VS ヴォラス 終戦
「陛下!クリーク国が我が領地に攻め込んで参りましたぞ!」
ヴォラス国王は慌てふためく宮中でその報告を受け、最近の悪い報告により唯でさえ悪かった顔色を蒼白に染め上げた。
彼の目の前では戦争に賛成組だった軍部と反対だった穏健派が醜い言い争いを繰り広げ、責任を押し付け合い暴動寸前にまで行っている。
当然旗色が悪いのは戦争賛成組の軍部だが、亡国になろうとしているこの現状ではそんなことはどうでもよかった。
(…勝てるのではなかったのか?南征で疲弊したクリーク国に我がヴォラス王国の威信を示し、侵略を思いとどまらせることが出来るように力を見せると…)
国王の胸中にあるのはその思いだけだった。まず、先鋒が負ける恐れはあっても彼の娘であるオヴァが負けるところなど想像すらつかなかったのだ。
国からは戦渦に巻き込まれるのを恐れて家財道具をまとめてクリーク王国に逃げ出す者まで出て来ており、例えこの侵略軍を追い返しても国としての立ち行きは芳しい物ではなくなるだろう。
「陛下!かくなる上は総力戦でクリーク国に一矢報いてやりましょうぞ!」
「何を言っておる!ここまで来ればもうお終いよ!民の為にも降伏を!さすれば陛下の命も…」
「馬鹿めが!臆病風に吹かれたな!忠誠心が足りんのだ!忠誠心が!」
「忠誠心でどうにかなるものではあるまい!忠誠心だけでこの事態がどうにかなるのであればこんな状況にはなってないだろう!」
喧々諤々。しかし、既にこの話し合いの場でクリーク軍に勝つことが出来るという論はない。
無様で惨めながら民を守ることが出来る降伏か、死中に活を求め王としての矜持を保つための抵抗か。王は選ばなければならない。
そんな中、この場に誰も知らない人物が現れていることに気付けたのはその得体の知れない者が話しかけてきた王だけであった。
「クリーク王国元帥閣下 ファンテ・レオニダス様からヴォラス国国王ルキニウス・セイン・ヴォラス様への降伏勧告書でございます。」
「ひっ!」
いつ現れたのか全く気付けなかったヴォラス王は一瞬息を吞み、それにより初めて周りが異変に気付いた。
「誰だ!?」
「王を守れ!」
「クリーク国の刺客だ!」
貴族たちが周囲を見渡し、衛兵を呼ぶ間にその者はいなくなっていた。この状況を受けて軍部は顔を青褪め、自軍との練兵度の彼我の差を思い知る。彼らはその気になればクリーク軍は暗殺と言う手段を以てヴォラスを滅ぼせたのではないかと気付いたのだ。
その件に関してはクリーク軍の上層部は暗部の方からの報告でオヴァがいた時は中に入ることは叶わないと知っておりそれは不可能だと知っていたが。
言い換えれば前は駄目だったが今であれば暗殺できるということにもなる。つまり事ここに至ればクリーク軍にとってヴォラスは敵と言える敵ではなくなっているのだ。
戦略としては 降伏>暗殺>戦争といった具合か。暗殺では統治者が変わったことが民に伝わりにくいので王直々に敗北を伝えてほしいという考えがある。
「陛下…降伏勧告の内容は…」
「降伏などなされてはなりませぬ!まだ打つ手が…」
渡された書簡。その内容を読み進めている間にも周囲の反応はまとまりがなく言い争いが続いている。
そして王が読み終わった時、王は宣言した。
「衛兵!軍部の者を捕えよ!ヴォラス王国は彼の者どもの戯言により亡国の道を歩むことになった。なれど、クリーク国は彼らの血を以てすれば主導者の変更は無しに降伏を受け入れるとのことだ!」
衛兵が貴族たちの周りを取り囲む。そして彼らは王の命令に忠実に従った。軍部の貴族たちは抵抗しながら叫ぶ。
「陛下!ご再考ください!クリーク国が書簡通りに降伏を受け入れるとは限りません!まだ打つ手が…」
「ほう。ならば策を申してみよ。」
「籠城です!幸いにして今年は豊作でした。4ヶ月は籠城が可能ですからその間に先に同盟を結んだエスト国と連携を取り、またアヅチ族に報酬とこのままではクリーク国が北上し、北伐を開始する恐れがあると唆し…」
軍部の一貴族が立て板に水とばかりに話すが、その書簡内の情報はその話の全てが意味をなさないという事を教えていた。
「現在、クリーク国大元帥 ヒラツカ・ハルキ・クリーク並びに宮廷筆頭大魔導師マツダ・アキヒコがアヅチ族と会見。言語の壁など感じさせずに野蛮な食事を嬉しそうに食し、友誼を結ぶことに成功。また、エスト国はアヅチ族とクリーク国の挟撃により滅亡とある…」
「そ、それは妄言です!早すぎる!こちらを攪乱しようと…」
男がすぐさま否定するが、王は険しい顔をしたままだ。
「ここにアヅチ族の宴の料理内容とその食し方が記されておる。中央に近い人間が知るはずもないものだ。それに、言語の壁を乗り越えた証明と言わんばかりにアヅチ族が使う文字で最後に色々と記されておる…これは私には読めんがな…」
「ですが!それだけであればエスト国が滅んだという意味には繋がりません!なにとぞご再考を!」
食い下がるが今度は内政官の貴族の男からその言葉は否定される。
「貴殿はクリーク国がエスト国から侵略を受けているのにもかかわらずそれを放っておき、エスト国と我が国しか接していないアヅチ族との交流に出かけたとでもお思いなのか?エスト国の領土を侵略した後、アヅチ族が危機感を持った所で会談をしたと考えるのが自然だとは思わぬのか?」
安全圏にいるからといって平然と切り捨てにかかる元同僚を射殺さんばかりの視線で睨む軍部の貴族の男。内政官の貴族はそれを平然と受けた後、陛下に降伏準備を進めるように進言する。
しかし、それはなだれ込んできた軍部の官僚によって阻止される。
「黙って死ぬなど騎士にあるまじきこと!我らは一矢報いて死に花を咲かせてくれる!」
「元より殺された命!陛下!お暇させていただきますぞ!」
「まて!そやつらが問題を起こす前に殺せ!」
この後、ヴォラス国は軍部の暴走を危惧した王家たちの勢力とどうせ死ぬのならばと対立する軍部により内部崩壊を起こし、首都は泥沼争いを繰り広げた後軍の力を以ている軍部に勝敗が上がる。
しかし、味方との殺し合いで疲弊しきった上、ついて来たのは軍人のみで抗い民のいないヴォラス国はその後あっさりとクリーク王国に吞まれることになる。




