ニード山脈北部地域 第三戦・前編
「ところで…ご主人様~…よかったの?」
「…何が?」
「包囲戦って敵兵の10倍は兵力が要るんだよね…?」
…孫子?この世界に…?いや、まぁ同じ様な概念ができるのは別に戦争ばっかりしてたんだしおかしくはないんだろうけどさ…
「別にいい。力攻めなら要るかも知れんが…仲たがいばっかりしてる貴族同士で面子を気にしてる奴らが援軍を頼むとは思えんしな。それに、味方でも裏切って攻め込む奴に援軍とかしたら自軍が不味いって馬鹿でも気付く。」
まぁ過去にやったことで首を絞めてるんだ。それに士気だって上がるわけない。惨敗して逃げ帰ったから怖いし、守るために頑張るって思考の奴がいたとしても自分たちで守る対象を殺してるしな。
「まぁ…フィロドと話した感じじゃその辺の理解も出来てたみたいだし。」
俺がわざと聞いた質問に臆面もなくすらすらと答えたし。
そんな感じのことを説明してやるとディアは頬を膨らました。
「そっか…まだディア勉強しないとダメか~…」
「…勉強?」
「うん。【精霊】さんに教えてもらってたの。」
…余計な真似を…少なくとも2歳児に戦争させる気はないぞ…?
「じゃあ…ディアがご主人様の為に頑張れるのはこれだけか~…」
そう言うとディアは急に気配を消した。隣にいるのに存在があやふやに見えるというかなりのレベルだ。
「凄いな…」
「【闇魔法】と併用したらファムさんにも驚かれちゃった!それじゃ、クトブルクに潜入してくる!」
…まぁ…これだけできれば…確かに…いけるんだろうが…
そんなことを考えながら俺はディアの頭を撫でてやった。すると、ディアは気持ち良さそうに目を細める。
「えへへ。ディアご主人様の為に頑張って来るね。」
「……あぁ…」
…こんなことを言ったらアレなんだが…出来ればディアには生きて欲しい。だから無理はしないでほしいんだが…
…戦場で…ましてや軍を率いる者として、私情を挟むわけにはいかない。
俺は黙ってディアを見送った。
「…はぁ…こりゃ何気にしくったなぁ…」
ここには相談できる相手もいない。気軽に話せる奴もいない。我ながら軟弱な精神してるな…と思いながら兵に休息を取らせる。
大量の人間を殺しておきながら、こんなことを思うのは罰当たりかもしれないがディアには生きて帰って欲しいと思った。
クトブルク。
地理的位置はカディア領の南、レノウ領の南西、城塞都市の西に位置している。ルノティアと同じく名産は穀物だ。
今から向かう砦は200程度の兵が駐在している。ここを治める領主は悪徳貴族で自分のいる城下に全兵力を集めて防御しているらしい。
総兵力は2500。治める城下は二つ。町は8つ。砦が12とのことだ。(ファム調べ)。
俺ら(クリーク軍)が攻め込んだ時にはすでに兵を回収して、ほとんどの領民を見殺しにして逃げたらしい。
結果、士気は激減。雰囲気最悪。領民が武装集団化。内戦状態となっている。
俺は農民兵士どもに略奪等を一切させていないってことと、税の負担が軽いってルノティアの噂が流れたことが決め手だな。
元々、ルノティアだけが珍しく適正な税率だったことも駄目押しに繋がっている。
という事で、現在の敵戦力はどうなっているのか…
「ご主人様!」
「おぉ…怪我はないか?」
「うん!でね。ディア調べて来たんだけど…砦…落ちてた。」
「WHAT?」
「潜入したんだけど…ガラガラで杜撰な防御陣でね。それでいっぱい奥まで入ってね。見たんだけどね。ファムさんから教えてもらってた敵のね。将軍がね。ぐるぐる巻きにされて悪態ついてたの。」
…マジか。俺って一体…本当にターニングポイント(笑)レベルだよ…
「でね。砦に居た人はそわそわしてクリーク軍を待ってるよ?」
「…降伏の構えか。なら…楽でいいな。」
まぁでも、戦場だけが駆け引きの場じゃないからな…
俺は一応警戒を怠らずに行軍することにした。
特に何事もなくカディア領との境にある砦の前に着くと、砦から使者が現れた。みすぼらしい恰好をしていて、薄汚れているが、一応丁寧な言葉遣いで俺に用があると言って俺と対面する。
「…あなたがクリーク軍南征大将軍閣下であられるか?」
「そうだ。それで、用件は?降伏か?」
「はい。」
この後は元領主に対する悪口と俺に対するよいしょだったので割愛。
「…それで、閣下にあられては本当に年貢を緩めてくださるのですか?」
「それは約束しよう。」
使者の顔が安堵の色に染まる。ここが問題だったんだろうな。まぁどれだけ悪徳だったのかは知らんが…生かさず殺さずレベルだったことは知ってるしな。
「…では、どれほど…」
「7:3まで下げるのは約束しよう。…ただ、そこから先についてはまだいかんとも言えないな。これからまだ戦争は続く…」
「い…いえ。7:3まで下げるとなれば、領民も閣下に従いましょう。寛容な御心に感謝いたします。」
…え?こっからが交渉じゃね?
「それでは、失礼致します。」
うぇ?
「…ご主人様~…変な顔してるけど、最近は戦争特需で年貢は9:1だったんだから7:3になったら喜ぶよ?しかも戦争中は7:3で戦後はそれ以下にするみたいな素振りも見せてたし…」
「…は?9:1?死ぬじゃん。」
「ううん。死にそうになったら貴族が無理矢理にでも貸していくの。それで土地に縛り付けて…」
「…よく今までもったな…」
俺が来るまでもなかったんじゃね?滅び一直線じゃん…
「戦えないように農作業道具も貸出制で、金属類は刃渡り10センチ以下のナイフを一家に一本だけ。そんな感じだったらしいよ?」
「…それじゃ、どうやって…」
反乱できたのか?いや、まぁ想像ついたけど。兵士が裏切ったんだな。それで今までの鬱憤を晴らすかのようにこんなことになったのか。
「この地域は貴族が就任した時に反抗して酷い目に遭って、軍統制が万全に敷かれたんだって。その所為で反抗心も持てなかったみたい。負けた後は酷かったらしいよ?手当たり次第若い子を城に連れて行って…その子供で、今の騎士団が出来たらしいし…」
「…ディアはその話を誰から聞いた?」
「【精霊】様。」
…何とも言えないな。
「…【闇魔法】の【洗脳】で、子供の頃から教育が行われていたときに戦争が起こって、騎士たちが逃げた所で洗脳が解けたみたい。それで町とか村の貸出の農具で…」
「…腐ってるな。」
この人たちを解放するという意味では俺が戦争を起こしたのは良かったのかもしれない。
勿論それが自己満足だという事は分かっているつもりだが…それでもほんの僅かながら動いてよかったと思えることが出来て、これからの戦争にも力が入りそうだった。




