落ち着き始めた頃
王妃崩御からしばらくし、旧エスト・ヴォラス領の統治も軌道に乗り始めてアヅチ族との交易も上手く行き、対外的に落ち着き始めた頃。
城の中では平塚と松田、それとフロワが執務に取り掛かっていた。
「……フロワ。ちょっとだけでいいから離れてくれないか?字が書き辛いんだ。後後ろから刺されそうな気がしてならん。」
「安心しろぉ。天使様に傷つけるようなことはしねぇ。刺すなら脇腹だ。」
「どっこも安心できねぇよ!」
フロワは王妃の死後から平塚に甘えることが非常に増えていた。勿論公務を疎かにすることもなく、普段は毅然としているのだが身内だけになると急に砕ける。
そんな感じで第一王妃であるジョルジュ王妃の死はクリーク王国で少々の傷を残してはいたものの、城の中は概ね落ち着きを取り戻し始めていた。
「あ~……そうだ。後で模擬戦しないか?不慮の事故には十分に気を付けた状態でな。十分に。十分に……」
「繰り返すな。何考えてんだ……」
松田は書類から目を離し、平塚とその後ろにくっ付いているフロワを見たまま書類のサインをする。ある程度の位置であれば正しく間違えることもなくサインできるので問題はないと知っているが視線が気になって仕事にならないので平塚は息抜きも兼ねて別の話題を提供した。
「あー、国家統合が進んだし、今のままの感じじゃ調略されたら元々クリーク国の国じゃない城とかはすぐに陥落しそうだ。そうならないようにこの国の団結力を高めようと思って色々新事業をしようと考えたんだが。松田何かないか?」
「幼女教を設立して紳士たちの結束力を高める。俺が教祖になるからお前はそうだな…」
「作ったら壊す。……真面目に考えろ。まぁ確かに宗教で固めるのはありだが宗教だけだと暴走しがちだからなぁ…」
少し思考した後決め顔で言った松田の妄言を一蹴した後、平塚は考えた。
「そうだな……確か、精霊教が主だったよな?それと何らかの関連を持たせて王家と繋がりを持たせて権威づけ……」
平塚はそこで方向転換をしなければならないことに気付いた。しかし、時すでに遅く松田が意地の悪い笑みを浮かべて口を挟んできた。
「おぉ、じゃあ身近に良い例があるな!【光の精霊】と契約して一般人ながらにして国を憂い、剣を取って国の為に戦い元帥に成り上がって王家と結びついた【光の英雄】様がいるし。」
「それ以上言うな【黄昏の魔術師】。協約違反だぞ?」
「……ヒラツカ教…か。」
平塚が松田を睨んでいるとその後ろでフロワがぽつりとそう漏らして立ち上がろうとしていたので平塚はすぐさま体の位置を変えるとフロワを抱き止めた。
「まぁ落ち着こうか。まだ、決まった訳じゃないし、これには決めさせないから。落ち着いて、座ろう。」
「落ち着いてる。それに、私もいい案だと思うわよ?ね……」
意見を出した松田に同意を求めようとフロワが顔を向けた所で血涙を流さんばかりの表情になっている松田に気付き、フロワはそっと見なかったことにして平塚の方に顔を戻した。
「国歌を作ろう。取り敢えず。んで、国旗も作ろう。現状だと何か歴代の王によって紋章が変わるとか面倒なことしてるし。」
「国歌か…作曲どうするんだ?」
松田の一言に平塚はフロワが逃げ出さないことを確認してからフロワを離すと少し考えてから言った。
「……異世界にも著作権って通用するかな…?」
「パクルのはアレだろ……時代背景も違うし。言語だって違う。楽器も違うし。パクルには何から何まで尽く違い過ぎると思うぞ?」
「えーと、フロワ。この国で有名な曲って何がある?」
平塚の問いにフロワは首を振る。
「国全体で有名な曲というのはないわ。代々伝わる国の歴史の語り歌の流れなら…お城の中とその近くぐらいだったら聞こえてるかもしれないくらいで…」
「……新しく適当に作った方が早いか?」
「打楽器を適当に打ち鳴らしてノリに合わせて誇りとかクリークとかそんな感じの歌詞を盛り込んだ奴にして公募でもするか。」
国歌については国に仕えている人たちに適当に応募することに決まった。次は国旗にする紋章を決めることになる。
「…よっしゃ、いいこと考えた。平塚。この世界って日本語は…」
「アヅチ族がいることを忘れるなよ?」
松田が嬉々として何かを書こうとしていたので平塚は先手を打った。松田はそれならばと筆記体でLolitaとまず書いてそれをどんどん崩し、合成しようとして平塚に頭を叩かれた。
「こんのロリコンが……」
「急に褒めるなよ。てか何か言うなら自分も描いてからだろ?」
「ボケが……」
松田のニヤニヤした一言に平塚は憮然とする。平塚は絵を描いたりするのが苦手なのだ。図を頭の中に描けても実際にその図を描くとズレが出てイライラしてしまう。
なので話はそこで切りあげられて次回持越しの話になる。
「主にこの国を代表する何かを入れて後何か足す感じでやってもらうか。まぁこれも公募した後厳選して手を加えればいいな。」
「後でにしすぎだろ。今の内に何か決めとかないと。」
「元々俺らだけで全部決定できるってわけじゃねぇしな。一応話を通してそれを最悪国の許可が下りなかったときに国を通さずに民衆に広めるために相談してるだけだ。」
「通ると思うけどな……」
実質的な国の政策はこの二人で決めており、一応次代のことを考えて暴走を防ぐために名目上で障害は色々とあるが現在は基本的に任せきりとなっているのでこの件に関してもすんなり通ると思われる。
「最悪の事態を想定しとかないとな。まぁ…」
「紋章。これなんかどうかしら?」
しばらく黙っていたフロワがメモ書き用の紙切れに描いたものを平塚に見せてきた。平塚はそれを受け取ると訊いた。
「どういう意味で描いたんだ?」
「……何となく。パッと出て来たのよ。」
「ふーん…まぁ、候補の一つに入れとこうか。」
(この鈍感が……っ!まぁ見て分かんないんだろうが教えねぇ。それが光と氷の紋章陣の合成にそっくりだということはなぁ……はぁ……何で俺には、こんな素敵な幼女が…)
突如、松田の背筋に寒気が走った。首を傾げた松田は今日は早目に休むことに決めてこの気付かない甘い雰囲気の中から退散して行った。
因みにその夜。松田は何故かファムにベッドに侵入され、色々と話した後一緒に寝ることになった。
いつもありがとうございます。




