋から出て行った。
因みにディアはディアで平塚からの言葉で舞い上がっており今の話を聞いていない。
平塚は色々どうしようか考えることになったが、それよりもこの後にディア、そしてその更に後にフロワから話を聞いたファムにより松田が一番色々考えさせられることになった。




