内政・その5 社会福祉
「……さて、今日は松田を連れて行ったら大変なことになるな……」
そう独り言を呟く平塚はファンテを連れてある場所へと向かっていた。
「……奴隷制をどうするかが問題だよな……現在の戦災孤児たちの処遇を考えると一種の農奴みたいなものだし……それならいっそ廃止されてる奴隷制を変えて復活させ、様々な職につけるように職業訓練とかさせた方がいいと思うんだが……」
「国の方で抱えられる子どもの数も決まってますし、それに完全な孤児だけではなくて片親でも問題は抱えることになりますからね……」
ファンテの言葉に平塚は頷く。クリーク王国内だけであれば特にそう言った問題について考える必要はないのだが、今回広げた領土には様々な問題を抱えていたのだ。
「それに、簡単に職業訓練するって言っても村って言うのは相当な閉鎖社会だしな……幾ら上から言われたとはいえ外部からの人をそう簡単に受け入れるとは思えん……」
「各村に負担させた方が楽なんですけどね……一ヶ所だと安心して見れるんですけど、それ専用の村ということになって予算がかかりますし、広げたらコストは下がりますけど……見えないところが増える、となると……警備にも費用が掛かりますしね……賄賂の問題とかもありますし……」
平塚もファンテも頭を悩ませる。最近、何の苦労もしていないが平塚たちが王国に入る前に居た貴族たちが賄賂を貰っているという事実が発覚し、処断したことを思いだしたのだ。
(……個人的にはやっぱりそういう孤児たちの面倒を看る場所って言ったら権力より信仰を重んじるタイプの教会とかそういうのがいいと思うんだが……歴史上そんな宗教はあんまり聞いたことないな……まぁマクロ的な話だがな……多分ミクロ的にはあっただろ。そんな少数派を育てることになるか……)
そう思う平塚だが、実際問題としてクリーク王国の国教となる宗教は未だに決まっていない。大まかに精霊教としてやっていけばいいと思うのだが平塚を英雄視する人物たちが平塚と松田も信仰の対象としようとして喧々諤々の状態になっているのだ。
「……ふぅ。早い所宗教の問題を片付けないとな……」
そう呟く平塚を見てファンテは内心だけで彼の苦労について考える。
(……あんまり敬われたくないみたいだけんど……無理だと思うだ。大体、教会に入れたいけどこのままの状態だと無駄に敬われるって仰ってただけど、今の孤児院でも創設案は大元帥閣下なんだから、どっちにしろ敬われるのに変わりないと思うだよ……)
それは言って気付かなければ別に彼の負担にならないと思うのでファンテは頑張り過ぎな上司を慮って黙っておいた。
だが、ファンテの慮りは無意味な物となった。
「あ、【光の英雄】様だ~!」
「え?あ、本当ね……それじゃあ皆?せーの!」
「「「「ごしさつありがとうございます【光の英雄】さま!!!」」」」
平塚は、孤児院に着くと同時にそのように言われて内心だけ顔を引き攣らせつつもにこやかに手を振った。
「はぁはぁ幼女……幼女はぁはぁ……」
「っ!?」
ついでに聞こえてはいけない声が聞えた気がして後ろを振り向くとそこには奴がいた。
「な、んで……?」
「ニタク、エランダ。キタ。」
「あ!【黄昏の魔導師】様もだ~!」
「あ、み、みんな~?もう一回声を揃えて【黄昏の魔導師】様に御挨拶できるかな~?せーのっ!」
「「「「ごしさつありがとーございます【黄昏の魔導師】様!!」」」」
予定外に現れたのは松田。彼は以前神聖ユーク魔導皇国のエリザベート・ルルベ・ユーク第3王女が使用していたと思われる術式を用いてこの場にひっそりと付いて来ていたのだ。
平塚は表面上真面目な顔をしつつ近くにいる平塚にだけ聞こえるくらいの大きさで息を荒げている松田の足を見えないように踏みつけた。
「おい、どういうことだ?テメェ……」
「こっちの台詞だな。何故、ここに行くと言うのに俺を呼ばない?話が始まらないだろう。」
「その話は始まったらまずいやつだろうが……」
平塚と松田が密談をしている間にファンテは試験用として開かれた孤児院の院長と話を進める。院長は何か不手際があったのかと不安気に平塚と松田の様子を窺うが二人は特に問題ないとして話が進められているので深く尋ねたりはしないで予定通りの行動を取った。
「そ、それでは……ご案内させていただきます。」
「いいか松田。お前には以前、取引先で託児場に突っ込んだ失態があるから先に言っておく。絶対に、暴走するなよ?フリとかじゃねぇからな?」
「任せろ。術で常に精神安定化してる。まぁ、ギリギリもつと思う。」
院長の少し怯えと緊張が混じった言葉の直後に誰にも聞こえない様に平塚はそう松田に伝えたが返って来たのは微妙に安心できない答えだった。
それでも既に来てしまったものを帰すのも変なので平塚は松田とファンテを連れて院長の案内に従った。
「……ふむ。経理上の問題は今のところないか……」
「栄養管理士が欲しい所だよな……ここの子どもたちがどういう食生活すれば最も適切なのかわかんねぇから困る所だが……」
(松田が、まともだ……)
平塚的に驚くのはその点に尽きた。因みにファンテは実際に子どもたちが遊んでいる所や勉強している様子を見て回っている。
「子どもたちが飢えで苦しむことがなく、安心して生活できているので【光の英雄】と【黄昏の魔導師】様には感謝してもしきれません……」
(その原因を作ってるのは俺らなんだがな……)
院長からの感謝の言葉を平塚は素直に受け取れなかった。今、クリーク王国では史書を編纂しており、先の戦を【大解放戦】と評して正当化しているが彼が実際に行ったことは単なる戦争だと自覚している。
(……もっとも、俺らがいなければもっと困窮していたという声が多いから救われてはいるが……)
平塚は精神的な疲れから来る溜息をそっと漏らした。隣では松田が恐ろしい速さで書類を読んでいく。
「……亜人、はいないか。」
「?はい。ニード山脈北部には元々の数が少ないですし……それがどうかなさいましたか?」
「いや、スゥド国からの流入者の問題があるからな。」
松田が身分相応の口調でそう言うのを聞いて平塚は感心した。
(こいつが幼い子どもたちを前に冷静になってるなんて……成長したなぁ……?いや普通か。でもまぁ、成長してはいるよな。)
「そうだな。人数にも問題はないが……もう少ししたら少しレベルの高い教育ができる人材が学校の方でもできるだろうからそこから派遣するか。」
「だな。……書類の不備は指摘した以外には特になしだな。ファンテ卿が戻って来たら帰るとしよう。」
ちょうど、その折にファンテが戻って来た。そして二人は孤児院の子どもたちに見送られながら馬車に乗り、首都へと戻って行く。
「ふぅ。」
「いや、疑って悪かった。お前も成長してるんだな。」
松田の大きな吐息に平塚は謝罪の言葉を発す。因みにこの時点でファンテは自分より身分が高い二人との同席を辞退して御者の方へと逃げている。
「何がだ?」
「いや、冷静に行動で来てたからな。入る前に疑って悪かったと……」
「まぁ、将来の為に今の内に色々知っておかないとな。……いずれは俺の資金で孤児院を作り……ふふ、フフフフフフフフフ……ウフフフフフフ……」
「……そうか。」
そんなに子どもが好きなら後でファムに告げ口して子作りに励んでもらおう。平塚は褒めたことを返して欲しい気分になりながら馬車に揺られて首都へと戻った。




