二十四章 二重過去の謎
「「えっ?」」
ウィルが驚く横で、私達も声を上げた。
写真には三人の人物が写っている。画面左側に立つ母と、その腕に抱えられる黒い髪の幼子(私?)―――そして右側には、
「ウィル……?」「へ?」
頓狂な反応の彼と瓜二つの顔があった。
「な、何でお兄さんが王様と?知り合いだったの?」
「そんな訳無いだろ。少なくとも俺は初対面だ。それより」
母子が幸せそうに微笑む隣で、友人にそっくりな男性は恥ずかしげに右端を向いている。
「この子、やっぱまーくんだったんだな……面影がある」
「?」
「いや、こっちの話だ」首を振る。「今は余計な事を考えている場合じゃないな。よっと」
ノートパソコンを開け、躊躇いがちに電源ボタンを押す。
ブゥン……。
暗黒のモニターが青空の壁紙に変わり、リュネさんの言った通り勝手にセキュリティ操作画面が開いた。私はマウスを動かし、一番上にあった『全解除』にチェックを入れて実行ボタンを押す。
『管理者パスワードを入力して下さい』
「ウィル、ネスト、っと」
メモを見ながら注意深く人差し指でキーボードを押し、三人で一緒に確認してから送信をクリック。
『………プログラム承認。セキュリティを解除します』
「これでいいのか?」特に変化の無い部屋を見回し、友人が半信半疑に呟く。
「多分。一階へ降りてみよう、二人共」
電源を落とし、パソコンを閉めながら私は言った。
「やっと出られるね兄様。でも、結局このパスワードって何だったんだろう?」
「もしかして……」写真を指差す。「あの人の名前、なのかな?燐さんは知ってる?」
「さあ?俺もここに入るのは初めてだしな、知らねえよ」
わざわざ私室に飾るぐらいだ。きっととても親しい人だったに違いない。
「仮令ばったり会っても、ウィルの顔を見れば冷静に話し合ってくれるかも……」
「甘いな」同じ口が希望をバッサリ斬り捨てる。「あいつが情に絆されるって?冗談言うなよ」
「でも」
無差別大量殺人犯だが、彼女は本当は優しい人だ。私を労わる様子からも痛い程伝わってくる。だから―――どうしても皆のようには憎めなかった。
「マトモな人間が街を焼いたり、人を数百年も監禁して人形みてえに散々弄ぶってのか?」ペッ!絨毯へ唾を吐き捨てる。「とんだ甘ちゃんだ」
「僕も燐のお兄さんの意見に賛成だよ。兄様は優し過ぎる。世の中には頭のおかしい人がごまんといるんだ。あの天使様や“死肉喰らい”、王様だってそう!」
確かに弟が暴行されたと知った時、流石の私にも負の感情が生まれた。けれど、それは憎悪ではない……どうしようもない悲しみと、彼が受けたであろう苦痛の幾許かだ。
“燐光”の上を押さえる私に、オリオールは更に言葉を重ねる。
「止めて!あいつはれっきとした悪者だよ?兄様が幾ら心を痛めても無駄なんだ!!」
おかしいの、私?二人にある憎しみが、理解は出来てもこの魂に宿らない。
「お前等いい加減にしろ」
それまでの沈黙を破ったウィルは腕を組み、弟と私の中の燐さんを睨む。
「何で止めるの!?お兄さんだって嫌いでしょ!だったら」
「ああ憎いさ。けどそれと、まーくんがどう思ってるかとは別問題だ。真っ当なのは認めるが、人に意見を押し付けんな。分かったか?」私の肩に手を置き、やれやれと首を横にする。「見ろ、お前等が責めるから怯えてるじゃないか」
「!?ぼ、僕、別に責めてなんかいないんだよ兄様?―――ごめんなさい。ほら、燐のお兄さんも謝って!」
「ヤだね。俺は正しい事を言っただけだ」鼻を鳴らす。「じゃれてる場合じゃねえだろ。行くぞ」
「え、ええ」
私達は部屋を出て、元通り鍵を掛けた。脱出の前に鍵束を戻しに行かないと。
何事も無く螺旋階段を降り、一階の玄関ホールへ。丁度ワームレイさんが壁を石膏で修繕中だったので声を掛ける。
「ありがとうございました。お陰で出られます」頭を下げる。「あの、これ戻しておいてもらえますか?」
「これは御丁寧にどうも」
彼は使っていたコテを一旦置き、差し出した鍵束を汚れないようタオルで受け取る。ゴソゴソ、纏ったシーツの隙間へ入れた。
「大事な絨毯を汚して済まなかった。じゃあ建築家、達者でな」ウィルが手を上げて別れの挨拶をする。「普通に玄関から出ていいんだよな?」
「ええ。―――出られるなら、の話ですが」
「へ?」
バタンッ!!




