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十九章 決意



「阿呆、ボケナス、大馬鹿者、どうしようもねえホモ野郎!」

「あぁ、分かった分かった……お前の言う通りだよ」

 城での出来事と共に紹介された“黒の燐光”の人格、小晶 燐の悪口に反論する気力も湧かない。しかもこっちが初対面のくせに全部合ってやがるし。

 ワゴンに乗った数枚の皿から適当に料理を摘む。どれもこれもプロの料理人真っ青な美味さ。スイーツでさえ爺と同格とは、つくづく恐ろしい女だ。

「ウィルを責めないで燐さん。……ごめんね、二人共。私のせいで……」

 悪魔が立ち去り、ベッドに座った天使が見る見る両目に涙を溜めていく。

「兄様は悪くないよ。うぅ、神父様めぇっ!今度会ったら本体に戻って、後ろ脚で思い切り蹴飛ばしてやる!!」

 少年が隣で吠えるも、誠の自責の念は些かも和らがないようだ。

 確かに奴の告白は、俺達の立場を決定的に変え得る力を持っていた。だが、


「……帰って来たら私、かあさまに謝る。もう二度と外へ行こうなんて考えない、一生鎖を付けられてもいい。だから二人を赦してあげて……って」


 彼は微笑む。

「それが一番良いんだ。私が“都”を離れたら、きっとまたかあさまは宇宙中を捜し回って沢山の人を殺してしまう……私、皆と友達になれて嬉しかった。ここでの暮らしも悪くないよ?不死の人達は凄く優しいし、“魔女”……かあさまも本当に私を心配してくれる。幸せ、じゃなきゃおかしいよね……?」


「間違っている、そんなの!!」


 以前より小さくなった両肩を強く掴む。右側に違和を感じつつ俺は大声を出した。

「だってお前は、小晶 誠は今にも壊れてしまいそうじゃないか!!認めろよ!ちゃんと認めて」

「私が……壊れそう?」小首を傾げる。

「誰かのために犠牲になるなんて馬鹿げてる。そうやって守られた世界に、一体どれだけの価値があるって言うんだ?」

「ならウィルは皆が死んでもいいの?街が焼かれて、大勢の人々が灰になって―――世界が滅んでも」

「ああ」

 きょとん、とされた。「え……?」

「俺はまーくんが奇跡で人を癒す時、すごく一生懸命なのを知ってる。勉強熱心で外界の事を少しでも知ろうとしているのも、本当は輸血が嫌で嫌で仕方ないのも」

 寝椅子の上、毎回申し訳無さそうに謝る姿を思い出す。

「関係無い……そんなの。ウィルだって本当は嫌だったんでしょ?何時間もじっと痛いのを我慢するなんて」

「全然」

「まさか」ふるふる。「嘘に決まってる」

 至って本心なんだがな。恋する彼を元気に出来る、その何処に嫌いな要素があるって言うんだ。

「今のまーくんは全然幸せそうじゃない。もっと自分勝手に生きろよ。宇宙のためとか、母親や同族のためとかじゃない。自分の思うままに行けばいい」

「何、言ってるの……?赦される訳、無い」

 黒目を伏せ、静かに涙を零し始める。

「私の心臓は“黒の燐光”なんだよ?つまり今までの事件や、かあさまの暴走の原因……私さえいなければ、多くの命は失われなかった。そうでしょ?」

「違う!兄様は何時も被害者だったじゃないか!なのに何で」

「オリオール……私だって、皆ともっと一緒にいたい。白鳩の仕事も……でも駄目……私がいるだけで酷い迷惑を掛けてしまうから……」

 思わず圧し潰れてしまいそうな程縮こまった身体をキツく抱き締めた。今にも折れそうで、冷たい。ついでに隣の少年へも腕を伸ばす。「わっ!!」吃驚した声を上げつつも、抵抗は無かった。「お、お兄さん?」

「その気持ちだけで充分だろ?な、オリオール?」

「うん。そうだよ兄様。出よう?三人一緒に」

 えへへ、と笑って頬を横腹に擦り付ける。

「きっと皆、僕等の帰りを待ってるよ?あ、そうだ!聖樹さん、ケーキどうしたのかな?お兄さん食べた?」

「いや。俺もそれどころじゃなかった」そういや爺が言ってたな、ショートケーキ……火事が起きて結局未完成か。食べられなかったのは残念だが、まだ二人は生きている。今度は必ず俺も手伝おう。

「……食べたかったな。折角上手だって褒めてもらったのに」

「また作ればいいさ。何個でも、何十個でも」

 俺の言葉に、黒い瞳の中で小さな希望の光が灯る。

「そう、だね……私、今度はチョコレートケーキが作りたいな……」

 囁いてぎこちなく微笑む。

「燐さん、私……出るよ」

「やれやれ。俺はずっとそれしか言ってなかったぞ。お人好しの坊やが、ウダウダ悩むだけ時間の無駄だっての!」

「ふふ……改めて宜しくね、ウィル」

「僕もね!」

「ああ、勿論!!」

 俺は二人をぎゅうっ、と強く抱いた。


「白鳩調査団は、お前達の帰還を心から歓迎するよ!」





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