表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/41

十四章 “魔女”の正体



「あら?」玄関の方から高い女の声。「どうしたのまーくん、そんな所で?まぁ……泣いていたの?目が真っ赤よ」


 バッ!機敏に細い身体が離れ、鍵穴から声の主が見えた。

「いいえ、かあさま。何でもありません」

「本当?」

 燃えるような深紅のウェーブ長髪と同色の瞳。誠と似た白いドレスを優雅に纏い、ヒールやマニキュアも上品な赤で統一している。美人だ、それもそんじょそこらではお目に掛かれないぐらいの。

「王よ」

 あ、思い出した。この女、確か天宝商店で勇敢にも単身首狩り娘を追い掛けて行った奴だ。不死族だったのか、道理で、

「別名“炎の魔女”とも呼ばれるわ」

「!!!?」

 あ、あいつが“魔女”!?聖族政府と警察が全力で捜索する、無差別大量殺人の指名手配犯……そんな奴が誠の母親で、不死族の長?そうか、だから火事の現場からここへ移動を。


「お母さん、これからちょっと出掛けないといけないの。出て来て早々悪いけれど、部屋に戻ってもらえるかしら?ご飯はお部屋に用意してあるから」

「はい、かあさま」

「良い子ね。じゃあお城に帰りましょう」

 そう言った次の瞬間、女王はサッ!と息子を胸の前で抱え上げた。細いのに意外と怪力だ。

 横抱きにされた誠に、片膝を着いた神父が声を掛ける。「坊ちゃま、今度はもっとお話をしましょうね」

「……はい」

 玄関外までギッシリいた人々が一瞬で左右に割れ、口々に彼へ声を掛ける。温かくなさって下さい、ゆっくりお休み下さい、今年の祭りは是非御参加を―――どの言葉にも誠への親愛の情が溢れていた。

(辛いだろうな……)

 応えようにも、優しい彼にはここでの記憶が無いのだから。

 王族二人が完全に出て行くと、他の住民達もぞろぞろと教会を後にし始めた。と、一人の中年男が人の波に逆行しこちらへ向かって歩いて来る。


 コンコン。「あの、済みませんお客人」


「何だ?」応じない訳にもいかず返事をした。

「先程この教会へ入る所をお見受けしたのですが、あなた様……もしかして、“白の星”の環紗で坊ちゃまと御一緒だった方ではありませんか?」

「!?あ、ああ、多分な。見てたのかあんた?」

「ええ。朝方えらく目付きの悪い刑事に連れられて、食堂に入られた所を大通りから」

 ぷっ!刑事か、確かにな。兄弟揃って健全な朝食を食わせられた時の事を思い出し、俺は心の中で苦笑した。

「あそこは私の行きつけでして。あの時は他人の空似かと思ったのですが……坊ちゃまが外界にいたと聞いてもしや、と。本当なのですか?」

「ああ。記憶を失くした彼は、つい最近まで俺の近所で暮らしていたんだ」

 真実に息を呑む男。

「道理で変だった訳です……私達に対しても、まるで初めて会うかのような態度を取っていましたから。そうですか、記憶が……」

「余り言い触らさないで」リュネが口を挟んできた。「無用な混乱は秩序を乱してしまうわ。お願い」

「リュネ様?そこにいらっしゃるのですか?行進の間、姿が見えないと思ったら」

「彼の話し相手を命じられていたの。それより早くこ」


 バンッ!


 再びの銃声。「ぎゃあっ!!」鍵穴から見える倒れた男は、無残にも頭の左半分が吹き飛んでいた。

「全く、今日はよくお喋りさんがいる日ですね」

 カチャン。外鍵が開き、俺は怪我人を支えて懺悔室を出た。

「う、うぅ……申し訳ありません、ジュリト様……」

 男は呻きながら、ぐずぐずに崩れた頭を床に付けて土下座した。立ち昇る血と脳漿の臭いが鼻を突く。

「彼に接触する権利などあなたには無い筈ですが?」


 バンッ!バンッ!!


「ひっ!?や、止めてジュリト!彼はもう充分反省しているわ!!」

 潰れたトマト状の物から目を覆い、女性科学者は懇願する。が、

「困りましたね。私は生憎『ゴミ』の言葉は習得していません。はて、何と言っているのやら……」


「―――を呼ぶぞ」


「?」

「手前が愛して止まない坊ちゃまを呼んでやるぞ、と言っているんだリュネは」

 パッ!と腕を広げた。

「重傷者二人に凶器付きの加害者。この惨状を見たら、彼は一体どう思うだろうな?」

「馬鹿馬鹿しい。あの方は帰路に着きました。彼女等では到底追い付ける筈が」

「じゃあもし、俺が表に出て大声で王の悪口を言ったらどうなる?」ニヤリ。「取り敢えずカンカンに怒って追い掛けて来るだろうな、彼を担いだまま。でだ、もし『偶々』逃げ込んだ場所が血の海と化していたら」

「―――面白い事を言いますね。脅すつもりですか、愚か者の聖族風情が」

「先に脅したのはそっちだろうが。おい、立てるか?」

「ウグ、ググッ……」

 声帯も破壊されたらしく、人間とは思えない音がした。頭の両側が無くなり鼻と口だけの顔になった彼は、それでも何とか俺の肩を借りて起き上がる。

「ズビ……マゼン……ゴベイワグヲ」

「気にするな。リュネ、彼の家は?」

「待って」

 彼女は脚を引き摺りながら一旦玄関を出、三分程度して戻って来た。手にした黒いバスタオルを怪我人の頭から被せる。

「表は子供も遊んでいるから」

「やれやれ、天晴れなお人好し振りですね。―――ウィルベルクさん。それを運んだら急ぎ“城”の裏までお越し下さい。何の話かは」クスリ。「流石に分かっていますよね?」

「ああ」

 裏の黒い悪意をヒシヒシ感じつつ、やっと彼に再会出来る喜びを噛み締めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ