戦争だけど…
(…舐めてるのかこれは…)
とりあえず戦場に到着した俺が最初に持った感想はこれだった。因みにこちらの軍勢は300人。装備は今一だが数の上では敵方を上回っている。
「…劣勢ね。」
真剣な顔で幼女様は櫓の上から戦闘場所を見る。横に長い戦いの風景。物資が奥の方に軽い警備兵のみで無造作に残されているのが見える。異世界補正だろうか。
「…あぁぁああぁぁあぁあぁっ!」
俺は身悶えを始めた。そんな俺を幼女様が不安げに見る。
「…戦は初めてなのか?ヒラツカ…」
「だぁっ!」
お前らの方が初心者じゃねぇのか!?とキレた俺はもう黙っていられなかった。
「何で横一列で戦ってんだよ!馬鹿か!?後ろから奇襲掛ければ大混乱だろうが!」
「え…いや…どうせ闘うなら一気に闘うのが…常識で…」
「後敵兵!何でこんな前線に物資を持って来てるんだ!?死にたいのか?」
「その…そろそろ昼食時だから…」
「兵を下げろよ!何で物資を前に出すんだよ!話にならん!おいフロワ様兵貸してくれ。50でいい。完膚なきまでに叩き潰してくれる…」
幼女様は何だか微妙な顔をしていたが俺に任せると兵を貸してくれた。松田がやれやれと言った顔で付き従う。
「お前、副将な。」
「…戦争なんかやった事ねぇよ…まぁやるが…」
「まずは敵の物資から奪おう。見えるところにあるのに何で攻めないんだ馬鹿か?」
俺は農民兵を伴って敵の側面を通って敵陣に入り込んだ。闘っている敵兵200は目の前の兵と闘っているので手一杯のようで抵抗が殆どなく、逆に罠なんじゃないかと思えるほど楽に通ることができた。
「…こんなにあっさり行っていいのか?」
見張りは欠伸なんかしてたので思わず手加減なしの裏拳を入れてしまった。下手をすると死んでいる。
「砦が近いから異変を感じたらすぐに出撃してくるだろ。…何で物資を出してるんだアホか!?」
物資に近付いてから薄ぼんやりと遥か後方に見えるようになった砦を見て何気なく俺はそう言った。その途中で我に返って何故砦の中に物資を入れていないのか全然意味が分からなかった。
普通なら罠を考えるところだが、距離があるのと、あの陣形を見て罠を考えるほど上等な敵ではないと判断。しかし、砦から兵が出て来ると困るので奪うということは実行できそうにない。
「…燃やすか。松田。燃やせる?」
「いけるぞ。【ルイス】!」
時間もないのでてっとり早く燃やすことにした。
何だかよく分からない言葉を松田が叫ぶと火球が勢いよく飛んでいき、物資を燃やし始めた。
「おぉ…」
「魔法だ…あれほど強力なものは初めて見た…」
後ろの農民兵がざわつく。松田の魔法は凄いらしい。
それはさて置き、前線の敵兵たちが今更ながら異変に気付いた。
「おっそいわぁ!」
俺は何故か逆切れして農民兵を連れて後ろから攻め込む。横一列のスゥド軍は挟撃されてひとたまりもなくどちらを相手取るか迷った敵からどんどん壊滅していく。
「降伏しろ!」
俺は本気で攻め入る前にそう叫んだ。
「あ、ごめんもう一回言って【スウェル】」
「…降伏しろ!」
今度は天から響き渡るような大声が出て敵兵はすぐに平伏した。隣では松田がぶつぶつ何か言っている。
「フム…やはり広義解釈は行われるみたいだな…太陽の様に辺り一面に届かせろと念じたら出来たし…」
俺は降伏した敵を見て少し考えた。
(…農民兵…敵の将軍はいないのか?…もしかして砦の中か…それに数も少ない。精々100はいってないだろ。…いや、死んだ奴らを合わせて大体100って所か。…死人少なっ!)
「…あぁ成程。敵将軍は嫌な奴で農民を捨て駒にして戦った名目を作った訳だな。」
俺は少しばかり理解してかなり腹が立った。
「良いぜそっちがその気なら砦ごと落としてやろうじゃないか…」
俺は手勢42名(一人通り抜けるときに死んだ他は負傷)と負傷等の無い元スゥド農民兵52名を連れて敵陣に向かうことにした。
「…さて、服すら統一されてないこの状況いかがなものか…」
俺はそう呟いて農民兵のリーダーっぽい奴は誰か訊いてみた。すると罰として殺されると思ったのか周りがすぐに教えてくれて、当人がびくびくしながら出て来た。
「こ、殺さねぇでくだせぇ…」
「あぁ殺さん。だが役には立ってもらうぞ?」
何だか役に入って来た平塚は尊大にそう言って次から始めることの説明を行った。
「も…申し訳ねぇです…」
オラはファンテ。一応スゥド国の騎士だけど、貧乏で殆ど農民と変わらない生活をしてきたんだ。
けれども今回の戦争では父さまが農作業のぎっくり腰で代わりに戦争に出ることになったんだ。
向こうの人たちも戦争なんてしたくない。んだから手を抜いて戦ってくれるし、中央から派遣される貴族様はオラたちを相手にしてくれないからそうそう問題はないって聞いて安心してただ。
でも、今回は違ったみてぇだ。よく分からん人がオラたちの飯に火ぃつけるし、本気で死ぬかと思っただ。
それで今…
「それでも我が栄誉あるスゥド王国の民なのか!?何故一人残らず討ち死に覚悟で闘わなかった!」
貴族様に怒られてるだ。後ろには嘘をついていないかどうか確かめると名乗り出た子もいるだ。その子は今…
「む?貴様…何が可笑しい?」
「いやぁ…自分は戦ってないのによくそんなに偉そうなこと言ってるな…って思ってな。」
笑ってるだ。軽く女の子と間違えそうなその外見には不釣り合いな邪悪な笑み。オラ思わず震えただ。
「俺そういうのが本っ当にムカつくんでね…【古仙式・悶虐陣】」
その子は一瞬ぶれると貴族様は全身の力を抜いて椅子にだらしなくお座りになられただ。
「…ふぅ。」
そして隣の子は呼び鈴を鳴らして人を呼んだだ。
「…おや?」
「お館様は酔われて就寝なされた。私がベッドへ運びます。…それと、燃やされた糧秣の搬入を行うから門を開くようにとの指示です。」
「分かりました…」
来た人は何の疑いもなく実行に移しただ。貴族様が酔ってそのまま寝ることはよく会ったし…指示をいきなり思いついて実行するのも良くしていたとこの子に言ってからこの子は笑いをあまり止めなかっただ。
「…本気でここまで来てしまった…馬鹿ばっかりか…」
この後、門が開けられると壮健な顔立ちの松田様が砦に攻め込み、砦は大混乱。指揮官が死亡していたこともあり、砦はすぐに落ちただ。
ここまでありがとうございます。
一応言っておきますが、これは一応戦記です。最初の地方での戦いは比較的楽なのが多いですが、大国を相手にするときはちゃんとした軍略を使える敵がいますのでご安心を。