三十一章 助っ人登場
パパパパァンッ!!!「ぎゃあっ!」「ぐわっ!!」
激しい破裂音と閃光が操作盤周辺の黒服の人達を襲う。突発的な事態に慌てふためく彼等の前に現れたのは、
「な、何だ!?」
高さ一メートル以上の空中を動く、真っ黒なソフト帽とベージュのマフラー。戦場でも凡そ有り得ない光景に口をあんぐりさせる。
「女性に対する態度がなってないね」
くぐもった声の直後、帽子の横から燃え盛る炎がスーツに飛んだ。不可視の攻撃者に『紅鶸』の半分近くが瞬間的なパニックを起こす。移った火を叩き消しつつ、我先にと“黒の都”の出口へ殺到する。
「何をやっているのです六種が!?契約違反ですよ!!」
ジュリトさんが注意するも、一度走り出した脚は止まらない。
「えいえーい!」女の子の弾んだ声がし、パパパンッ!!逃げる彼等の背に追い討ちが掛かる。「ほらほら!逃げないとドンドン当てちゃうよ!!」
「どうなってやがる!この臭い、爆竹か?」
「その声、由香なの?一体何処!?」
二人が周辺を見回すが、少女の姿は無い―――視覚的には。
「ラキス!無法者共を即刻射殺しなさい!!」
「んな事言ったって、見えない相手をどう撃てば」
「阿呆が!あの巫山戯たアクセサリーを目印に撃ち抜けばいいでしょう!―――もう結構!坊ちゃまの推薦だからと今まで目を掛けてやっていましたが、どうやら見込み違いだったようです!!」
私の?あれ、でもオリオールの話では、テストの受験者は外から連れて来られるんじゃなかったの?聖族の彼と事前に知り合う機会があるとは考えられないけれど……燐さん、知ってる?
「勿論。けど正直どうでもいいだろ?過去がどうあれ、今目の前に立っている男は不死族だ」確かに。
イライラした神父さんはポケットから拳銃を取り出し、マフラーに照準を合わせて発砲。が、
「!!?」
着弾の直前、帽子とマフラーは重力に従って落下した。外れた銃弾が後ろの民家の壁にめり込み、バチバチバチッ!放電を起こす。
「物騒な武器だなあ。当たったらほぼ確実に即死だぞ」
「ちっ、卑怯者め!何処へ逃げても無駄ですよ!!」
「!?今の声、まさか……」
断頭台のウィルもやっと気付いたようだ。しきりと辺りを見回し始める。
一度解かれた拘束を続行するため、ラキスさんは操作盤へ走る。
「動くなよ詩野さん」ライフルの銃口を白い額に突き付けた。「おい透明人間。人質の命がどうなっても――――っ!?」
叫びが止まり、硬直した頬を冷や汗が伝う。
「僕の可愛いフィアンセに銃を向けるな、ラキス。罰としてお前は向こう三ヶ月休み無しだ。死ぬ程こき使ってやるから覚悟しろ―――バンッ!」「ひぃいっ!!」
ドスン!鬼気迫る銃声の真似に吃驚仰天、前のめりに倒れる。取り落としたライフルを素早くシャーゼさんが私達の方へ蹴飛ばした。「預かっておけ小晶!」
「はい!」
手を伸ばしたけれど、思ったより重い。仕方ない。簡単に取り返されないよう銃身を踏む。
「エル……なのか、マジで?」
腰の抜けた狙撃手はズルズル、と声の方へ姿勢を変えながら問う。
「当たり前だろ、ねえ美希?」「勿論です、ふふ……」
含み笑いながら彼女がハンカチを右肩の上へ当て、中空を撫でるよう拭く。すると―――金髪の頭頂から半面青紫色の顔、幾何学紋様の浮かぶ首筋。まるで手品のように懐かしい友人の姿が現れた。
プルーブルーで私が掛けられたのと同じ変身の魔術だ。望む姿は何も可視の物とは限定されていないらしい。先程落馬から助けようと手を伸ばしてくれたのも彼だ。
「な!?詩野、貴様同乗しているのを知ってて私に黙っていたのか!?一体何処に隠していた!?」
「済みません。フィクスさんは正直者ですから、教えない方が良いとエル様が」くすっ。「万一ラキスさんに気付かれたら作戦は失敗でしたし」
「仮令約束していても、何かの拍子に絶対口走るだろうからね。大体君、ずっとラウンジでしくしくしくしく泣いていたじゃないか」
「誰がそんな女々しい真似をするか!?撤回しろ!!」
電話の後も?そこまで心配してくれたなんて……。
「あぁ、にしても」んー!猫のように背中を伸ばす。「流石にあの狭くて五月蝿い貨物室にずっと潜んでいるのはキツかったよ。ノイズキャンセラーと積読の本、美希の差し入れの特製コーヒーが無かったらとっくに発狂していた。そうだリュネ」まだ透明な右手を上げる。「受け取れ!」
ブゥン!下手で投げられた物体は、魔術の効果範囲を離れて銀色の銃身を現す。パシッ!手に取った瞬間、科学者はクルッと両手で構えて臨戦体勢を取った。
「可愛い助手じゃないか。そいつを取りに行くついでに色々中を紹介してくれたよ」
「なっ!!?」さっ、と朱に染まる技師の頬。「由香!!部外者は研究所に入れるなってあれ程……今回だけ、非常事態だから赦すのよ。いいわね?」
「?何赤くなってるのリュネ?あれ、もしかしてこのお兄さんが前に言ってた」
「由香!!」
ケラケラ、教会の前で少女は笑う。
「さ、そろそろお姫様も魔法を解く時間だ。こっちにおいで」
「えー、まだいいでしょお兄さん?パチパチ爆弾だってまだ残ってるし」
「由香、実験サンプルを玩具にしないの―――形勢逆転ねジュリト」
雷銃を同胞に向け余裕の発言。
「馬鹿な。まだ六種達は半分以上残って」
「片付いたぜ」パンッパンッ。黒服の山を完成させた靭さんがニカッと歯を見せて笑った。「筋肉達磨だからって忘れてもらっちゃ困るな」
「馬鹿はどちらかしらね?」
「くっ……」
未だ腰の抜けたラキスさんを立たせ、四人は私達の方へ。
「ま、待ってくれエル!俺は妹の命を盾に無理矢理」
「心配するな。シンディ・フォナーの部屋を覗いていた不審者は、今頃留置所でこってり油を絞られている筈さ。まあ今回は多少情状酌量の余地があるし、公にするのは勘弁してやる。その代わりそろそろ事情を説明しなよ。いいね?」
「ああ……」溜息。「けど、正直一人じゃ不安だ」
「美味しいコーヒーと菓子さえ準備してくれるなら、僕と美希は何時でもお相伴に預からせてもらうけど?」紋様の浮かぶ手で私を示し「何ならこちらの姫君にも御同席頂くかい?」
「―――はは。お前は相変わらずだなあ」
何かが吹っ切れたらしく、狙撃手さんは政府館でいつも挨拶してくれる顔に戻った。
私は頭上を見やる。「待っててウィル。すぐに助けるからね」
命を奪う程の暴力の真下にいるのに、転ばないように気を付けて上がって来いよ、友人はさして慌てもせずそう言った。暢気だなぁお兄さん、腕の中のオリオールも呆れ顔だ。
彼を抱えたまま立ち上がり、処刑台へ一歩踏み出した。その時、
「え?」
キィン。一瞬軽い耳鳴りが襲った。




