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三十六章 一致結束



(ぐっ……!)

 呼吸で銃痕が広がりつつあるのか、段々激痛が強くなってきた。痛覚の鈍感な俺でさえ時折目が眩みそうだ。普通の人間ならとっくにショック死物だろう。だが、

(耐えろ!少なくとも……)

 腕の中の誠を見る。失血の限界を迎えれば、プルーブルーの時のように孤独な暗黒へ堕ちてしまうかもしれない。そんな彼にだけは無用な心配は掛けられない、絶対に。

「ウィル……撃たれた傷が、痛んでるんだね……」

 隠し通そうと思った矢先の言葉。反射的に、掠り傷だ、平気なんだ!声が大きくなる。

「あ、済まん。半死半生の人間の耳元で急に」

「大丈夫だよ……血が無くなったせいかな。さっきから耳が遠くなってて……」

「兄様!?ちょ、ちょっと!それ絶対ボーダーライン越えかけてるよ!!」

 反対側で手を繋ぐオリオールが頭を上げ、早くして大人達!このままじゃ兄様が死んじゃう!!歯を剥き出して叫んだ。

「ギャアギャア騒ぐな糞餓鬼!言われんでもそれぐらい分かっている!とにかく貴様は静かにしていろ!魔術の集中が乱れるだろうが!!」

「いや、お前も五十歩百歩の五月蝿さだぞ」

 鎖を掴む靭の突っ込みにフン、政府員は鼻を鳴らした。

「―――よし。これで切断出来る筈だ」

 三分近い印を結び終え、弟が紋様の浮き出た両手を鎖に掲げる。

「こっちの準備は出来てるぞ」「しくじるなよ」

 二人が何時でも飛び降りれるよう、処刑台から片脚を出す。

 すぅっ……深呼吸の後、エルは発動の呪文を唱えた。


「暁よ、ここへ!!」


 収束された熱源が鎖を瞬く間に融解し、ブチッ!!振動をいち早く察知した二人は切断を待たず、素早く住民達のいる地面へ飛び降りた。


「わああっ!!」


 シャーゼが半ばまで落下した所で上から引っ張られた。慌てて下にいるラキスが脚を掴んで引き摺り落とそうともがく。同じく引き上げられかけた靭は壁と垂直になりながら、どうにか降りようと後ろ向きに歩を進める。不死達も必死で綱を引くが、中々ギロチン自体が上がってくれない。どころか噛ませたジャッキがギシギシ悲鳴を上げ始めた。拙い!このままでは崩落で全員お陀仏だ!!


「合図と同時に全体重を掛けなさい!行きますよ?せーのっ!!」


 神父の掛け声と共に、不死のほぼ全員が倒れるように後ろへ腰を落とす。


「わっ!!」「ぎゃあっ!!」ドスドスンッ!!宙ぶらりんだった三人が相次いで墜落。唯一の生者は強かに尻を地面に打ち付け呻いた。


「「「今だ!!」」」

 

 凶器が浮いた瞬間を見逃さず、俺達は素早く誠の身体を引っ張り上げた。エルが脚側を持ってくれたお陰であっと言う間に救出成功。

 血塗れの断頭台の上から弟は不死達に告げる。

「やったよ!もう大丈夫。後はどうやってチェーンを固定するかだけど―――え?どうせ処刑台ごと壊すからこのまま放そうだって?それもそうだね。じゃあちょっとだけ待って。兄上」

「ああ。まーくん、乗れるか?よっと」

 幸い傷口は完全に押し潰され、プルーブルーの時のような内臓のはみ出しは無い。失血の分軽くなった彼を背負って俺達は飛ぶように階段を降り、急いでその場を離れる。

「もういいよ!」

 ふわっ。靭が手放したチェーンが宙を舞い、シュルシュルと上へ。そして、


 ガラガラガラガッシャーン!!! 

  

 ギロチンの重量に耐え切れず木の床が落ち、衝撃で連鎖的に周りの柱も折れた。ってか、最終的に瓦礫の山と化した。刃が予想外に重くなっていた事を除いても、殺傷能力だけで耐久性度外視だったらしい。完全に使い捨てじゃねえか。案外これも試作機だったのか?

「ウィル……下ろして」

「え?」

 返事も聞かないまま地面に足を付ける。真っ二つになっている人間のする事じゃない!慌てて俺とエルで両側から上体を支えた。

 彼は自分を取り囲む同族達を見回し、深く深く頭を下げた(勿論実際は俺達が途中で止めさせた。最敬礼でもされた日には、確実に残った背骨がボキリと逝って上半身と下半身が泣き別れる)。


「皆さん。助けて頂いて、本当にありがとうございました」


「彼等に礼など無用です」神父が軽く嘲るように言う。「坊ちゃまのお役に立つのは不死族として当然の義務。それすら出来ぬような無能は―――っ!!」

「そんなの人の勝手でしょ?ね、兄様?」

 早くも復活した脚で後ろから飛び蹴りをかました少年がケタケタ笑いながら戻って来た。あ、何人かウケを噛み殺してる。やっぱ恨まれてんな。

「駄目だよオリオール!済みません、ジュリトさん……」またもや頭を下げようとしたので腕でブロック。誠、自覚が無さ過ぎるよ、エルがぼやく。

「おい、あんまり坊ちゃんに体力使わすなよ。―――内輪の揉め事に巻き込んで悪かったな。王は何でかまだ降りて来てないが、とっととこの街を出た方がいい。お前等、馬は?」

「心配無い。念のためフィジョラムで馬車を借りてきた」まだ尻を押さえつつ、切れ長の目をこちらに向ける。シュールな光景だ。「ここまでの重傷者を運ぶ事になるとは思わなかったがな。レンタル料以外に清掃代を余分に渡さんと。当然経費で落としてくれるよな、聖王代理?」

「君の治療費もね。帰ったら一回レントゲンを撮った方がいい。アムリに頼めばすぐに予約を入れてくれるだろう?」

「さあな。病院へは母の見舞い以外行かんからな。よく分からん」

「君の上司の公安課長も心配してたぞ?せめて健康診断ぐらい受けなよ。タダなんだから」

「フン」

 父親の仇で頭が一杯で、自分は二の次って訳か。尖った生き方だな。しかし、

(こいつ、どうするんだろうなこれから……)

 ジョウン・フィクスを殺した奴が仮にこの群集内にいたとして、果たして復讐出来るのか?十数年分の憎悪は到底計り知れない。が、誰を殺した所で誠は必ず自分の事のように悲しむだろう。いや、仮令同族でなかったとしても……。

 もう一度、気付かれないよう対策委員の顔を覗く。初めて会った時より気持ち刺々しい雰囲気が大人しくなった気がする。母親の快復振りに影響されているのだろうか。

「君一人の身体じゃないんだぞ。なあ誠?」弟は何故か今にも失神しそうな奇跡使いに話を振った。

「え?健康診断って……よく中央病院で並んでいるあの?」力無く小首を傾げる。「横を通る度に思うけど、あれって何をしているの?診察にしては皆元気だし……」

「定期的な体調チェックだよ。重病で末期だと手の施しようも無いが、事前に発見していれば薬や手術で治療出来るだろう?まぁ病に無縁な不死族には関係無い制度だけどね」

「へえ……あれ、ならどうしてシャーゼさんは行かないんですか?いつも忙しそうだし、知らず知らずの内に何処か悪くなっているかも……」反対側に小首を傾げる。

「少なくともお前よりは遥かに健康だ」苛立たしげに舌を打つ。「つまらない私語を挟んでいる場合かエルシェンカ?こいつが更にお荷物になる前に、とっとと詩野と合流して帰るぞ。そこの裏切り者も」狙撃手を睨み付ける。「貴様しか船の操縦免許を持っていないんだからな。くれぐれも妙な真似はするなよ?」

「分かってる。―――済まない、ウィル。もうしばらく我慢してくれ。代わるよ」

「いや、大丈夫だ。その、あんま」気にすんなよ?と続けようとした時だった。


「大変です!!」





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