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十五章 至宝の聖域へ



 数分後、男の家へ到着。前を歩くリュネがチャイムを押そうとした時、背後から野太い男の声で呼び掛けられた。

「靭」

「よう。ん?そっちは坊ちゃんの友達と……こいつは?」タオルを巻いた男を指差し、鼻をヒクヒク。「何か血生臭いぞ」

「この家の主よ。ジュリトのいつもの癇癪の被害者。頭部を大分損傷しているの。早く治療しないと」

「って、お前も脚怪我してるじゃねえか!一体何でやられた!?手当ては」

「大丈夫。私の分は彼が弾を摘出してくれたし、そっちは全部貫通して恐らく体内に残っていないわ。悪いけれど手を貸して。彼、呼び出されているの、あのイカレた“信仰者”様に」

「分かった。そら」怪我人の逆の肩を軽々支え、大男はチャイムを押す。すぐに夫人らしき女性がドアを開けて出て来、重傷の同居人に顔を真っ青にした。

「ウィルベルク、行って。ここは私達で説明しておくから……くれぐれも気を付けて」

「サンキュ」

 後を任せ俺は一路街の奥地、“黒の城”へ向かいかけた。が、反転して靭の元へ。

「?どうした?」

 手短にリュネが神父に歯向かい、反逆の濡れ衣を掛けられた事を説明した。

「げ。そいつは厄介だな」

「何とか匿ってやってくれないか?魔術機械は不死の文明に多大な貢献を齎した筈だ。その開発者を抹殺なんてとんでもない暴挙だぞ」

「当たり前だ。よし、他の皆には俺から協力要請しておく。あいつのドS振りは日常茶飯事だ。仮令裁判になっても、流石に過半数以上の反対じゃ処刑は出来ねえだろう」

「一応民主主義が通用するんだな。安心したよ」

 そこで丁度、怪我人を部屋へ運び終えた本人が玄関へ戻って来る。

「まだ何か用?早く行かないと臍を曲げられて終わりよ。坊ちゃまに会いたくないの?」

「ああ、済まん。ありがと、じゃあな」

 城へ続くメインストリートを急ぎ脚で駆け抜ける。近付く程、改めてその巨大さに驚嘆する。この中に誠と女王、“炎の魔女”が―――!

 途中で何人かの不死族と擦れ違うが、必死に走る俺を呆気に取られて見るばかりだ。本来ならば試験を受けない怪しい異邦者は捕まえるルールの筈。さっきの集会の様子と言い、根は平和で穏やかな人々らしい。一人を除いて。

「あ、そうだ」

 シャツの両袖のボタンを留め、手錠の傷が見えないように隠した。下手に心配掛ける訳にはいかない。

(そういや俺、爺に何も言わずに出て来ちまったな……)

 宇宙船の中で一言電話連絡しておけば良かった。今頃心配して捜索願を出しているかもしれない。何せ吐く程呑んだくれた上の失踪だ。普通の神経なら自殺を考える。

(しかしエルは驚くだろうな)

 捜し回っていた“魔女”が、まさかこんな辺境の街にいようとは。だがどうする?誠の母親を逮捕(恐らく即死刑判決だ)……彼は思い出したのか、彼女の事は?




「ああ、やっと来ましたね」


 城の正面玄関の傍、闇桜の幹に隠れるように神父は立っていた。

「随分遅かったですね。坊ちゃまよりもあんな下賎の男の方が大事ですか?」

 実に不快げに眉を顰め、キャンキャン吠える犬の臭いが移ります、余り近付かないで下さい。皮肉に初めて衣服のあちこちが血で汚れている事に気付く。誠に再会したら真っ先に説明が必要だ。

「まさか。で、どうするんだ?ここまで呼び出したんだ、入らせてくれるんだろ?」

「ええ―――この反対側、裏の窓の鍵を開けておきました。付いて来て下さい」

 ザッザッ……。奇妙なギザギザの葉の雑草が生えた上を歩き、城の外壁に沿って半周。窓を覗いてみたが照明は無く、人影も見当たらなかった。こんな広大な建物、使用人の十人や二十人いてもおかしくない。

「キョロキョロしてどうしました?」

「ああ、いや。もし一階にメイドや衛兵がいたら侵入を咎められるかと思って」

「その心配はありません。ここに住まうのは坊ちゃまと王、後は城の施工主だけです」冷笑。「“黒の城”は聖域。下賎上がりの者共は、許可が無ければ立入る事さえ出来ません。違反した場合は」

「然るべき処罰だろ、大方?」

「話が早くて助かります。ああ、因みに私は許可保有者ですよ。王より坊ちゃまの健康管理を任されておりますので」ムカつく程誇らしげに胸を張った。

 よく考えなくても当然の法律だ。この中にあるのは至宝“黒の燐光”。幾ら同族とは言えホイホイ出入りされては困る。現に一度余所者に盗まれた訳だし。取り戻せたら今後はもっとセキュリティを厳しくすべきだろう。

 目的の窓に到着。神父が手で押すとキィ……半開きになった。窓枠までの高さは約一メートル半。壁に足を掛ければ充分登れそうだ。

「どうぞ」

「入る前に一つ―――俺が何をしようとしているのか、分かってて手を貸してくれてるのか?」

「ええ、勿論」

「何故だ?仲間を連れて行かれる事は、どう考えても不死族の利益になるとは思えない」さっき見た光景で証明された。誠は紛れも無く特別な存在だ。「なのにどうして」

「いいえ」

「何?」

 奴は不気味な程のアルカイック・スマイルを見せた。数秒置いて背筋に怖気が走る。

「ウィルベルクさんの勇気ある行動は、我々に素晴らしい恩恵を齎すでしょう。安心して行って来て下さい」

 有無を言わせず、疑問を挟ませぬ断言振り。従う以外の選択をした場合は推して知るべしと言った所か……。

「あ、ああ。ところで“魔女”はまだ中に?」

「それは大丈夫。つい先程出掛けられました。あなたは坊ちゃまを連れ、またここから出て来さえすれば宜しいのです。教会へ戻り次第、船着場まで行く馬を貸しましょう」

 怪し過ぎる。が、他に彼を外界へ連れ戻す手段は無い。


「よっと」


 ガッ!爪先に力を込め、一気によじ登って部屋の中へ。どうやら物置のようだ。様々な大きさの木箱がそこかしこに置いてある。

「まーくんの寝室は?」

「四階です。―――どうかお気を付けて」

「ああ、案内ありがとう」

 一応礼を言い、俺は城内へ続く扉へ向かって歩き出した。





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