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異世界不本意戦争記  作者: 枯木人
スゥド王国戦~前編~
24/102

ニード山脈北部地域 第一戦・開始

 俺はクシア・フィロド…スゥド王国の狼人族の騎士だ。生れはスゥド王国の首都エーラワンだが…騎士になった時に狼人族で、この国を治めている猿人族とは種が違うという理由で飛ばされ、北の辺境…レノウにいる。

 …そんな現在の俺の周りの状況を伝えたいと思う。現在、俺がいる館は大混乱だ。

 侵略してくるクリーク王国軍1500が度重なる無駄な迎撃によって1700程になり、こちらの現存兵力は1000と言ったところになっている。そこで、この無能貴族はようやく俺を呼んだ。


「フィロド卿!貴様に兵800を貸し与える!クリーク国を迎撃し、見事破って見せよ!」

「……はっ。」


 この家柄だけの坊ちゃんは兵を出し惜しみして小出しにすることで相手に各個撃破の機会を思う存分に与えており、敵は勝利を重ね、勢いに乗っている。

 …そんな状況で半分の兵だけを渡して勝って来いなんて…脳がイカレてるんじゃないだろうか?しかも…


「獣人に頼るなど…」

「本国に知られれば何と言われるか…」

「我が国の恥ですぞ…」


 ちらほらこのような言葉まで聞こえる。俺の耳はこいつら猿人族より遥かにいいからひそひそ声で話していても全て聞こえるのが理解できてないのか?

 大体…貴様らが出ないから俺が出ることになってんだろうが…臆病者どもは黙っていろって話だ…

 後…こんな状況までそんなことに拘っている奴らが俺の命令に従うんかねぇ…


「一応考えがあると言えばあるが…それも相手に依るしな…連勝で気が緩む程度の相手が来れば…」


(誰もが無視できない大功になる…もしくはそのまま勢いに乗れれば城塞都市ルノティスまで落とせるかもな…)


 そんなことを思いながら俺は外に出た。



















「…なぁ…何かの罠かと思うほど順調に行ってるんだが…どういう事だろうな…?」

「…幸運補正じゃね?」


 現在、無能貴族が治めているレノウの町に進軍中だ。最初1500だった俺の軍に200くらいの兵が連続して正面を切って挑んできたりして足止めを食ったが、全て叩き潰してきた。


(…兵を小出しにする意味が分からん…館とはいえそれなりに防衛拠点として役に立つ所に籠城しておけば兵の損害も少なく、単純兵力差も考えて負けるはずはないのに無駄に兵を死なせているのはどういう…?)


 考えられるのは足止め。


 何らかの時間がかかる罠を考えている場合。


 この世界には魔法がある。一つ一つの魔法は弱く、松田や姫様ほど強力な魔法を使える人間はいない。

 そんな強力と言える魔法でさえ、個人で相手に出来るのは精々200と言ったところ。しかし、それを変えるものもある。


 【集合魔法】だ。


 複数の魔法使いが合成して放つ物で、その威力は魔法使いの質と量によって変わる。


 スゥド国の本体であればそれを使って俺らを全滅させることは可能だろう。


 …だが、この線はない。そんな過剰兵力がここにあればニード山脈以北はすでにスゥド国のものになっているだろう。


 となると…


「伏兵の準備か…?」

「ん?一回進軍の手を緩めるのか?」

「…あぁ。」


 ここからレノウの町までには一応気を付ける必要がある場所…森林がある。

 そこの木々は丈夫で加工がしやすいレノウの町の特産品で、足止め兵たちの装備もその木でできている物が多かった。

 そしてそれは近くの城塞都市ルノティスの穀物とよく交易がなされていたモノでもある。そこに兵を伏せるとなると…


「フム…城塞都市ルノティスからレノウまで距離があまりないからな…時間稼ぎは必要だっただろう…」


 無能貴族は馬鹿っぽいが、初期時点で野心家の人物に任せていれば伏兵を考えていそうなものだ。

 ある程度損害が加わって混乱していればまだ出来たばかりのこの軍は壊滅的な被害を受けるだろうからな…


 まぁ、大体みんな農民だから秩序だって動けなくても仕方ない。難なく勝てばいいのだ。


「松田、斥候を放つぞ。行軍を止めて休憩にする。」

「あいよ。『全軍小休止に入る!』」


 松田が便利な魔法を使って全軍に指示を出す。伝令系統がまだ上手くできておらず、直々に声を届けないと命令が行くのが遅いので敵に聞こえるかもしれないがこの手段となっている。


(…もっと訓練したいなぁ…)


 今この軍が覚えているのは魚鱗の陣と鶴翼の陣…のみ。これでも短い時間の中で頑張った方だと思う。

 変化が遅いし、この陣形を取る意味も分かってないけど…出来ないよりマシだ。


「雁行やら鋒矢やら双頭、方円に包囲…出来れば陣形を言わずに俺がいいなと思う陣形17種は即興で出来るようになればいいなぁ…」


 名前がない奴もある。個人的に【嵌め殺しの陣】と呼んでる。


「…ま、実際は戦は水物。最初の陣形も乱戦状態なら次々変えていかないとだねぇ…」

「ん~…この件に関しちゃ俺は疎いからなぁ…戦争ものに幼女って基本ないし…出てたら出てたで危ないことしないでほしいからあんまり見たくないしなぁ…」


 和やかに戦争談義をしていると斥候が帰って来た。…が、森林方面に行ったはずの斥候が帰って来ない。


「…決まりだな。」


 殺されたか捕まった。もしくは交戦中か、逃避中…色々考えられるが、何らかのトラブルがあったことは間違いないだろう。


「元レノウの兵にて森に近付かない道を案内させて迂回してレノウに行くか。」

「えっ?森にいる奴らはどうするんだ?近付かないなら…全部・・燃やす?」


 …まぁ戦争ものって火計のイメージ強いからその発想は分からんでもないし、実際相手が森の中にいる状態で火計って相当するのにもの凄い楽だが…


「…特産全部・・燃やした後の町を侵略して何を得るつもりだお前は…」

「あ~そっか…」


 戦争の後のことを考えると安易に燃やせない。町の特産品が消滅することになるのだから…こちらが圧倒的に有利な状況にあるので出来れば特産ごとそっくりいただきたい。

 …まぁ、兵力差で負けてたり、練度が低過ぎたりしてれば不確定要素を潰すため完全に燃やしてたが…確か香木の産地でもあったし燃やせば良い匂いがするんじゃないかな?それでその匂いが館に届いて…って、そんなことはしない。


「まぁいいや。進軍の命令出して。」

「あいよ~」


 俺は妄想を打ち切った。単純兵力でおそらくこちらが倍近く。迂回されたと気付いた場合の敵は慌てて出て来て挟撃に走るかな?まぁ、させないけどね。

 俺は砦戦の時に味方に付けた領主…名前忘れた…に20名ほど連れて隊列を離れさせた。

 そしてそのまま進軍する。周りのスピードに合わせた行軍なので俺らは息を切らすこともなく話したりする。


「…どれくらいの兵を外に出してるかだよなぁ…」

「ん~どうだったら不味いんだ?」


 松田の言葉に俺は少し考えて最悪の想定を行う。


「籠城の兵が多い場合だな…外が俺らの勢いを挫くためだけの小勢…大体200名だと不味い。お前には300名預けて後ろに備えてもらうつもりだが…」


 松田は強力な魔術師だ。それにつける300名は城塞都市ルノティスで警護に当たっていた根っからの戦闘役。白兵戦であれば相手が1000人の農民兵でも負けないだろう。これで俺の足止めの策が万一失敗しても対処は出来る。


 そして俺が農民兵を連れて攻め込むのは館。城であれば兵力差10倍は必要と言われているが、所詮、館。防御施設と言えば堀や塹壕、柵に櫓が2つ位しかない。少し町の小高い場所にあるお屋敷だ。ルノティスのように城壁があるわけでもない。

 …防衛する気がないだろお前らと思うのは俺だけだろうか?


「…ってか、今更言うけどさぁ…何でそんなにやる気ないんだぁ…?いや、こっちは助かったけどよぉ…城だったら火計は避けられなかったし…」


 そして最悪の想定の結果でも、損害は大きいが負けることはないと出た。レノウの投降兵が偽りでも問題が無いように兵を配置しているから問題はないだろう。


「…まぁ、ここで兵が思ってたより減ると後々厳しくなるから出来るだけ楽したいなぁ…」


 そんなことを考えながら俺は進軍をして行った。




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