まさか同僚のスキルに頼るとは…
「てっめぇ!あれほど真面目に考えろっつったよな!」
「失敬な!至極真面目だ!」
「テメェ…ここは安全な世界じゃねぇんだぞ!?死んだらどうするつもりだ!?」
俺たちは草原に飛ばされるや否や口論になっていた。当然だろう。こっちの世界は安全とは言い難いものだし、何があるのか分からないのだ。…まぁ俺の能力も突っ込まれれば困るといえば困るが…少なくとも幼女を集めるスキルよりは役立つと思う。
「それに何か体は丈夫になってるし、魔法の使い方も覚えてるからいいじゃねぇか。」
「それは結果論だろ!まったく…あの人が気を使ってくれなかったら俺ら死んでるからな…?」
「もう死んだこともあるしいいじゃねぇか。」
「よくねぇよ!お前はすぐ死んだから知らないだろうが死ぬって滅茶苦茶痛いんだからな!?」
「まぁ死ぬほど痛いっていうくらいだしな。」
のほほんと言ってのける松田。あれ洒落にならない位痛いんだからな!?洒落を言ってる場合じゃ…あ、何か俺も言ってる…
「それにお前ん所でやってる何だっけ?何とか古武術…アレあるし大丈夫だろ。」
「…あんなの年がら年中戦争やってる人に通じるわけないだろ。」
「今の身体能力ならいけるって!」
一々楽観的過ぎるんだよな…それにお前見よう見真似で俺ん家の武術の真似してるけどボクシングの方が強いじゃん…アマチュア県大会優勝者…
「…それにしても…ここはどこだ…?」
もうこれ以上言っても無駄なので俺は辺りを見渡してみる。見渡す限りの草原に道はない。あの女性が埋め込んでくれたこの世界の知識によるとクリーク王国のヴィーゼって所らしいけど…
「地名が分かったからって行き先が分かるわけじゃねぇ…」
おそらくこのアホの能力を入れたせいで時間いっぱいになっていたのだろう。周りの国々や制度が分かってもここがどこだかわからなければ意味がない。
「なぁ!早く行こうぜ!」
「…どこにだよ…」
「こっちだ!俺の能力…なんだっけ?とりあえず選択肢に出た!幼女はこっちだってな!」
走り出す松田。…人がいるならその先に町か村があるだろう。まさかこんな形でこいつの能力に助けられるとは…何か屈辱だ…
そんなことを思いながら俺は松田について走り出した。
松田が走って行く方の前方には草原をを横断する石造りの道があったが、それよりも気になるものがあった。俺は走りながら松田に思ったことを言ってみる。
「…とりあえず…馬車が襲われてるな。」
「あの中に幼女が!待ってろ!」
「ちょ…おいっ!」
馬鹿は俺の言葉を待っていたかのように全力で走り始めた。行ってどうにかできるわけでもないだろうに…殺されるぞ!?そう思うも見殺すのは寝覚めが悪いと俺も走っていた。その時、俺は違和感に気付くが目の前にはすでに屈強な男の顔が!
「うおっ!『古仙式:捩り貫手』!」
反射的に指を曲げて相手の人中、喉、鳩尾を回転を加えて思いっきり突いた。男は物も言わずにその場に崩れ落ちる。その時俺の手に嫌な感触がした。
(…喉の時相手の体の内部にめり込んだ感じが…死んでないよな…)
だが、そんなことを悠長に考えている暇はなさそうだ。松田が人を殴り飛ばして…人が宙を舞ってる!っとうわっ!
「こんのっ!『古仙式:地獄刺し蹴り』!」
近づいてきた男の勢いを引いて殺しつつその所為で体勢が崩れて低いところにある顔を捕まえて膝を入れまくる。…また嫌な感じが…骨が砕ける…あぁもう!
「正当防衛だからなー…正当防っ『古仙式:崩し手斧』!」
襲ってくる男の首にハンドアックスを振り下ろす。だが今度は首の筋肉で打撃の衝撃が通じなかったようだ。男はよろけたもののそのまま低い状態で俺に双手刈りを敢行してきた。
「…?弱い…『古仙式:逆噛狼牙』…」
俺は思ったより弱いインパクトを足を縦に広げることで受けて、狙いが外れて右肩だけ俺の左足に突撃する形になった男の首に右膝と左肘を同時に叩き込んで男を昏倒させた。これで元気にしている襲撃者は全部のようだ。
「…こりゃ弱いな…素人か…?」
俺が倒れている男たちを見下ろしていると馬車の方から奇声が上がった。
「おおおおお…おいっ!平塚!来てみろ!女神様はここに居らっしゃったぞ!」
奇声の発生源が興奮してこちらに走って来た。…規制対象にならないかね。ってはっ!また下らんことを…やっぱり疲れてるんだ俺。ゆっくりしないと…
「いいから来いって!」
「引っ張らなくても行くよ…」
俺は大人しく馬車の方に向かう。近くでは御者が切り殺されていた。そして馬車の中には幼女が5~6人いた。
「…お前の能力凄いな…何でこんな馬車がこんな所通ってるんだ…?」
「…控えなさい。私はクリーク王国第4王女フロワ・ミゼリコルド・クリークよ?」
その中で本気で人形の様に美しい幼女が俺たちに向かって傲然と言い放った。
「おい!幼女王女様来たぞこれ!」
何やら興奮しているのか落ち込んでるのか分からないが微妙にハイテンションの松田が俺にそう言ってくる。俺は一応反応してやることにして、この後のことについて伝えることにした。
「…語感悪いな。まぁいい。厄介なことになる前に退散した方がいいと思うぞ。」
「え~お前が言いたいことも分かるけどよぉ…こんなに可愛いんだぜぇ?もうちょっと話をして行こうぜ?」
「するならどうぞ。俺は街を目指す。」
俺は石造りの道を歩いて行けばどこかには通じるだろうと思いこの考えなしのアホを置いて行こうとする。が、それは流石に松田も何かを感じとり俺の方に付いて来た。
「…いいのか?」
「まぁ…王国って企業みたいなもんだろ…?大きな企業はねぇ…」
俺の確認に松田も苦笑いだ。どうやらこいつは幼女より現実を取ったようだ。よかった。学習能力はあったか。
そんなことを思いながら道形に進んでいこうとすると後ろから呼び止められた。
「…そこの。私たちは今とても困ってるのよ?この国にいる者なのに何故助けないの?」
俺はその言葉を聞いてどんな顔をしていただろう。とりあえず松田は苦虫を噛み潰した顔をしていた。
(…あー…この上から目線での命令形…異世界でも味わわねぇといけねぇのか…?)
「…いかんなぁ…美幼女様からの頼みは何でも聞かないといけないんだけど…どうもこの女神様はクソ上司と雰囲気が被る…」
松田も俺と同じことを思ったようだ。俺らは黙って歩を進める。だがそんな俺らの目の前に誰かが土下座して道を塞いだ。馬車で見たと思われるとても幼い少女だ。
「お…お願いします…王女様をお連れして差し上げて頂きませんか…?」
「「うっ…」」
この娘の状態は俺たちの胸に突き刺さる。…上司の失敗を擦り付けられて残業した記憶や、上司だけが喋っていて何も言ってないのに失敗した責任をとって提携先の企業に頭を下げに行った記憶がもの凄いスピードで頭の中を駆け巡った。その中でもこの娘が浮かべている表情は追い詰められている時の顔。
責任をとらされるときにいつも隣にいた松田が浮かべていた…おそらく自分も追い詰められた時にこんな顔をしていたんだろう。無理とわかっていてもやらざるを得ない。そんな顔だ。こんなに小さい頃からこの表情をするとは…俺たちは気付けば顔を見合わせていた。思いは同じようだ。
「護衛をしよう…だから落ち着いてね…上司が嫌な奴だと大変だね…」
俺は生暖かい目を向けていた。あぁ…あの時の俺は誰も助けてくれなかったけど君は今回に限り助けるよ…上司で苦労してた同士の好だ…
俺は慰めているのか口説いているのか分からない松田を尻目に何となく空を見上げていた。夕焼けが綺麗だなぁ…