ニード山脈北部地域 第四戦・前編
…現在のクリーク軍。…解放軍も含めての数だが…約9500。本国(俺が来る前からクリーク軍だったところ)も含めると12500。俺一人で国の四分の三以上の兵力持ってます。
で、スゥド軍(北部地域のみ)の残党勢力、残り約3500。
…今から攻め込むところには大体2000くらいかな?ニード山脈北部地域のスゥド軍の最後の牙城(松田を置いて来た所も今朝の報告によれば睨み合いが続いているらしいが)、真面目くん(ベルフェナンドとか言った奴)の立て籠もる所だ。
城壁の高さは大体10メートルくらいか?門は四方に備え付けられ、堀に囲まれていて、吊り橋があり、城の内部にそれを動かすための操作機具があるらしい。
また、城壁の内部に川が通っており、水攻めはあまり意味をなさない。それに兵糧攻めもついこの前収穫期だったのでここに居る農民兵たちが戦っていられる期間兵糧攻めしてもそこまで意味をなさないだろう。
正直言って、これだけ頑丈に固められていたら迂闊に攻められない。そんなレベルの防衛陣を敷かれている。
斥候はディアが辛うじて忍び込めるレベル。しかも、向こうからの斥候がこちらに来るので対抗できるディアを簡単に陣から出すことも出来ない。
そして相手はまだ勝機があると踏んでいる。
相手の考えでは、俺を殺せばクリーク軍の侵略は抑えることが出来ると踏んでいるようだ。
…まぁ実際のところどうなのか分からんが、確かに俺が死ねば軍は止まるだろうな。そんでもって俺が死んだ後、誰が軍を握るのか問題になるというのも想像できんわけでもない。
それに、兵たちに俺がどれだけ注意しても兵たちの弛みかけている雰囲気は消えそうもない。
難なく勝ち過ぎたのだ。訓練もろくにしておらず、戦争と言う経験が乏しい彼らは戦争を舐めている。
「功あれば罪消え、禄あり。」この思考と相まって、最近では命令が正しく末端まで行かなくなっている。
…最後に居る砦の主たちはかなり強い。何せディアの潜入にも若干気付くぐらいだし、ここに紛れ込んで俺を暗殺しようとした斥候も一般人じゃ相手にならないくらいの練度を誇っていた。
数の上では、今俺が連れて来ている兵は4500。ベルフェナンド軍は2000だが…真っ向勝負なら勝ち目はない。
「さて、どうしたもんか…」
攻城兵器は黒色火薬以外持ってない。何ヶ月かかけてじっくりと戦いたくても荒れた土地の復興などを考えるとそうはいかないし、少なくとも春先には帰さないとこちらが飢え死ぬ。
「はぁ…ここも農民の反乱があればなぁ…」
楽をしてはいけないってことは分かっていてもそう思ってしまう。
ここの領主は真面目君だし少々ニード山脈の麓で険しい所にあるので流民が殆ど流れて来なかった。そのため、普通に農民たちも大人しくしている。
「…まぁしょうがない。とりあえずこの兵力差で攻城戦は自殺行為だし、相手を引き摺り出す策を考えるか…」
俺はベルフェナンドくんが立て籠もる城に直近の町に移動して色々考える。
上流を堰き止めて水攻めからの洪水がいいかなぁ…手っ取り早いし、気付けば襲い掛かって来るだろうから情報漏洩しながら行ってみるか…
「敵襲です!」
「よっし。釣れた。」
計算通り!さぁ…負けた振りだ!山の麓…打ち合わせの所に逃げ込むぞ…
土煙が上がる中、敵兵が突っ込んで来た。クックック…来たくなくても来なけりゃ大問題になるもんな…
会社に行きたくなかったけど行かざるを得なかった俺から見ても悲惨な状況だよ。
ま、それでも正面切って闘えば勝てるって思ってるだろうし、ただ堤防を築かせないだけに出撃して来て、すぐに撤退してもらっても意味はある。
何回も負けているように見える相手に追撃しなければ部下は上司のことを臆病な奴だとか、本当は部下に手柄を取らせたくないんじゃないか?思ったりするからな。
勿論、攻めて来てもらった方がありがたい。麓には伏兵が潜んでるし、軽い落とし穴と罠の設置も済んでる。
「さ…ん?」
敵を待ち受けていると、遠目に見えたが麓側の俺の軍の居るはずがない場所に自軍の兵が居る。自軍の最先端の一部が俺が出した命令通りに動いていない!
「何やってんだ!あそこを引かせろ!」
不味い。あそこを潰されれば麓へ逃げる道が閉ざされる。その上、背後には川しかない。
しかも、標高の高いニード山脈の麓に出来た大きな川だ。
駄目だ。命令が通ってない。その場所に抜けようとするが、自軍が邪魔でそこまで到達できない。
そして、最悪の結果が訪れる。スゥド軍は最も突出していたそこを真っ先に叩き潰しにかかったのだ。
「全軍!俺に続け!」
速攻で打破しにかからなければならない。しかし、敵は少ない兵を上手く分割して兵の流れを変え、元々向かっていた場所へ辿り着かせないようにしてくる。
「ちっ!ディア!こっちで合ってんだよな?」
「うん!」
俺はディアの魔法で目的地を把握している。しかし、周りの自軍はそうではない。止まることなく斬りかかってくる死兵と化した敵兵に完全に方向感覚を無くしている。
更に悪いことに、本気の戦場に戦意を失う者まで出て来た。
「…最悪だ。くっそ。統治を急ぐ所為で練兵を後回しにしたつけが来た…」
俺が手近にいる人間を何人殺しても全体からすれば微々たるものだ。全く進めていない。
大混戦だ。本来の作戦では死なないように戦いつつ、麓の方の兵から抵抗して決められたルートを退くだけで良かったんだが…
「…それじゃ、最初に退いた奴らは全く手柄を立てれんからな…部下の気持ちを把握し切れてなかったのは俺の方か…」
自嘲気味に呟いた。すると歓声が上がり、相手側の攻勢が激しくなった。…見ると、統一的な軍服に身を包んでいる敵兵の中に農民が混じり始めている。
「…最悪過ぎんだろ…」
背後は大河、目の前には味方だった者、さらに勢いづく敵が迫っている。…その中でも目立ったのが…突出した軍を任せていたある村の村長の息子だった。
麓への道は完全に閉ざされたらしい。




