急を告げる
「大変よぅ!ヒラツカちゃん!」
「…ゴンザレスか。」
「マリーちゃんって呼んでって言ってるでしょう!もぅぷりぷりしちゃうわ!」
「…何か用か?」
俺がある程度落ち着いて執務をしていると可愛らしさの欠片も持ち合わせていないゴンザレスが急にドアをぶち破って出て来た。
ドアよ…すまない。多分このドアが一番この城で傷を負っていると思う…
そんな感じで俺がドアに哀悼の念を捧げているとゴンザレスは興奮したまま言ってきた。
「そうよ!クリーク王国!囲まれたわ!」
「…何にだ?」
こいつが率いた200人部隊にマリーちゃん呼びしろって言ってたら暴動が起きてこいつの家が包囲でもされたのだろうか。それならウェルカムだが…
まぁ、そんな面白い事態じゃなさそうだな。俺の予想じゃ…この国の北のヴォラス国が同盟国に無断でスゥド国に対して急な出兵をしたことへの非難声明ってところか?
ところが、事態はそんな状況を既に通り越していたらしい。
「エストよ!それに友好関係にあった北のヴォラスが同盟を結んだわ!そしてすでに軍勢を整えてるらしいわよ!西は静観するつもりみたい!」
「なっ!」
俺は思わず腰を浮かせた。考えられないことではなかったが、思っていたよりも決断と実行する時期が早かったのだ。
「キルヒホッフ親子が入った所為か…?いや…この段階で何かを決めるのはいかんな。松田。」
隣で同じく執務をしていた松田に声をかける。松田は嫌そうな顔をして書面から目を上げた。
「戦争か…やだなぁ…せめて後半年待ってくれれば…」
確かにせっかく色々と実行に移せると思った矢先のことで俺もそう思うが、そんなことを言っていても敵さんは待ってくれない。
「…でもまぁ、前に比べれば…軍備も出来てる方だからマシか…?」
「戦争するのにマシも何もあるか。とりあえず陛下に報告を入れて…ゴンザレス兵の準備を。」
「はっ!」
ゴンザレスは低い声でふざけた雰囲気を払拭し、きびきびとこの部屋から去って行った。
「松田。貴族院への連絡を頼む。」
貴族院は領土が大きくなって話し合いだけでは済まないと考え、最近スゥド国の降伏して来た一部の人間とクリーク王国の騎士、貴族で作った議会のようなものだ。
「おー。お前は?」
「多分元帥とか言われてるし一回は陛下の所に行った方がいいと思う。」
そんなことを言っていた矢先、蝶番に甚大なダメージを負っているドアから兵士が出て来た。
「元帥閣下。陛下がお呼びです。謁見の間へ同行をお願いします。」
「…ってことみたいだから。」
「色々必要だと思うことはやっとくな。」
俺は松田と別れて一人で謁見の間へと向かった。
「おー。どうだった?」
謁見が終わり、幼女様が戦争体験するとか言って来たのを止めておいて、謁見の間の前で待機していた松田と合流した。
「…まぁ、全部任せるぞってことを長々と色んな言葉で飾り付けられて言われてきた。後やたらプレッシャーがかかる言い方された。」
「プレゼン前のあの豚とどっちが?」
「それに比べりゃ優しいもんだな。」
苦笑して上司のことを思い出す。さて、ふざけるのはここまでだ…これからは戦争。頭を切り替えて行かないと負ける。
頭の中を切り替えると軍議を行うために元あった部屋を俺らが新しくリフォームした部屋のドアを開いた。
中にはすでに主だった者が全員揃っている。俺は入ると前置きは抜きで2名選出した。
「ファンテ卿!フィロド将軍!」
「「はっ!」」
「二人には北のヴォラスの相手をしてもらう。敵兵は3000。二人は戦車50台と3500を率いて挑んでもらう。異論はないな?」
「「はっ!」」
「では、存分に勇を振るってこい。」
そう言って二人を送り出した。更に二人にはファムさんの鍛えた中でディアを除くトップ10とその他の諜報員を別途に連れて行ってもらう予定だ。
そして更に予備の友軍としてこの国の騎士の中で訓練をすることで変化した若者たちを先発隊に知らせずに1000名送っておく。
「では、我が隊は4500名でエスト国が去来する予定地、ジエイゾに向かう。」
俺は室内に残っている面々の顔を見ながら言った。
「戦は数だけが問題となるわけじゃない。エスト軍に目に物を見せてやろうではないか!」
松田。お前俺の台詞聞いて笑いこらえてるけど…後で覚えてろよ?
「あーあぁ…早速仕事かぁ…まぁ、タダメシばっかりってのも居心地悪いし…いっかな。さて、200人で何人位潰そうかな?」
「エスト国っつったら異民族戦で名を馳せた姫騎士レギンレイヴルと老将軍オドアケルが有名どころだね。あ~今から体がうずいて仕方ないよ。」
「ククク…我が身に宿る暗黒竜が血を欲しておるわ…」
「んふ…んふふふ…血祭りよぉ…」
何か…エスト如何こうよりもこっちの軍団の方がやばい気が。
因みに親方たちには先にジエイゾに向かって砦建設等々をやってもらっているのでこの場にはいない。
代理となるべき副官は北に行ってもらっている。
「では全軍出陣!」
頭の中の殺戮方法をぶつぶつと垂れ流しながら出て行くジャック。
歩くスピードが速くなっており、この時点で興奮しているリーゼ。
右手を抑えているカシザワ君。
いつもとは違うベクトルにヤバいゴンザレス。
今まともなのは俺と松田とド・マーゾくんだけだ。
「はぁやれやれ…クリーク軍になっての初戦闘で興奮するのはわかるけど…俺らが抑え役にならないとな。」
「まぁ、アレで分別ついてますから大丈夫でしょうけどね。」
俺らが苦笑していると軍議室のドアが開いた。そして奥から幼女様が。
「ヒラツカ!こ…これ!」
渡されたのは小さな袋だった。おそらくお守り?
「…ありがとうございます。」
「間に合ってよかったわ。それじゃ。」
息を整えて幼女様は去って行った。何だ…年相応に可愛らしい所もあるじゃないか。ってうおっ!
「な…何だ?」
「…それを、今すぐ、俺に、寄越せ。」
「え?あ…あぁ、ほらよ。」
「何簡単に渡してんだぁっ!」
尋常じゃない気持ち悪い気配がこの部屋に漂っていたのでその発生源が言う通りお守りらしきものを渡そうとして…殴られた。
「は?」
「天使様が!心を込めて!お前に渡した物を粗末に扱うな!」
「テメェが寄越せっつったんだろうが!」
ボディに入れて沈める。
「はぁ…で?テメェは…」
このまま出陣することにしたが、隣のド・マーゾ君が地面に頬擦りして、深呼吸まで…って…何アレ…気持ち悪い…
「間接踏まれ…」
「オラ!行くぞ!」
「ごべふっ!」
ド・マーゾを蹴り上げ、立たせると松田も目を覚ました。
…訂正が必要だな、この場にいるのでまともなのは俺だけだ。これ、大丈夫なのか?
戦車は鉄騎兵が引く合金の馬車とその上に乗っている4名の兵士で成り立っている古代の戦車です。この前カディアと戦ったものを戦利品として持って帰って修理しました。




