ニード山脈北部地域 第二戦・開始
「…おい平塚!猛スピードで南西からなんか来てやがるぞ!」
俺は松田のその声で飛び起きた。若干水不足の喉で荒れた声を出し松田から更なる情報を聞き出す。
「夜襲か!数は!?」
「多分300くらいだ。」
結構本気だな…警備兵だけで対応できるレベルじゃないか…
「あとどれくらいでここに来る?」
「…ん~このまま行くと大体2時間って所か…」
「全員叩き起こせ!30分で兵を招集しろ。この町に入れる前に撃って出る!」
俺はそう言って外へ出る準備をした。
「おぉ旦那。」
「敵襲だ。約300程の武装集団が南西から来てる。」
俺が出るとすでに狼人間フィロド君がいた。
「あぁ…でしょうな。あそこの領主だったら最悪旦那がこの城を落とさなくても弱っていたレノウは必ず食ってたでしょうし…ま、だから準備して手柄にしておこうと思ったがバレちまいましたか。」
その言葉に俺は訊きたい部分があった。
「…何か考えがあるのか?」
「いや、既にアップしていた500程兵を貰って潰して来ようと思ってたんで。」
「…なら集める必要あんまりなかったか…まぁいい。全軍出撃まであと少し猶予がある。本番前に疲れない程度に準備しておいてくれ。」
「はっ!」
何かキレのいい返事に感動しつつ俺は松田を待った。
「…もうそろそろ伏兵完了と進軍がかち合う限界地点だな…松田!」
「あいよぉ。」
森林地帯の外縁部近くで俺が合図を出すと松田が魔法を使ってその辺りの地面を隆起させたり凹ませたりする。何コレ超便利。
「…魔力が…結構限界…平塚…幼女が欲しい…幼女で色々補給したい…」
「…落ち着いたらな。」
流石に結構疲れたらしい。そうじゃなきゃ元日本人の善良で分別のある元30代がこんな変なことを言う訳がない。疲れがとれたら思考状態もまともになる。そう思う。…思いたい。……無理だよなぁ…
「…まぁそれは追々話すとして、敵軍は?」
「あ?あー…何か魔力が減って個々の反応がぼんやりして来たけど…塊みたいなのが来てる。もうすぐじゃね?」
「…そうだな。」
聞いておいてなんだが、行軍の足音が聞えてきた。それに結構遠くに松明の光が見えてき始めた。
…?え、ちょっと待って。
「…松田。俺の目がおかしいのかちょっとわからないんだが…あの先頭にいるのってもしかして…いや、あり得ないと思うんだが…」
「まぁ、お前の目はおかしいよ。あんな遠くにいる奴見えるか!」
声帯を震わせない声で会話をしていたら松田に変なものを見る目をされた。不本意極まりない。
それでしばらく待って火が近付き、その火の光でキラキラ反射されてる凛々しい装備をされた方が射程距離内に入って来たのを見て松田に再度訊いてみる。
「…あれ、どう見ても農民とかじゃねぇよな?」
「…レノウ領の決裁書類で見たけど…アレ、お隣さんの家紋だな…」
「殺っちゃ駄目かな…いや、ダメなのは知ってるけど…」
金蟬脱殻と言う計がある。主将と思わせるために立派な装備や目立つ装備、または伝家の鎧などを適当な兵に着せてわざと殺させたり捕まらせたりして油断を誘うというものだ。
使用例としては負け戦の時に御大将を守るために敵の目を欺くといった時や別働隊が本命の時の陽動に使ったりする。
…で、今回なんだが…行軍の時にやる意味が分からない。ぶっちゃけると血気盛んな間抜けが何も考えずにやってるだけの気がする。
勿論、金蟬脱殻など全く考えてもいない状態で。しかし、例え先頭の将が偽物でないとしても貴族にとってはどうでもいい次男で、本命の長男が後詰めに控えていたりするかもしれないので迂闊には動かない。
「…まぁ、それに気付かれている恐れもあるからな…一応予定通り行くが…」
俺の予定では中軍の少し後を叩くことにしている。それならば多少の予想外のことが起きても俺が率いている300の兵たちが機先を制せば最悪の事態が起こったとしても勝てるからだ。
ということで黙って見送る。…うん。気付いてない。まぁ俺らは明かりも持たずに夜の森の中だしね。君ら光持って見晴らしのいい街道歩いてるし。
さぁ、その光は良い目印だよ?夜道には気を付けようね?
「…全軍。俺が合図したら斉射。その後、黙って光の下へ突撃。」
俺の下に来ていた100人隊長三人に命令を下す。その命令を100人隊長が組頭(五人組の長)に伝え、緊張感が漂ってきたところで俺は合図を出した。
「ぎゃっ!」
「何だ!?」
「敵襲だ!」
「どこからだ!?」
敵軍が混乱の最中に居るのを見て奇襲が成功したのを確信し、俺が先陣を切って風を切るようなスピードで走りぬいて中軍のど真ん中を叩きのめす。
…うわ、俺…他人様のこと言えねぇ猪武者?…ま、この程度の連中に負ける気はしないから突っ込んだんだが…
「て、敵襲だぁ!」
「武器!かまぅえづ…」
喋ってる暇があったら攻撃した方がいいと思うぞ。今死んだ奴。
その後も俺が攻撃していると味方が追い付いて来た。そして後は思うがままに軍を崩壊させた。
「あのバカ領主何で俺らを助け…ギャッ!」
それはねぇ。フィロド君が率いてる500の兵と交戦中だからだよ。
「武器を捨てろ!そうすれば攻撃はしない!」
この言葉に武器を捨てる者が出て来た頃、俺は不意に別方向に異変を感じた。しかし、今は目の前の敵でいっぱいいっぱいだ。
「糞っ…」
俺がいくら人並み外れた体術を使えたとしても所詮並から外れただけ。戦えば疲れるし、技のキレも悪くなる。それに連日の戦争であまり休息も取れていない。
従って、別方向の異変にも気付いたし、前方集団の中にこの場所から離脱した者たちがいるのも感じ取ったがそこまで手は回らない。
(…それに唯の脱走兵かもしれないしな…)
そう思いながら戦う事30分くらい。戦いが終わった。そして俺の下に申し訳なさそうなフィロドが現れた。
「…やられました。一点突破で森の方に逃げられました…貴族が逃げた後は投降兵が組み入りまして…」
…ちっ…やっぱ初っ端から奇襲掛けてればよかった…
とんでもなく今更なんですけど、ブックマーク、評価ありがとうございます。




