三十八章 赤き舞
グギャアアアアッッッッッ……!!!
絶体絶命の次の瞬間、屍の巨人が突然苦しみ始めた。退いた腕が天を仰ぎ、鮮やかな緋の光に包まれる―――飛来する数羽の鳥の炎が引火して。
「な……これは、一体……ぐはっ!」
胸を押さえて蹲り、込み上げてきた生命の証を吐いた。肺からの出血はどす黒く、いよいよ危ない。
振り返ると皆が教会を見上げていた。痛みを堪えつつ視線を向けて、信じられない光景に目を見開いた。
「“炎の……魔女”?」
「えっ……!?」
恐怖に閉ざされていた瞼が開き、黒く澄んだ瞳で屋根に立つ母親を捉えた。
炎纏う長斧を構え、彼女は空いた左腕を優雅に回して新たに数十羽の下僕を召喚する。―――何て綺麗な女だ。
「あれが……“炎の、魔女”」
「かあさま……?」
進行方向を大きく変えた怪物達へ炎の群れが一直線に飛ぶ。死肉の塊共は脂が乗っているせいか良く燃え、苦悶の断末魔を上げながらブスブス……次々と黒煙を立ち昇らせた。
「ウィルネスト」
名前を呼ばれ驚く。
「こいつ等は私が始末しておくわ。あなたはまーくんを連れてこの星を出なさい」
「え?」何、だって……?
「リュネ。あなたの船で彼等を送ってあげて」
「はい。ですが宜しいのですか?」意外な命令に、冷静な研究者も思わず訊き返す。
「私も同意見です、王よ。十把一絡げの下賎共はともかく、坊ちゃまは」
「いいの」
彼女は半分の背丈になった息子を食い入るように見つめた。ツーッ……目尻から一筋伝う光る物。
「まーくん……こんな怖いお母さんの事は早く忘れるのよ……?折角生き返ったんだもの。いつも笑顔で楽しく、ね」
「かあさま!あなたは……!」
伸ばした母子の指が、数メートルの空気越しに交差する。が、次の瞬間、
「あぁ……駄目、早く行って!」不死王は右腕を押さえ絶叫した。「ウィルネスト!お願い……また狂ってしまう前に、私の視界から逃げて!!」
額から冷汗を流し、赤い髪を振り乱して頬を紅潮させる。余りの切羽詰った様子に、俺は呆気に取られつつ黙って従うしかなかった。
「行こう、まーくん」
「離して!かあさま!今のは一体どう言う意味ですか!?」
抱き抱えた誠が発した問いにも、苦しいのか母親はキツく唇を噤んだままだ。まるで一言でも発したら最後だと言わんばかりに。
「こっちよ」
リュネに先導され、俺達はメインストリートから研究所へ。途中、俺は一度だけ教会の方を振り返った。“炎の魔女”は同じ場所でたった一人、機械的に異形共を殲滅している。弟念願の魔術機械船に乗り込む間も、ずっと一人で……。




