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三十七章 亡者の森の襲撃



 教会前広場へ駆け込んで来た美希さんとリュネさんは、大急いで両手一杯に抱えた銃を不死族の大人達へ配り始めた。

「一体どうしたんだ二人共?その武器は?」

「ジュリト!“黒の森”の怪物達が大挙して押し寄せて来ているわ!時間が無いの!戦えない者達を教会へ避難させて!!」

「!!?そうか、損傷で結界が一時的に……分かりました。総員、教会を中心に散開!“森”の奴等を迎え撃ちます!!」

 神父さんは私達に向き直り、何をしているのです六種共!早く坊ちゃまを中へ運んで下さい!命令する。

「ちょっと待ってくれ!“黒の森”の連中がここへ来るのか?何で突然」

「“黒の都”は結界で守られていたんです。彼等の嫌う“黒の燐光”の力を増幅させる魔術機械装置が、地面のあちこちに埋められていて」

 !!?“燐光”の力?まさかさっきので、

「仮令坊ちゃまが不在時でも問題無く作動する結界ですが、“燐光”そのものの機能低下の影響は免れません。以前類似の事故が起こった百年前は―――都が半壊し、多数の死傷者が出ました」

「そんな……」

 余程でない限り訪れない一族の死にショックを受ける私に、研究所所長は首を小さく横へ振った。

「あなたのせいではありません。お優しい坊ちゃまはただ小鳥を、『闇鷹』の雛を救おうと手を伸ばしただけです。尤も奴等は愚かにも慈悲の手を喰い千切り、墜落させた訳ですが……全く、小賢しい知恵の回る化物共が」

 フッ、脳裏をある光景が過ぎる。


―――城の食堂、その窓の外。壁の僅かな出っ張りでピィッピィ……黒い小鳥が助けを求めて鳴いていた。まだ翼も広げられないのに、親鳥は見える範囲にいない。

『どうしよう……かあさまもワームレイもお外に行っているし……ううん』

 昔の私は硬い錠を開け、躊躇いも無く腕を伸ばす。もうすぐ……後数センチで届く。タオルで小さな身体を温め、ミルクをあげられる。

『怖がらないで』


 バシュッ!


『え……?』

 握り拳大だった雛は一瞬で数倍に膨張し、嘴を大きく広げて私の右手首を一呑みにした。『あ!』気付いた時にはもう遅い。乗り出し過ぎた身体はバランスを崩し、捻られながら地面へ―――。


「っ!?」

 今のは、燐さん?あなたが見せたの?

「まぁな。これで昔からおっちょこちょいのお人好しだって分かっただろ?」

 頭の中で響いた声に反応し、“泥崩”の残滓の紋様を刻んだエルがこちらを向く。

「『闇鷹』は所詮雑魚だ。“黒の森”にはもっととんでもねえのがゴロゴロいやがる―――そら、おいでなすったぞ」

 幻影が常夜の天を指差した。




「な、何、あれ……!?」


 さっきの巨大化した雛の数倍。体長二メートル以上ある鳥が頭上を飛んでいる。その数、数百羽。

「お、おい!あれが『闇鷹』なのか!?」

「ほー、大きいね。鳥類なら世界最大級かな?」

「暢気に言っている場合か!奴等、こちらへ降りて来るぞ!!」

「坊ちゃま、早く!!」

 リュネさんが雷銃を急降下する怪鳥達に構え、発射。一瞬辺りが昼のように明るくなり、撃たれた『闇鷹』が次々バラバラ……黒い灰と化して地面に墜落する。

「何しているの!?走って!すぐに第二波が来るわよ!!」

「でも、リュネさん達を放っては……」

「奴等もかつては“死肉喰らい”。つまり目的は坊ちゃま、あなたの“燐光”なのです!」

 この数日で何度驚いただろう。少し疲れたぐらいだけど、驚愕に値するのだから仕方ない。

「また……私が」

「行きましょう誠さん」

 美希さんが銀の銃を構えながらキッパリ告げる。

「……ええ。オリオール、中に入ろう。付いて来て」

 同族への避難勧告に声を枯らす弟を呼ぶ。

「兄様!」

 両側を支えられながら教会へ進む私の隣へ走って来た。美希さんとシャーゼさんが先行し、ドアを開けて私達を手招きする。到着するなり転がるように中へ。


「っはぁっ……ぁっ………!」


 流石に限界だ。仰向けに横にされたまま指一本動かせない。弟が小さな膝枕を貸してくれた。先に避難していた不死の人達も一様に心配そうな顔で私達を取り囲む。

「兄様!?お兄さん、早く血!」

 教会内にはリュネさんの他にも神父さんや靭さん、ラキスさんの姿も無い。皆外で戦っているんだ。“燐光”を奪われないために……。


 ドシン……ドシン……大地が断続的に揺れる。燐さんの言う通り『闇鷹』以外にも怪物は大勢いるようだ。


「?兄上、どうしたんだい?輸血道具を持っていないのか?美希」

「はい」

 腰のポシェットからチューブと針を取り出す彼女を、何故か友人は止めた。

「ウィルさん?」

「悪い、まーくん。―――エル、ここは神父様の家だ。向こうを探せば輸血パックの一つや二つ転がってる筈」生活空間へ続くドアを顎で示す。「手間を掛ける。済まん」

「まさか君、リュネ達を手伝うつもりかい?」

「!!?」

 戦う?不死族さえ殺す、宇宙一危険な怪物達と?

「あいつ等に全部押し付けるのもあれだしな。それに白鳩調査団としてのさばる“死肉喰らい”を放ってはおけないだろ?」

「馬鹿馬鹿しい!あんな化物共と戦うだと!?正気の沙汰とは思えん!」

「そうだよお兄さん!僕等でさえすっごく危険な相手なのに、生きてる聖族じゃお話にもならないよ!まして怪我してるのに!!」

 二人の説得にも団長は首を横にするだけだ。

「僕も反対。今は生きて“黒の星”を出る事が最優先だ。リュネ達には悪いが、耐えてもらう以外僕等に取れる手段は無い」

「ええ。私達がやるべき事は誠さんとウィルさん、あなたの治療です。気持ちは分かりますが……お願いします」

 薄茶色の瞳はやるせなさ、自分の非力さへの怒りで一杯だった。当事者でもないのにそう思い詰めないで欲しい。彼は一族ですらなく、まして根本の原因は、


「ごめん、皆」


 謝った彼は颯爽とドアを開けて飛び出していく。その姿を、とてもじっと横になって待つ余裕など無かった。


「待って!!」「兄様!!?」


 折れた身体の何処にそんな力が残っていたのだろう?私は自力で上体を起こし、後を追って外へ。

「っ!?阿呆!!」

「だって!ウィル、戻って!!」

 巻き込んだのは私だ。悪いのは全部私なのに!!

 振り返った友人は瞬時に顔を真っ赤にし、怒鳴った。

「何やってんだ!?早く中へ!!怪物共に見つかる前に!!」

「それはこっちの台詞だよ!!怪我人がいても邪魔になるだけ!一緒に戻ろう!!」

 辛うじて閉めたドアから身を離すが、肋骨の下で剥き出しの背骨がギシギシ断末魔を上げた。駄目だ……これ以上歩けない。動いたら絶対、折れる。

「まーくん!!?おい!しっかりしろ!!」

 剣を抜いたまま、彼は片腕で蹲った私を抱え上げた。

「分かった、分かったよ!傍にいるからじっとしていろ!!」

 キィッ。「もう!二人共何してるの!?早く中―――」半開きのドアからオリオールが手招く、途中で硬直した。

「?」

 視線の先。斜め上を私達は揃って振り返った。




 ドシン……ドシン……!!


 “黒の森”から広場に侵入してきたのは、体長五メートル以上はある漆黒の巨人。真っ赤な両眼に意志の色は見えず、氣も……探ろうとするだけで背筋に怖気が走り、とても触れられない。ちょっとした小屋並の円周がある脚から微かにオルゴールの音色が聞こえた。「このデカブツ、どうやら“泥崩”を取り込んでるみてえだな」燐さんが言う。

「あ、あ……」

 ペタン。恐怖の余りオリオールがお尻を搗く音が聞こえた。

 指に分化していない、布人形みたいな巨大な腕が振り上がる。狙いは間違える筈も無い。私達と、大勢が避難する背後の教会だ。

「くそっ!!」

 彼がハワードさんの形見の剣を横に構え、私の前に立ち塞がった。まさか、あの一撃を受け止めるつもり!?

「お兄さん……どうしてそこまで」

「エル!俺が防いでいる間に裏口から皆を逃がせ!!」弟の問いには答えず、ウィルは叫ぶ。

「無茶だ兄上!」

「いいからまーくんを連れて行け!詩野さんはオリオールを頼む!」

「そんな……あんまりです、こんな……」

 銃を下ろし、嫌々と涙を零す。その隣でシャーゼさんもこれ以上無い程眉間に皺を寄せていた。

「つくづく御目出度いホモ野郎だな!連中を囮に逃げりゃいいだろうが!!」

「んな事出来るか!!」

 巨人は一人ではなかった。見える範囲だけで五人。不死の人達は全員必死に戦っていて、とてもこちらを救助に来る余裕など無い。戦況はかなりの劣勢だ。“黒の森”は新手の怪物を吐き出し続け、結界に守られていた“都”を着実に破壊していく。

 よく見ると巨人の腕は数十人分のミイラで形成されていた。蝋化が進んでいるのか、意外と腐臭は無い。


「天破、早雲っ!!!」

 

 豪風が太刀から吹き上がる。が、巨腕は退かず、風圧で動きを一時止めただけだ。

「もう少し耐えて!氣を―――っ!かはっ!!」

 とうとう折れた背骨の音はやけに軽かった。上半身は後方に投げ出され、下半身がゆっくりと首の下へ倒れ掛かってくる。

「兄様!!」

 止める間も無かった。弟を先頭として、皆が一斉に扉から飛び出して私を取り囲む。これじゃ避難の意味が、

「だめ……皆、逃げて……」

 ここにいたら全員殺されてしまう。

「兄様を放ってなんて行けないよ!」

「そうです坊ちゃま」「“燐光”が治るまで、皆であなた様を運びます」「最後まで逃げ切りましょう。勿論お友達の方々と一緒に!」

「おい!だから私は……チッ!矢張り呆け者共だな。人の話を全然聞かない」


「ぐっ!!」見上げた友人の口から血が噴き出し、風か弱まる。振り返らないまま歯を食い縛り、血塗れの歯肉を剥き出した。「もう保たない!まーくんを連れて散れ!!」

  

 大急ぎで背後から複数の腕に因って抱え上げられる。けれど……駄目だ!もう防御壁も間に合わない!!

 私はせめて皆が潰されるのを見るのが耐えられなくて、瞼をギュッと閉じた。





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