10
灯りをおさえた部屋の中で、向き合う二人はどちらも衣服を身につけていない。
衣装は抜け殻のように、寝台の下にわだかまっている。
「最後までしないから、抱きしめてもいいか」などとランドに請われ、ナギはとうとう根負けして頷いた。
ランドの腕の中は気持ちいいけれど、この間のように体が強張るかもしれない。
そう言っても、嫌ならすぐやめるからとも言われた。
抱きしめられるのは嫌じゃない、むしろ気持ちいいけれど。
「……私が嫌だって言ったら、止めて下さいね? 」
もちろんだとランドは言った。
そうして、ナギの見つめる前でランドは衣服を脱ぎ捨てる。
細身に見えるが、引き締まった体は滑らかな筋肉に覆われ、瑞々しい。
直視することもできず、ナギは所在なく寝台に座っていた。
するとランドは低く笑いながらナギを抱きよせ、指で払い露わにした額に唇を寄せた。
その余裕のある素振りがナギには面白くない。
「ほんとに可愛くなくなりましたよね。ちっちゃい頃はあんなに可愛らしかったのに」
ナギの額に、頬に口づけを落としながら、ランドは彼女の衣裳を一枚一枚脱がしてゆく。緊張を紛らわせるために、ナギはそんな軽口をたたいた。
「俺を可愛いなんぞと言ったのは、後にも先にもお前だけだ」
そして最後の一枚を床に投げだし、一糸まとわぬ姿になったナギを、そっと抱きしめる。
寝台の上で向き合い、ランドは彼女の裸身を見おろした。
細い、まるで少女のような未成熟な体。乱暴に扱えば壊れてしまいそうだと思った。そして何より。
「……あまり、見ないで下さいな」
ナギは俯いて視線をそらす。ランドはナギの腕を引き、胡坐をかいた己の膝の上に抱きあげた。横座りになったナギは、ランドの首に腕を回して体を支える。
「こうすればあまり見えないぞ。どうだ?」
「……何だかとても恥ずかしいです。ひゃっ、どこ触ってるんですかっ」
背中を辿っていた大きな手が、いつの間にか胸をやんわり揉んでいた。もう片方の腕はナギの体を支えながら触れる事が出来る範囲の肌を撫でている。
背中に傷があるナギのために、座ったままランドは彼女の肌を辿っている。
滑らかな背中、薄い胸、浮き出た鎖骨の辺りを指で触れ、また唇で触れた。
彼女から拒絶の声が上がらないのをいいことに、薄い胸をやわやわと揉みしだいた。
「どうだ? 気持ち、よくないか?」
「そんなのっ、わかりませんっ」
つんと尖ってきた胸の先を摘むと、一段と高い声が上がる。
それに気をよくして片方は指で捏ねまわし片方は舌で舐めると、彼女はますます高い声をあげた。
喘ぐ唇を己の唇でふさぎ、呼吸すら奪うように深く深く口づける。
どくどくと煩いくらい鳴るのは己の心臓かそれとも彼女の心臓か、区別がつかなかった。
ナギを腕に抱き込んだまま、ランドは寝台に横になっていた。
互いに何も身につけていないが、触れあう体がとても温かく、彼女は今にも眠りに落ちそうだった。腕に抱いた愛しい存在故、ランドは眠れそうにないというのに。
触れられる手に、心地よさげな反応を返していたナギだったが、ランドの手が下肢に伸び、膝を割ろうとした途端体を強張らせた。
怯えたように体を震わせ始めたナギを宥めるように口づけ、もうこれ以上しないからと背中を撫でる。
ナギの体を寝台に横たえ、寝具をかけてやったあと、ランドは身の始末のために浴室へと向かったのだった。
戻ってくるとナギは寝具の中で丸くなっていた。横に滑り込み体を抱き寄せると、ナギはすんなりと腕の中に収まってくれる。
「……ごめんなさい」
小さな声に、ランドは謝るなと答えた。
「少しずつでいいさ。こうして鏡ごしじゃなく、お前に触れられる。それだけでも俺は嬉しいんだから」
それも本当のことだった。
幼い頃からずっと大事にしてきた人、けして触れられぬと思っていた人を腕に抱いていられる。
ランドが本心から答えると、ナギはぽつりぽつりと話し始めた。
「この傷を負って……死にかけていたところを拾ってもらったんです。あなたのご先祖さまに。もう随分と昔の話ですけれど、ね」
背中には幾つも残る白い傷跡。胸の下からは臍の辺りまでを縦に走る引き攣れた傷跡。
腹を裂かれたようなそれに、見ている方が辛くなる。
「あまりに酷い傷だったから、助からないだろうと思っていたそうですよ。でも、私こう見えてしぶといので。命は取り留めました。まだあの城は建てている途中でしたね……」
「そいつが、初めの契約の相手?」
「そうですよ。貴方から見ると……何代前の王になりますかね」
「そんなの、どうでもいい。傷跡、消せないのか?」
彼女を縛るような契約をした先祖の話など聞きたくはない。ランドは気になっていたことを尋ねた。
薬師でもある彼女なら、傷跡を消す方法も知っているのではないかと思ったからだった。
「消せますけどね……残しているんですよ。私の愚かさを忘れないようにするために」
彼女の言葉に引っかかりを覚えたものの、今問いただすことではないだろうとランドは思った。
そしていつか傷跡を消して欲しいと思いながら、彼女の額に唇を落とす。
「こうして抱きしめているから。もう眠れ。明日から忙しい上に戦いになるぞ」
覚悟しておけよとランドが言うと、ええ、そうですねとナギは答えた。
半分眠りに落ちながら、彼女は言った。
「あなたに抱きしめられるのは、とても安心します……」
言葉の後半は寝息に取って代わられた。
ランドは、安心してくれるのは有り難いが、あまりに無防備なのは、それはそれで悲しいものがあるなと苦笑して。
愛しい、温かな体を腕に抱き、眠りについたのだった。
明日からは上を下への騒動が待ち構えている。
それでも、二人でならば……味方がいるなら乗り越えてゆけると信じて。




