戦後処理だ…
結構簡単に落ちた。最悪城内に逃がした農民の一部にはクリーク王国の領民がいて伏命で領民に交じって戦になったら不安で何かしら暴発の行動を扇動しておくように言ったが、そんなことにならなくて幸いだ。
「さて…ここまで落としたが、問題が起きたなぁ…」
俺は今クリーク王の書簡を貰って開封するちょっと前にいる。隣には松田とディアがいる。ファムは隠密でクリーク王国から帰って来たばかりで疲れて眠っている。
「…あの高性能ウサ耳の情報によれば帰れば宴らしいが…あれも嘘だったらどうするか…」
「奴隷は嘘つけないようになってるって…」
先程からずっと楽観的な考えを言ってくる松田。俺の不安を苦笑で済ませている。
「ほんっともう腹の探り合いは嫌いなんだよなぁ…」
個人的な偏見に基づいて言うと、俺は王国やら武家社会、貴族制度における古参連中や偉い人が嫌いだ。
歴史上の武功を上げた人物の何人が謂れのない罪で死んだことか…特に佞臣が大っ嫌いだ。多分居れば殺すかもしれない。秦檜ぃぃいいいいいっ!よくも岳飛将軍をぉおおおおっ!
…話が逸れた。だが、南宋の歴史を鑑みるとそれで長く続いた太平の世界が…って納得いくかぁっ!
…また話が逸れた。
「はぁ…行きたくねぇなぁ…」
「そう言ってても無駄だっての…とりあえず宴の準備が行われてるってのとそれがお前さんの為って情報はあるけどその招待状かどうかわかんないんだから開けろよ。」
仕方がないので開ける。中身は予想通り招待状だった。
「あーあー…無駄遣いなことで…」
「もっとテンション上げてこうぜ?」
「無理だろ…大体今ここから俺がいなくなればスゥドが逆転攻撃仕掛けてくるかもしれないんだし…」
そう。これだけ簡単に落ちた城塞都市だが、実は兵力が結構あった。クリークとの戦争が起こるとした場合の防衛の要だったということで、駐屯していた兵の数は何と700人。
無理に攻城戦してたら終ってた。…が、まぁ魔法で何とかできたかもしれないらしい(楽観派代表:松田談)。
(…ん~これを無傷で手に入れたのはでかい。みすみす手放すなんてことは出来ん…が、連れて帰ると攻める気か?とか言われそうだし…)
「ここに兵を置いて行けないんだよなぁ…」
(流石にこの都市の領主は裏切らないだろう。2転3転するようなら信用ならないってことで別の場所に飛ばされるか最悪処刑だろうし…問題は兵。こっちは恩賞の問題で…あぁでも行かないといけないしなぁ…)
もの凄い憂鬱だ。クリーク王国は侵略戦の経験が乏しい。何となく地元の豪農たちが集まって、防衛を細々として周りの国の脅威から自衛を図って、どんどん大きくなったのが国の基だ。
そんな感じで、防衛戦しかしたことがない。
防衛戦では勝った後そこで何しても元から領土内で、相手も負けたばかりだから攻めて来れない為宴でも問題ないが、この規模の侵略戦はそうはいかない。相手は取り返そうとするのが普通だし、戦力はそこにある。宴なんぞその場で、1晩くらいでやるものだ。
まだ戦いは始まったばかりなのだから。
「はぁぁ…戦後処理…徹夜でやって…3日3晩宴会…嫌だぁぁぁぁっ!」
「どう考えてもプラス収支何だからいいじゃん適当で。」
「略奪が本当になかったか、不正が行われた形跡はないか。それを戦争だからとか言う話で済ませたくねぇ…大体この程度なら頑張れば何とかなるし…」
『こことここ。後、ここ2マスが違うよ。』
突然聞こえたディアの声に俺ははっとする。まさか…幸運補正様…
俺はディアに駆け寄ると持っている書類を見て笑顔になり、幸運補正様に跪いた。
「事務処理チートキター!」
『え?何?間違ってたかな…この前ご主人様がやってたのを真似したんだけど…何枚かの書類を見て数字が違ったらダメなんだよね?』
『合ってる。超合ってる。ディアお前は最高だ。』
最高だ。ハハハハハハハハ…この戦勝てる!俺はディアを撫でまわした。
『え?えへへへ…ディア頑張るね?』
『超頑張ってくれ!』
『うん!』
結果、5時間で終わった。何か松田が相棒ポジションはこの俺だとか言って本気を出したら凄かった。俺だけ鈍間だった。よくよく考えれば専門職で経理はしたことなかったが、2歳児に負けて悔しかった。
『ディア~お前最高!』
『えへへへへ~』
まぁそれでも助かったし、俺が楽できるから嬉しい。ディアも俺に褒められるのは満更でもなさそうだ。
自室に戻った俺たちは風呂に入って(途中で寝落ちする可能性があったから一緒に入った。疚しさはない。…ないって。ないってば!)ベッドに腰掛けた。
『ディアもっともぉっと頑張って魔法も覚えるからね!』
『そうか~』
とにかく何でもいいや。寝れるという事実が嬉しい。
『それでね!ディアが…ね…』
急に電源が切れ始めるディア。ぶっ続け作業あるあるだ。ずっと同じことをしてるとある時急にハイになったりするが、気が緩むと急に眠くなる。別タイプの人もいるだろうが、俺はこれだった。ディアは初仕事。こうなるのは当然だ。
『あの人をね…越してね…』
途切れ途切れになるディアの言葉を聞き流しつつ、毛布を探す。あの人が誰か分からないが…よっと。
『ディアが…並ぶの…横…』
行列の話?割り込みはダメだから教えておかないとな…
俺が毛布を掛けるとそのままディアは寝入った。俺も疲れたのでいつの間にかその横で寝てしまった。