内政・その2
学校設立後、一応最高責任者として役職についている俺がスピーチを行った後、俺が次の仕事に移ろうと学校の敷地から出てすぐに同行していたフロワから小さな声で巨大な魔力が近くにあることを告げられた。
「……松田とどっちが上だ…?」
「同等よ。しかも隠し立てもせずにこっちに来てるわ。」
松田には学校という場所へと近づかせたくなかったのが裏目に出た。そんなことを考えながら何らかの対策を取ろうと考えるが、フロワに袖を引かれたことで接近している人物に気付いた。
どうやらお出ましのよう……だ。うっわ美人……
光を吸収して流れる黄金の滝のように豪奢で豊かなウェーブのかかった髪。清らかな湖畔を思わせる透明感のある青い眼。主張し過ぎることもなく、かといって存在感がないわけでもないこれ以上でもこれ以下でもバランスを崩すと思われる鼻に見るだけで吸い寄せられそうになる潤った唇。
「…ヒラツカ?」
いや、睫毛長いな……それに華奢で強く抱きしめれば手折れそうになるほどの細い体なのに胸は……それにしても本当に美人だな……これが黄金比という奴なのか?
「……」
お隣の幼女様が無言で俺の足を踏み躙って怒り、俺はすぐにご機嫌伺いに走るというコント染みたことをしていると目の前の美人さんはその花唇を開いてひまわりの様な快活な声を出した。
「あなたが、開発者?【探査魔術】で辿って来た感じだとそうなんだけど。」
「……君はどこの誰ですかね?」
この国で王以外の誰の下でもない地位に位置しているとはいえ、相手が誰なのかまるで見当もつかないため言葉を選んで口を開く。その美女は目を軽く開いた後笑いだした。
「そうよね。うちの国じゃないんだから自己紹介が必要だったわ。私は神聖ユーク魔導皇国第3皇女にして【光の皇女】とか言われてるエリザベート・ルルベ・ユークよ。よろしくね?【光の英雄】さん?」
「「っ!」」
微笑みながら言われた言葉に俺とフロワは思わず息を吞んだ。おそらく息を吞んだ意味は異なる。目の前のエリザベート何とかユークさんは悪戯っぽく笑って言った。
「あーそんなに緊張しなくていいよ?宣戦布告しに来たわけじゃないし。スゥド軍の動きがおかしくて内部情報を探ってみたら北の蛮族がニード山脈北部を統一したって情報が入って、来ただけ。」
北の蛮族。ねぇ。アヅチ族が統一したとでも思ったのか?
「で、蛮族がどういうところかちょっと知りたいなぁって思ってたらここ私たちの国レベル…ううん。皇国以上のレベルの政策をしてるじゃない。だから発案者の引き抜きに来たってわけ。」
「……ハハハ。お戯れを。」
何ちゅーことを言ってるんだこのお姫さんは。ここの姫さん方は皆どっかおかしくないといけない決まりでもあるのか?
「あら、釣れないわね。……そこの小さい子は何でそこまで怒ってるのかしら?」
「ユーク第3王女様におかれましては自国の元帥を目の前で引き抜こうとする者に対して何も思わないのでしょうか?もしや、我が国を辺境に在る小国と思って侮られておられるのですか?」
フロワが氷の姫モードになってアドレ…?アンジェ……?目の前の美人さんを威圧する。
「あら、この魔力と質……クリーク第3王女、【氷姫】フロワ様かしら?」
「えぇ、お初御目にかかります。フロワ・ミゼリコルド・クリークです。王女殿下に置かれましてはこの様な辺境にわざわざお越しいただき感謝いたします。」
……農場に行きたい。去年の夏にここに来てから依頼の実験が実った農業改革と松田が俺を待ってるんだが……
「これは失礼いたしました。仲睦まじく歩いておられる様子から兄妹の方かと。」
あー苦労したなぁ。こっちの世界で何となくわかるのは麦っぽいアレだけで植物が分かっても一般常識しか入れてもらってないからノーフォーク農業をしようにも肝心のクローバー……ん?何か見られてるが…あぁ。
「申し遅れました。クリーク王国大元帥及び副宰相のヒラツカ・ハルキです。」
ちゃんと名乗ったのに思いっきりフロワに足を踏み抜かれた。
「ヒラツカ・ミゼリコルド・クリーク。もう確定婚約して書類婚は済ませてあるからファミリーネームは変えなさい。」
「…ファミリーネームならヒラツカを変えるんだが…」
「?!ヒラツカが名前じゃないの…?何で言ってないのかしら?どうりで神殿受諾されなかったわけだわ…」
……つーか。
「それ、いつの出来事……?俺知らないんだけど…」
「この前休暇でディアと浮気してた後にデートしてからやったわ。悪い虫が付きそうだったから。」
「……もしかして、為替切る時に書き損じって…」
「想像してる通りと思うわ。折角ファムに良い事聞いて上手く行ったのに…」
俺が絶句していると放っておかれていたエリザベート…だったと思う美人さんは笑い出した。
「噂とは違うみたいですね【氷姫】様。それと、【光の英雄】様に置かれましては随分と苦労されているようで。よろしければユーク国へ。我が国の貴族は一夫多妻制ですし、王族でありたいのであれば私が嫁しましょう。私は【光の英雄】様が側室を持つことを止めませんよ?『英雄、色情狂』と言いますし。」
魅惑的な笑顔で言われるが何だ英雄色情狂って。色を好むまでに抑えておいてくれよ。間接的に俺のこと【光の色情狂】って言ってんのか?
「オイ平塚!来ねえと思ってたら何してんだここで。」
何か喧嘩売られてる気がしていた俺の下に松田が駆け足でやって来た。俺も客観的に見ればこんな感じのスピードで歩いてるんだろうが不気味だな。
そんなことを思っていると松田は一応エルーザ…?さんを一瞥し、特に興味を持たずに俺に話し掛けて来る。
「地主のおっさん待ってるぞ?成果は見てのお楽しみだから言わねぇが早くしようぜ?」
「いや、お前のはしゃぎよう見てればすぐに分かるが……」
「まぁわかんねぇだろ!改革成果を天使様ぁっ!」
他国の人間の前で機密事項を離そうとしていた馬鹿を殴り飛ばすと訳の分からない言葉を吐きながら飛んで行った。つーか余裕あるな。
「あれが、【黄昏の魔導師】ね……成程、確かに脅威だわ……っと、それにしてもそれよりも気になるわね。」
吹き飛ばされる松田を冷静な目で見ながら美人さんはそう呟くと急接近して俺の手を取って言った。
「ねぇ、教育システムといい、ここに来てすぐに分かる商業の営業法にしろ、立てられている高札にしろ…今聞いた農業改革にしろ……あなた幾つの改革事業をやってるのかしら?ちょっと、話を聞かせてもらえないかしら?」
彼女はそう言ってまさに傾国の笑みを浮かべた。




