内政・その4 視察(林業)
「今日は林業、漁業あと交易だな。」
今日は松田とディアとファムを連れて少し遠出する予定だ。遠出の為、今日と明日の旅行でフロワはお留守番となっている。
「……さて、最初は林業からだな。」
「なぁ、俺の話聞いてるか?おい、平塚。聞いてんのか?いや、聞いてなくてもいいからこっち見やがれ。」
俺より一足先にご婚約が決定なされたらしい妻帯者様が何か言っておられるがまぁ気にせず馬車を揺らして俺らは視察の旅に出る。
因みに、俺の膝の上にはディア、松田の膝の上にはファムが乗っており見る人が見れば通報すること間違いなしの図になっている。
「ご主人様~ディアも頑張るね!あ、そう言えばなんだけどね、書き終わってない書類がもう一枚あるよ!持って来てるよ!」
「その手は前にフロワに喰らった。」
「じゃあ何で俺に言ってねぇんだよ!俺その手でまんまと教会に提出されたんだけど!?」
「……言ったら絶対殴りかかって来るだろ。」
「馬鹿野郎!魔法でぶち殺すわ!」
何自信満々で言ってんだ?だと思ったから絶対に言わなかったんだよ。
「まっつんはファムさんと結婚するの嫌なの?」
書類を描いてもらえなくて不満気だったディアが沈黙が降りた馬車の中で純粋な目をして松田にそう尋ねるとファムは松田の服をきゅっと握った。
その様子を見て松田もその瞬間は言い辛そうにしたが、それでも己の欲に忠実な奴ははっきりと言った。
「俺、まだ遊んでいたいんだ。……穢れ無き天使たちと……そしてお兄ちゃんと呼ばれ、その子が第2次性徴を迎える前に『お兄ちゃん、お兄ちゃんと一緒にいると体がちょっと変なの……心配だからごぶぅっ!」
ん。俺が手を下す前にくたばったか。
「秋様?」
「ごべんなざい……でも!でもさぁ、これさぁ、まだ早いと思うんだよねぇ。それに尻に敷かれたくない……切実に。」
「………………でしたら、その、私が……下で。」
「そう言う意味じゃ!」
あたふたあたふたしてんじゃねぇよ。中身はおっさんとババアだろうが。何青春してんだ?畜生が。埋めて林の肥料にしてやろうか?
「……さ、参考までにだけどね、ご主人様は上と下……」
「そろそろ着くと良いなぁ…あ、そうだ。気分悪くなったりしてないか?」
はい、俺も逃げました。文句あります?おっさんでもこの歳になって働くことしかしてなかったんだよ!社訓は社会人に趣味は要らないだからな!?あの腐れた脳味噌してる自称頭脳者集団の経営層はいい大人がふらふらと遊ぶなんて言語道断とかわけのわからないゴミの様なうっすい人生観を押し付けて来てたんだ。お前らは振り返って仕事しかしてない人生遅ってればいいんかもしれんが俺も巻き込むなや禿が!
「むぅ……ご主人様って私を買った割にヘタレだよね……」
「……そうだな。」
それだけディアを大事にしてるんだよとか言って一矢報いてやろうかとも思ったが恥ずかし過ぎる。正気じゃ無理だ。
この後馬車の中は変な空気のまま進んで行った。
「着きました。」
俺らは城塞都市から北上しレノウの町に至るまでの場所に生えている特産の【アイロ・デノワ】とかいう木材の加工や切り出しなどを一手に任せた場所に来た。
俺らを知っている職人たちは俺らを、正確には馬車を見て慌ててわざわざ全員で与作(仮)さんを呼びに行き俺らはそれを待ちながら山全体を見ておいた。
「……うん。ちゃんと植樹もしてるし、大まかには広葉樹と針葉樹の住み分け状態も守ってあるな。」
「勝手に金にならない広葉樹伐って【アイロ・デノワ】だけ増やしていったら大変なことになるからなぁ……」
俺らはちゃんと言いつけを守っている職人たちに満足した。
日本では木材となる杉を大量に植え、その分のスペースを確保するためにシイ等の広葉樹を切り開いたことがある。
その結果、日本の森の多くが食べられる実を成さない針葉樹ばかりとなり食料となる広葉樹をなくした動物たちは人里に下りて来て人間が獣害と呼ぶ現象を引き起こした。
また、スギの花粉によるアレルギーも多く増えるという結果になった上、杉の木材としての価値が下落し、手入れをする価値がなくなり放置されるという手の付けられない状態にまでなった。
「【アイロ・デノワ】は見た目黒い杉だしな。実もならなさそうだし。」
「まぁ木材とか工業品にはむいてるんだけどなぁ……」
「秋様。地元の経済を回すのは富める者の義務ですよね?ですから何か買ってはいかがかと思います。……例えば、あの指輪などいかがですか?」
真面目な話をしているとディアと一緒に土産物的な物産を売っている場所からファムが帰って来て松田を連れて行こうとしてきた。
「え、ちょ……待ってくれる?俺、今結構真面目に……ってかあの指輪…凄い高いな!?」
「【アイロ・デノワ】に魔力による特殊加工を施したもので、木の再生能力を強化している逸品だそうです。」
「お、嬢ちゃんの兄ちゃんかい?アハハ。これは結婚指輪とかに使うもんだから妹さんに買ってあげるにしちゃ高いよ~?あ、でもその年になったらいい人の一人くらいいるだろ!?買ってかないかい?プロポーズには永遠に壊れない愛情をこの指輪に誓おう。なんつって!」
俺らのことを知らないらしい職人がファムに連れて行かれる松田を見てセールストークを始めた。
「え、ちょ、」
「他意はないですよ?先程ご本心を聞きましたから少しは待ちます。ですから婚約指輪なんてものも秋様がまだ望まれないのであれば待ちますよ。少しは。えぇ少しは待てますよ。因みに店主。私たちはカップルです。アツアツです。」
「ガハハハハ!んじゃ買ったげないとなぁ!今ならペアでおまけして……」
……ディアが、こちらを見ている……松田とファムを見た後こちらを見ている…黙っているが、目はもの凄く何か言っている。交互に、見ている…あ!
「大元帥閣下!このような辺境の片田舎にわざわざお越しいただきまして誠にありがとうございます!」
筋骨隆々の髭面、強面のスキンヘッドの与作さん(仮)俺は今君が救いの神に見えるよ……こちらこそありがとうだ……
俺はこの後ディアの視線と松田の視線を躱しながら商談とこれからの話についてこのおっさんと語り合い、この場での時間をなんとかやり過ごすことに成功した。




